象は忘れない(ポワロ)ネタバレ解説・あらすじ・感想・相関図

象は忘れない(ポワロ)ネタバレ解説・あらすじ・感想・相関図

アガサ・クリスティのミステリー小説『象は忘れない』。この物語は、過去に起こった夫婦の謎の心中の真実を追っていく、ポアロシリーズの長編小説第三十二作目です。

そこでこのページでは、「人物相関図」や「物語のポイント」を確認しながら、本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説の前に、最終的な人物相関図あらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

最終的な人物相関図

以下は、本作品の登場人物の最終的な相関図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

相関図

あらすじ

◆ 文学者の昼食会にて

珍しく参加した文学者の昼食会で、オリヴァ夫人がミセズ・バートン=コックスに話しかけられる。息子のデズモンドが結婚しようとしておりオリヴァ夫人が名付け親になった、シリヤについて知りたいことがあるというのだ。

シリヤの母親が父親の命を奪ったのか、それとも母親の命を奪ったのが父親なのか。うんざりして逃げてきたものの、オリヴァ夫人は好奇心に負けてポアロに相談することにした。

◆ 象の追跡

オリヴァ夫人はシリヤから、ポアロはスペンスの友人で捜査担当だったギャロウェイから当時の状況を聞く。そしてオリヴァ夫人はレイヴンズクロフト夫妻を知っていた友人を訪ね情報を集め始めた。

オリヴァ夫人が聞いた話は根拠がないものの、ポアロは記憶になんとなく残っている事実は重要だと考える。特に4つのかつらに、次いで飼っていた犬や精神病の話に興味を引かれた。

◆ 双子の姉

ギャロウェイの報告により、シリヤの母のマーガレットにはドロシアという双子の姉がいたことがわかる。ドロシアには精神病の形跡があり、レイヴンズクロフト夫妻が命を絶った3週間前に夢遊病で崖から落ち亡くなっていた。

ポアロはミセズ・バートン=コックスと会ってみたが、ちゃんとした捜査はしてもらいたくない印象を受ける。さらに情報を手に入れるため、警察の記録で得た何か知っているかもしれない人たちに会うことにした。

◆ ゼリー・モーウラ

医師から聞いたドロシアのこと、オリヴァ夫人が訪ねて得たかつらの情報により、ポアロの推理は一歩前進する。加えてゴビーからの情報で、デズモンドの生い立ちも知ることができた。

ポアロはシリヤの家庭教師をしていたマディ・ルーセル、当時レイヴンズクロフト家にいたゼリー・モーウラを訪問。そして現場となった崖にシリヤ、デズモンド、ゼリー、オリヴァ夫人を呼び、過去の出来事の審問廷を始める。

解説と考察

それでは本物語の解説と考察に移ります。

真相

アリステアがドロシアを撃ってから自ら命を絶った。これが心中の真相です。心中の3週間前に崖から転落したのはドロシアではなくマーガレット。精神病で湧き起こる欲望、アリステアを奪われた憎しみや嫉妬で、ドロシアがマーガレットの命を奪ってしまったのです。

マーガレットは息を引き取る間際、アリステアにドロシアを護るよう頼みました。持つには多い4つのかつらのうちの1つは、ドロシアをマーガレットと見せかけるための変装用。2人を入れ替えて、ドロシアを護ろうとしたわけです。そしてドロシアがこれ以上誰かを傷つけないようにするため、アリステアは命を奪い自らも責任を取るという形を選びました。

一方、ミセズ・バートン=コックスが真相を知りたがったのはお金のため。養子のデズモンドが相続していた実の母の莫大な財産を狙っていたのです。シリヤの両親の心中の真相を知れば結婚に二の足を踏むかもしれない。ミセズ・バートン=コックスはそう考え、オリヴァ夫人に話しかけたわけです。

象は忘れないの意味

本作のタイトル『象は忘れない』はことわざで、昔のことを象は忘れず覚えているという意味です。ただし原題は「Elephants Can Remember」なのに対し、ことわざは「An elephant never forgets」で恨みを晴らすイメージ。オリヴァ夫人が最初にポアロに相談に来たとき、こんな話をしていました。

ある男が、インド人の仕立屋なんですけど、象の牙に縫い針かなんか突き刺したんです。ちがうわ。牙じゃなくて、鼻ですよ、もちろん、象の鼻です。そして、そのつぎその象が通りかかったとき、口いっぱい水をふくんでおいて、仕立屋に頭からぶっかけたんですって。もう何年も会わないというのに。

出典元:ハヤカワ・ミステリ文庫『象は忘れない』アガサ・クリスティー/中村能三訳

物語の中では、ポアロやオリヴァ夫人がレイヴンズクロフト夫妻を知っていた様々な人物を訪ねていきます。これらの記憶がある人々を象に見立てているわけです。しかし象のようにハッキリと覚えてはおらず、人の記憶はあいまいで信ぴょう性としては欠ける話ばかりでした。

もう1つ、恨みを晴らすという観点からいえば、ドロシアの心情もタイトルに関連しているかもしれません。なぜなら妹のマーガレットを突き落としたのは、アリステアを奪われたことや長年の健康による嫉妬が動機だったからです。決して忘れず恨みを晴らす、元のことわざの話に当てはまるのではないでしょうか。

ドラマ「名探偵ポワロ」について

デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、2013年に本物語を放送しました。以下はキャストと、原作との主な相違点です。

キャスト

登場人物名 役者名
エルキュール・ポワロ デヴィッド・スーシェ
アリアドニ・オリヴァ夫人 ゾーイ・ワナメイカー
シリア・レーブンズクロフト ヴァネッサ・カービー
マリー・マクダーモット アレキサンドラ・ダウリング
ウィロビー博士 イアン・グレン
バートンコックス夫人 グレタ・スカッキ
ゼリー・ルーセル エルサ・モリアン
ビール警部 ヴィンセント・リーガン
ギャロウェイ警視 ダニー・ウェブ
デズモンド・バートンコックス フェルディナンド・キングズリー
マッチャム夫人 ヘイゼル・ダグラス
ジュリア・カーステアズ キャロライン・ブラキストン
ローズンテル夫人 ルース・シーン
アリステア・レーブンズクロフト エイドリアン・ルキス
マーガレット・レーブンズクロフト アナベル・モリオン
ドロシア・ジャロー クレア・コックス

原作との主な違い

  • ビール警部が出てくる
  • ウィロビー研究所で遺体が見つかる
  • デズモンドが襲われる
  • デズモンドがウィロビー博士の患者だった
  • デズモンドがゼリーを好いていた
  • デズモンドがピアノのコンサートを開催
  • シリアがドロシアのファイルがないかウィロビー研究所に聞きに来る
  • バートンコックス夫人がデズモンドのお金を着服
  • ドロシアの娘がマリーでウィロビー博士の父の命を奪った
  • ポワロがオリヴァ夫人の助手

心中の真相は原作と同じですが、マリー・マクダーモットという女性が新たな登場人物として加わっています。マリーの正体はドロシアの娘。母にひどい治療をしたウィロビー博士の父に報復するため、名を偽り研究所に入り込んでいたのでした。

このエピソードの追加により、ウィロビー博士の出番が非常に多くなっています。そしてポワロは序盤、研究所の捜査にかかりきり。なのでオリヴァ夫人が相談に来た最初のとき、話を途中で打ち切ってしまうほどでした。もしかしたらこのときのちょっとした恨みで、オリヴァ夫人はポワロを助手と紹介したのかもしれません。

レーブンズクロフトが心中した崖のロケ地は、セブン・シスターズGoogleマップ)という場所。原作ではボーンマスが命を落とした場所なので離れていますが、白い崖が印象的な人気の観光スポットです。

感想

読み終えて、自分は10年以上前のことをどれくらい覚えているだろうかと考えました。結果として「こんなことがあったな」など大きな事柄は覚えているものの、細かくと言われるととても曖昧。なので本作の登場人物が自信満々に語っている姿は、ある意味すごいなと感じました。

少し疑問なのが、ミセズ・バートン=コックスのデズモンドに対する心情です。愛情はあったけれどデズモンドに財産が転がり込んで目がくらんでしまった、夫と不倫していた女への長年の報復。このあたりが過去を詮索した理由だと個人的に思っていますが、後者だった場合、これもタイトルに当てはまります。

それからポアロがとても性格的に丸くなったなという印象を受けました。昔は自分を知らないと言われたら文句タラタラでしたが、本作では怒りさえ大して湧き起こっていないからです。ポアロもそれくらい長く生きており、しばらく表舞台から姿を消している証だと思います。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。

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