サセックスの吸血鬼(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『サセックスの吸血鬼』。この物語は、サセックスに住むペルー出身の夫人が赤ちゃんの血を吸った謎を追う、『シャーロック・ホームズの事件簿』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、本作品の結末などの解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『サセックスの吸血鬼』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
シャーロック・ホームズ | 私立探偵 |
ジョン・H・ワトスン | 医師 |
ロバート・ファーガスン | 茶の仲買商 |
ファーガスン夫人 | ロバートの妻 |
ジャック | ロバートの最初の妻との息子 |
ドローレス | ファーガスン夫人の女中 |
メースン夫人 | 乳母 |
マイケル | 馬屋の世話人 |
あらすじ
吸血鬼に悩んでいるという旨の手紙がホームズのもとに届く。幻想じみたくだらない相談かと思われたが、真面目に読んでみると事態はなかなかに深刻のようだった。
サセックス州に住むロバート・ファーガスンの愛情深く温和な性格の妻が最近、体が不自由な継子をステッキで打擲。さらに自分の生まれたばかりの赤ん坊の首に噛みつき、吸血鬼のように血を吸っていたというのだ。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
真相
ファーガスン夫人が赤ちゃんの血を吸っていたのは、矢で刺された毒を吸い出すためでした。やったのはジャックで、動機は父の愛情を独り占めしたかったから。ファーガスン夫人が何も言わなかったのは、息子を溺愛しているロバートが心を痛めないよう慮ってのことでした。
吸血鬼だと疑われ赤ちゃんから引き離されている間に世話をしてくれたのが、何もかもを打ち明けていたメースン夫人。ホームズはこの件を最後に質問して「そんなことだろうと思っていました」と答えています。ワトスンが序盤に説明した(説明は以下です)、ホームズの性格を表している発言でしょう。
自尊心たかく負けずきらいの彼の性格の奇癖であって、どんな新知識でもすばやく整然と頭のなかへ納めるくせに、それを教えてくれた相手に礼をいうということがないのである。
出典元:新潮文庫『シャーロック・ホームズの事件簿(吸血鬼)』コナン・ドイル/延原謙訳
もちろん、ワトスンと話している口調よりはだいぶ柔らかいですけどね。
ハンガリーの吸血鬼伝説
ホームズがロバートからの一枚目の手紙を読んだときに吸血鬼伝説を調べました。ここで出てくるハンガリーの吸血鬼とは、バートリ・エルジェーベトだと思います。
エルジェーベトは性別問わず本人の証言では650人もの命を奪った女性。あるときから血の美しさに魅かれ、人から搾り取っては浴槽に満たして浸かるという奇癖の持ち主です。これに従来からしていた皮膚をかじるなどの行為により、吸血鬼のイメージがついたと言われています。
エルジェーベトを題材にした小説『ドラキュラ』を発表したのが、ドイルとも親交があったブラム・ストーカーです。したがって本作『サセックスの吸血鬼』の執筆は、結末こそ真逆とはいえ『ドラキュラ』を読んだことがきっかけなのだと思います。
ドラマについて
ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1993年に本物語を放送しました。ストーリーは原作をもとにしているものの、大きく脚色されています。
オリジナルのキャラクターもいるので、まずは主な登場人物のご紹介です。(※)はオリジナルキャラクター。
登場人物名 | 説明 | 役者名 |
---|---|---|
シャーロック・ホームズ | 私立探偵 | ジェレミー・ブレット |
ジョン・H・ワトスン | 医師 | エドワード・ハードウィック |
ジョン・ストックトン(※) | 作家、村に住んでいた大地主の末裔 | ロイ・マースデン |
ボブ・ファーガソン | ワトスンの旧友 | キース・バロン |
カルロッタ | ボブ・ファーガソンの妻 | ヨランダ・バスケス |
メリデュー(※) | 牧師 | モーリス・デナム |
ジャック | ボブ・ファーガソンの息子 | リチャード・デンプシー |
ドローレス | カルロッタのメイド | ジュリエット・オーブリー |
マイケル | 馬小屋の世話人 | ジェイソン・ヘザリントン |
ベラ(※) | マイケルの恋人 | マリア・レドモンド |
物語は村の大地主だったセント・クレアが焼かれるところから始まります。時が経ち、セント・クレアの末裔であるジョン・ストックトンが村に帰還。そしてストックトンの登場をきっかけに、鉄工のカーターとボブ・ファーガソンの赤子が立て続けに命を落とす悲劇が起こります。
村を心配した牧師のメリデューがホームズに相談。吸血鬼の伝説などまるで信じていないホームズは、自身奇妙な現象に襲われながらも推理で村に起きた悲劇を解明する、というのが本当にざっくりとしたあらすじです。
ホームズが吸血鬼のコスプレをするお茶目な面も見られます。当然ワトスンは期待を裏切らない反応。牙は変装用に作らせたと言っていますが、吸血鬼以外に使い道があるのか不明です(ねずみ男とか?)。
感想
ホームズの世界で本物の吸血鬼が出てくるはずがないので、どのような方法でそう見せるのか興味を持って読みました。噛みついた理由は悪いものを吸い出すこと。悪い行為をしているどころか、逆に正しいことをしている対比が面白かったです。
ロバートの相談内容が、「吸血鬼なのかも」と思わせるきっかけになっています。実際に噛みついている現場に遭遇したら、直感的に吸血鬼だと思っても仕方ないのかもしれません。そしてこの状況が衝撃的過ぎて、ジャックへの打擲が些細なこととして捉えられているのが面白いところです。
ジャックが悪さをした原因は、父親からの愛情が自分だけではなく義母や生まれた赤ちゃんに分散したことでした。愛情を注がないと荒れてしまうし、注ぎ過ぎたらずっと持っていたくなってしまう。子育てに限ったことではないかもしれませんが、気持ちの問題は本当に難しいと思います。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
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