グランドメトロポリタンの宝石盗難事件(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

グランドメトロポリタンの宝石盗難事件(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

アガサ・クリスティーのポアロシリーズ『グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件』。この物語は、ポアロの静養先で高価な真珠のネックレスが盗まれる、『ポアロ登場』に収録されている短編小説です。

そこでこのページでは、真相など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

登場人物

本物語の登場人物は以下です。

登場人物名 説明
エルキュール・ポアロ 私立探偵
アーサー・ヘイスティングス ポアロの友人
エド・オパルセン 株の仲買人
ミセス・オパルセン エドの妻
セレスティーヌ ミセス・オパルセンのメイド

あらすじ

よその土地の空気を吸うのも健康にいいと思い、ヘイスティングスはポアロをブライトンへ連れて行く。滞在したグランド・メトロポリタン・ホテルは煌びやかな夫婦ばかりで、泥棒からすれば絶好のチャンスと思えるほどだった。

ポアロとヘイスティングスはオパルセン夫妻と時を過ごすことになり、次第に話題は宝石へと発展。夫人が素晴らしい真珠のネックレスを見せてくれるというので部屋に戻ったが、何者かに盗まれた後だった。

解説と考察

それでは本物語の解説と考察に移ります。

黒幕とトリック

ミセス・オパルセンの真珠のネックレスを奪ったのは、ホテルのメイドとボーイでした。二人の正体は、手配中だった名うての宝石泥棒。ポアロが感じていた通り、グランドメトロポリタンホテルで働きながら宝石を狙っていたのです。

二人は次の手順で真珠のネックレスを盗んでいました。

  1. 引き出しをチョークの粉で滑りやすくしておく
  2. セレスティーヌが自室に行った隙にメイドが引き出しを開け宝石箱を取る
  3. 閂を開け隣の空き室にいるボーイに宝石箱を渡す
  4. ボーイが用意しておいた合鍵で宝石箱を開けネックレスを取り出す
  5. セレスティーヌがもう一度自室に行ったときに宝石箱をメイドに返し引き出しに戻す

部屋係のメイドという立場を利用し、ネックレスのイミテーションをその日の朝セレスティーヌのベッドに仕込んでおきました。これで身体検査をされてもメイドは疑われず、セレスティーヌの仕業に見せかける手はずだったのです。

セレスティーヌの行動と隣部屋

警察の目を欺き一旦は真珠のネックレスを手に入れたメイドとボーイですが、このトリックには問題が二つあります。一つはセレスティーヌが二度自分の部屋に行くのが絶対条件であることです。

セレスティーヌが自分の部屋に行ったのは、木綿糸とハサミを取りに行くため。縫い物かなにか作業をしていたときの偶然の出来事であり、メイドに予測できたはずがありません。二度席を外す機会を辛抱強く伺っていたとも考えられますが、あまりに待ち過ぎると疑われてしまうと思います。

もう一つは隣部屋が空き室でなければならないことで、ホテルの部屋係には操作できないはずです。なお、盗まれたのは土曜日で、グランドメトロポリタンホテルはセレブが宿泊するほど豪華。どのくらいの部屋数なのかわかりませんが、それなりの繁忙期だったのではないでしょうか。

ドラマについて

デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1993年に本物語を放送しました。以下は原作との主な相違点です。

原作との相違点
  • オパルセン夫妻が舞台制作者
  • ポワロが過労で倒れたためグランドメトロポリタンへ行くことになる
  • セレスティーヌにアンドルー・ホールという恋人がいる
  • 真珠のネックレスが盗まれているのに気づくのがパーティーの後
  • ポワロが休養を理由に一旦依頼を断る
  • オパルセンの部屋の隣にワージングという人物が泊まっている
  • セレスティーヌの部屋で見つかるのが合鍵
  • ジャップが捜査にあたる
  • ジャップの射的の腕がお見事
  • ラッキー・レンを見つけると賞金がもらえるゲームが行われている
  • レモンがポワロを休養させなかったヘイスティングスにお怒り
  • エドが保険金詐欺で逮捕される
  • レモンがポワロに頼まれて調査をする
  • 黒幕の一人の肩書とネックレスの隠し場所

物語は原作に則っていますが、多くの追加・変更点があります。まずはグランドメトロポリタンでオパルセン夫妻制作の舞台『豚に真珠』が上演。興行的に失敗できないエドは、偶然会ったポワロを宣伝に利用します。ポワロは開幕直後に黒幕を解明し、ドラマの後半では利用された腹いせにエドを保険金詐欺で一旦逮捕させました。

原作ではホテルのメイドの協力者がボーイでしたが、ドラマでは運転手のソーンダースという男に変更。オパルセン夫妻の部屋の隣にワージングの名で宿泊し、宝石箱の受け取りをしていました。ポワロはセレスティーヌとアンドルー・ホールの出会いが『まじめが肝要』という舞台だった話にヒントを得て真相を究明。最終上演後の舞台に黒幕二人をおびき寄せ、隠してあったネックレスを取り出します。

ラッキー・レンを見つければ賞金がもらえるゲームを開催しているのが面白いところ。ポワロはエドからの依頼をいったん断りますが、このゲームのせいで休養にならず結局捜査に乗り出します。そして最後、ポワロは本物のラッキー・レンに会い、偉大で気品ある顔(髭)を褒め称え合いました。

感想

キャラクターに名前も付けていない二人が黒幕というのは珍しいなと感じました。トリックに関しては、上で解説した通りかなりの偶然が一致しなければなりません。そしてホテルの部屋係は二人だけなはずないので、埃がたまるほど隣の部屋が掃除されてないのは気になるところではありました。

セレスティーヌが最初に自分の部屋に行った時間は12秒です。この間に引き出しを開け、宝石箱を取り出し、閂を開け隣の部屋のボーイに渡す。これらの動作を怪しい物音立てずに行うのは結構難しい気もします。ベテランのなせる業でしょうか。

また、セレスティーヌは無実とはいえ一度オパルセンに疑われてしまいました。おそらく信用されてないと感じたでしょう。その後どうなったかは不明ですが、もうオパルセンのもとでは働いていないのではと思います。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。

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