ポアロのクリスマスのネタバレ解説・あらすじ・相関図・感想

ポアロのクリスマスのネタバレ解説・あらすじ・相関図・感想

アガサ・クリスティのミステリー小説『ポアロのクリスマス』。この物語は、平和や善意が行きわたるはずのクリスマスに悲劇が起こる、ポアロシリーズの長編小説第十七作目です。

そこでこのページでは、「人物相関図」や「物語のポイント」を確認しながら、本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説の前に、最終的な人物相関図とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

最終的な人物相関図

以下は、本作品の登場人物の最終的な相関図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

相関図

あらすじ

◆ リー家の人々と客人

ゴーストン館の主人で大金持ちのシメオン・リーが、クリスマスに息子たちを呼び寄せる。言いなりのアルフレッド、亡き母に囚われているデヴィッド、お金にうるさいジョージ、放蕩息子のハリーを。

加えて孫娘にあたるピラールと、南アフリカ時代の仲間の息子のスティーヴン・ファーが来客。こうして欲望のままに生きてきたシメオンの、極めて悪趣味なクリスマス・パーティーの参加者がそろったのである。

◆ シメオンの絶命

クリスマス・イブの昼にシメオンは家族を集め、遺言書を書き換える旨の電話をわざと聞かせる。さらに亡き妻を侮辱したりして、息子たちにある怒りを増幅させた。

その夜、夕食が済み各々自由に行動していた頃、シメオンの部屋からもの凄い騒音と叫び声が響き渡る。閉まっていたドアを壊して中に入ると、格闘の跡とおびただしい血の中にシメオンが横たわっていた。

◆ ダイヤモンドと密室

サグデン警視は夜8時頃にシメオンに呼び出され、ダイヤモンドが盗まれた件について相談されたという。しかもシメオンは盗んだ人物に心当たりがあったらしく、9時15分にもう一度戻ってきてほしいとサグデンに妙なお願いをしていた。

窓は開いても数インチでシメオンの部屋は密室だったが、鍵で外からドアを閉めたことが判明。ポアロ、ジョンスン大佐、サグデンの3人はゴーストン館の人々を呼び、騒ぎがあったときのことなどを聴取する。

◆ 血の悲劇

盗まれたダイヤモンドは、なんとリディアが作っていた箱庭の中から発見された。しかしリディアは騒ぎのあった時刻にトレッシリアンに目撃されており、いちばん怪しかったホーベリーもアリバイが証明される。

例に漏れず遺産問題でリー家の一同がもめた後、ポアロによって真実が明かされる。シメオン自身の血がもたらした悲劇が。

解説と考察

それでは本物語の解説と考察に移ります。

黒幕と動機とトリック

シメオン・リーの命を奪ったのは、警視のサグデンでした。サグデンはシメオンの隠し子。母や自分に対してしたシメオンの非道な行いを、長年恨み続けていたのです。

命を奪ったのは最初の訪問のときの夜7時45分から8時。その間、自分に疑いが向かないようにするため次のトリックを仕掛けました。

  1. ダイヤモンドを奪う
  2. 部屋の中にあるものを積み上げる
  3. 泣き声を発する風船を木釘で止める
  4. ロープを2と3に巻き付けて窓から垂らす
  5. クエン酸ナトリウムを入れた動物の血をまく
  6. シメオンの血にもクエン酸ナトリウムを加える
  7. 暖炉の火を焚き直す
  8. 部屋の外からヤットコなどを使い鍵を閉める

ダイヤモンドはゴーストン館を出たときに箱庭に隠します。クエン酸ナトリウムは血を凝固させないための処理で、暖炉を焚いたのもシメオンの体温低下を防ぐため。密室にしたのは、自分の計画より前に遺体を発見をさせたくなかったからです。

そして9時15分、サグデンは窓から垂らしておいたロープを引っ張ります。これで部屋に積んであったものが崩れて叫び声も聞こえるため、まさに今騒ぎがありシメオンの命が奪われたとみせかけたわけです。自分はゴーストン館の外にいるので、容疑が向くことはありません。

しかし計算外のことが一つ起こりました。現場に駆けつけ手早く回収しようとした風船の残骸と木釘を、ピラールが拾ってしまったのです。加えてサグデンのことを若いころのシメオンに似ていると何気なく言ったことで、ピラールは命の危機に瀕してしまいます。

9時15分のアリバイ

サグデンの計画通り、最初は9時15分にシメオンが息絶えたと見られたため、ゴーストン館にいた人物はアリバイを調べられました。以下の表は、9時15分に関係者が実際にいた場所の一覧です。

人物名 いた場所 していたこと
アルフレッド 食堂 ハリーと口論
リディア 客間 外を見ていた
ジョージ 書斎 電話の後に書類の調査
マグダリーン 階段の裏 ジョージの電話が終わるのを待っていた
デヴィッド 音楽室 ピアノで葬送行進曲を演奏
ヒルダ シメオンの部屋の前 家を出て行くことを話そうとしていた
ハリー 食堂 アルフレッドと口論
スティーヴン 舞踏室 レコードをかけていた
ピラール シメオンの部屋の前のくぼみ 女性がいたので隠れていた
トレッシリアン 食器室 後片付け

最初の証言でウソをついていたのは、マグダリーン、ヒルダ、ピラールの三人。マグダリーンは男友達に電話をかけようとしていたのを知られたくなかったから。ヒルダはデヴィッドと家を出ると話しに行き、ピラールはご機嫌取りに向かったのですが、騒ぎがあった時刻にそんな場所にいたと言ったら自分が疑われると思ったためでした。ジョージも電話を終えていたためウソと言えばウソで、実際はアルフレッドの書類を盗み見ていました。

マグダリーンは関係ないですが、ヒルダとピラールは最初から正直に話していたらと思います。なぜなら二人の証言により、騒ぎがあった時刻にシメオンの部屋から誰も出てこなかったことが立証されるからです。つまりそれは騒ぎ自体が偽りだったことの証。疑われたくなかったとはいえ、二人の偽証が混乱の一要因になったといえます。

伏線

サグデンに加えスティーヴンもシメオンの息子、ピラールはジェニファーの子ではなかったと、三人が自分の身元を隠すまたは偽っていました。その秘密の伏線がシメオンの性格。ポアロが何度かシメオンの性格を言及したのも、「容姿や癖などを見よ」とのヒントだったのだと思います。

特に顕著なシメオンの特徴は以下です。

  1. ワシのように高い鼻
  2. 長く鋭い顎
  3. 頭を後ろにそらせて笑う癖
  4. 考える時に顎をなでる癖
  5. 恨みを晴らすための忍耐力

これらに着目すると、サグデンやスティーヴンを含むすべての息子にシメオンの特徴が受け継がれているのがわかります。サグデンに関してはポアロと一緒に捜査する場面が多々あるため、顎をなでる癖が何度も登場。ほかの特徴も受け継いでいるので、サグデンがもっともシメオンに似ていたといえるかもしれません。

ピラールの正体は、ポアロが最後に説明している通り瞳の色(メンデルの法則)で見破れます。母のジェニファーと父のファン・エストラバドスの瞳の色は青。したがって黒系の瞳を持つ子が生まれる可能性はほぼないのです。

ドラマについて

デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1995年に「ポワロのクリスマス」というタイトルで本物語を放送しました。以下はキャストと、原作との主な相違点です。

登場人物名 役者名
エルキュール・ポワロ デヴィッド・スーシェ
ジェームズ・ジャップ フィリップ・ジャクソン
シメオン・リー ヴァーノン・ドブチェフ
アルフレッド・リー サイモン・ロバーツ
リディア・リー キャサリン・ラベット
ハリー・リー ブライアン・グワスパリ
ジョージ・リー エリック・カート
マグダリーン・リー アンドレ・バーナード
ピラール・エストラバドス サーシャ・ベアール
ホーベリー アユブ・カーン・ディン
トレッシリアン ジョン・ホースリー
ハロルド・サグデン マーク・タンディ
原作との相違点

  • 登場人物の変更
  • 日時が異なる
  • セントラルヒーティングの故障後にポワロがシメオンに呼ばれる
  • ピラールが乗っていた電車にポワロもいる
  • ダイヤモンドが盗まれているのをピラールが発見
  • マグダリーンの荷物からダイヤモンドのケースが見つかる
  • ハリーから話を聞くのがバー
  • ジョージが電話していた時間が長い
  • マグダリーンが電話の真相を話したのが喫茶店
  • ピラールが襲われて気絶する
  • ポワロがピラールのパスポートをこっそり見る
  • サグデンの母が出てくる
  • ピラールとハリーが向かうのがパリ
  • ポワロとジャップがクリスマスプレゼントの交換をする

黒幕やトリックなど基本となる部分は原作通りですが、ストーリーに手を加えている箇所がいくつかあります。大きいところでは登場人物で、デヴィッドとヒルダの夫婦、スティーヴン・ファー、ジョンスン大佐が出てきません(デヴィッドとヒルダはアルフレッドとリディア、スティーヴンはハリーに統合されており、ジョンスン大佐の代わりはジャップ)。

また、日時にも変更があります。シメオンの命が奪われたのが24日から22日で騒ぎがあった時刻も1時間早い8時15分、解決した日も27日から25日。細かいところでは、ジョージが電話をかけていた時間も微妙に長くなっていました。

ポワロがジャップにクリスマスプレゼントのお返しをする場面が最後にあります。ただしポワロがもらったのは、ジャップの妻が編んだという手袋。趣味に合わなかったのか、今しないことを大事にしなきゃと言い逃れしました。

感想

命を奪われたので元も子もないですが、シメオンのクリスマスパーティーの目論見は失敗したといえます。なぜならアルフレッドとハリーの仲違いはなくなり、デヴィッドは憎しみから解放され、スティーヴンもコンチターと結婚したから。つまり憎しみ合わせるのがシメオンの目的でしたが、最終的に兄弟はクリスマスに本来ある平和を手に入れたのです。

本物語はクリスティ作品の中で唯一の密室もの。そういったトリックは好きなので、タネ明かしまで楽しく読むことができました。ただ格闘やおびただしい血の形跡はあからさま。その時間に悲劇が起こったのではなく、不自然に現れたサグデンが黒幕かなと何となく感じていました。

個人的にお気に入りの表現は、サグデンが来たときにしたトレッシリアンの次の動作です。

彼は片手で眼をなでて、ため息をついた。

出典元:ハヤカワ・ミステリ文庫『ポアロのクリスマス』アガサ・クリスティー/村上啓夫訳

スティーヴンが来たときにハリーと間違えた現象が、サグデンのときにも起こったということ。三人の容姿がとても似ていることを暗示しているわけです。はっきり書くのではなくちょっとした何気ない動作で表すあたり、とても巧みだなと思います。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。