あなたの庭はどんな庭(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アガサ・クリスティーのポアロシリーズ『あなたの庭はどんな庭?』。この物語は、内情を明かせない相談をポアロに持ちかけていた老婦人が命を落とす、『黄色いアイリス』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、真相など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『あなたの庭はどんな庭?』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
エルキュール・ポアロ | 私立探偵 |
ミス・レモン | ポアロの秘書 |
アメリア・ジェーン・バロビー | メアリーの叔母 |
メアリー・デラフォンテン | ローズバンク荘の女主人 |
ヘンリー・デラフォンテン | メアリーの夫 |
カトリーナ・ライガー | バロビーの看護婦兼付き添い |
シムズ | チャーマンズ・グリーン警察署の警部 |
あらすじ
ポアロのもとに極秘親展と書かれた手紙が届く。差出人はアメリア・バロビーという老婦人で、内容は秘密ながらもかなり取り乱している様子が文章から見て取れた。
相談に乗る旨の返事をレモンに書いてもらった五日後、バロビーは急に命を落としていたことが判明。不審に思ったポアロは遺族の意向を無視し、バロビーの住んでいた庭の美しい民家を訪れる。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
黒幕とトリック
バロビーを亡き者にしたのは、メアリーとヘンリーの二人でした。動機は有価証券を勝手に流用していたことがバレたから。そしてバロビーの遺産受取人になっていたカトリーナを憎み、すべての責任を押し付けようとしていました。
命を奪うのに使ったストリキニーネには、ひどい苦みという特徴があります。したがって口にしたらすぐに味を感じるスープや、噛んだりする食べ物に混入したら異変にすぐ気付かれてしまうわけです。コーヒーに混ぜれば苦みをごまかすことも可能ですが、バロビーに飲む習慣はありませんでした。
そこでメアリーとヘンリーが用いたのが、噛まずに咽喉を通るカキ。ゴミに出すと不審に思われてしまう殻は、花壇の飾りに使いました。しかし結果的に数が足りず美しい庭の中では不格好になり、ポアロに違和感を与えてしまいます。
童謡(マザーグース)
本作には、イギリスで古くから伝承されてきた実在する童謡(マザーグース)が登場します。タイトルは「へそ曲がりのメアリー(Mary, Mary, Quite Contrary)」。歌詞は以下です。
つむじまがりのメアリーさん(Mary, Mary, quite contrary)
あなたの庭はどんな庭?(How does your garden grow?)
トリガイの殻、銀の鈴(With silver bells and cockleshells)
きれいなねえさん、ひとならび(And pretty maids all in a row)出典元:ハヤカワ文庫『黄色いアイリス(あなたの庭はどんな庭?)』アガサ・クリスティー/中村妙子訳, 英語の歌詞は「Wikipedia」より
ポアロも最後に述べていますが、歌詞の一部が本作のトリックを見破る唯一のヒントです。それは「トリガイの殻」の部分。直前に書かれている「花壇の一つは一部」と組み合わせることで、殻に着目させる仕掛けになっているのだと思います(全部ではなく一部なのがポイント)。ただしトリガイではなく、カキにまで発想を広げなければなりません。
一応、黒幕の一人の名前がメアリーという共通点もあります。もちろん作者のアガサ・クリスティーも、童謡から登場人物の名前を付けたのでしょう。しかし単なるミスリードかもしれないので、トリックがわからないうちは黒幕と決めつけないよう注意が必要です。
ドラマについて
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1991年に本物語を放送しました。以下は原作との主な相違点です。
- チェルシーフラワーショーが開催
- ジャップが捜査にあたる
- ヘイスティングスが登場しくしゃみが止まらない
- カトリーナがソビエト大使館に行く
- ポワロがレモンを伴ってローズバンク荘に行く
- 庭にベルが埋まっている
- シムズが医者
- ポワロがポニー乗馬大会に行きカトリーナに遺産が入ることを知る
- カトリーナが逃亡を図る
- ヘイスティングスが整理されたファイルをぐちゃぐちゃにする
- メアリーが除草剤を飲んで命を絶とうとする
物語は原作に則っていますが、ドラマ用に脚色されている部分が多くあります。まずは「ポワロ」という名のピンクのバラが発表されたチェルシーフラワーショーの開催。ここでショーに招かれたポワロは、バロビーに会い種袋を渡されます。種袋は「株(ストック)」というヒントになっていましたが、この場面をメアリーに目撃されていたためバロビーは亡き者にされてしまいました。
また、捜査をジャップが担当。それに伴い原作で地元警察の警部として登場していたシムズが医者に変更となっています。レモンも活躍の場が増え、ほとんど最初から最後までポワロの捜査に同行しました。
代わりにヘイスティングスは、くしゃみが止まらず今回は裏方。ポワロとレモンが不在中に請求書の電話が頻りにかかってきて、ファイルを散らかしお金を払ってしまいます。当然ながらレモンは激怒。しかもくしゃみの原因はバラによる花粉症ではなく、ポワロが5ギニーで買ったコロンというオチでした。
感想
読了後にまず思ったのは、「カキって噛まないの?」ってことです。自分だけなのかもしれないと思いカキの食べ方を調べてみたところ、やはりみなさん噛んでいるよう。トリックの発想は面白いと思いましたが、この部分については疑問が残りました。
童謡に結び付けるあたりも個人的には好きでした。この童謡、実際のメロディは明るいですが、歌詞の内容はどうやら歴史的事実の暗示みたいです(諸説ある模様)。それにしても庭を見て童謡が頭に浮かび、結果的に謎を解くカギになるのだから、ポアロの鋭さはさすがとしか言いようがありません。
笑っちゃったのはヘイスティングスの話。ポアロは想像力が大したものと言いつつ、いつも間違っていたと発言。一方のレモンはそれを聞いてもまったくの無関心。結果的にヘイスティングスは、その場にいないにもかかわらず両者からイジられてしまいました。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
-
前の記事
スタイルズ荘の怪事件(ポワロ)のネタバレ解説・相関図・あらすじ 2022.09.10
-
次の記事
100万ドル債券盗難事件(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想 2022.09.16
コメントを書く