ひらいたトランプ(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・相関図・感想
アガサ・クリスティのミステリー小説『ひらいたトランプ』。この物語は、過去に人の命を奪ったことのある4人の誰かがブリッジをしている最中に新たな凶行に及ぶ、ポアロシリーズの長編小説第十三作目です。
そこでこのページでは、「人物相関図」や「容疑者の性格」を確認しながら、本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説の前に、最終的な人物相関図とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
最終的な人物相関図
以下は、本作品の登場人物の最終的な相関図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。
あらすじ
◆ ブリッジの勝負中の凶行
展示会で偶然ポアロと会ったシャイタナが、人の命を奪って逃げおおせている人間を集めたパーティーの開催を思いつく。ポアロのほかに探偵小説家のオリヴァ夫人、バトル警視、レイス大佐、そしてロバーツ医師、ロリマー夫人、デスパード少佐、メレディスが招待された。
やがてロバーツ、ロリマー夫人、デスパード、メレディスが客間で、別の部屋で残りの者もブリッジを始める。シャイタナは客間の暖炉のそばに座っていたのだが、日が変わる頃、刺されて息絶えているのが発見された。
◆ 4人の容疑者
同じ客間にいた4人の容疑者に、バトル警視が仕切りで形式的な事情聴取を始める。シャイタナやほかの3人のこと、ブリッジの最中に席を立ったか、だれがやったと思うかなどを。
一方で重要なのは全員の性格だとポアロは考え、4人のブリッジの腕や得点表に目を向ける。そして容疑者がかつてしたかもしれない凶行を含む過去を、ポアロやバトル警視らは動機に絡んでいるとして調べることにした。
◆ 容疑者の過去
探偵陣4人のそれぞれの捜査により、容疑者4人の過去が少しずつ明らかになってくる。ロバーツは婦人の元患者とその夫、デスパードは一緒に南米に旅行したラクスモア教授、メレディスはかつて仕えていたベンスン夫人の命を奪った可能性があった。
ラクスモア夫人のロマンチックな妄想はあったものの、デスパードは結果的に教授を撃ってしまったことを認める。さらにポアロの罠によりメレディスには盗癖があり、恐怖のためにベンスン夫人の命を奪ったことも確実となった。
◆ ロリマー夫人の告白と落命
ロリマー夫人はポアロを呼び自供を始めたが、それは未来あるメレディスを庇うためだった。メレディスがブリッジの休みのときにシャイタナの命を奪うのを、実際に目撃したというのである。
翌日、ロリマー夫人が命を絶つというまさかの展開になるが、状況はメレディスが亡き者にしたことを示していた。そのメレディスは恐怖と嫉妬でローダの命を奪おうとした際に過って落命し、後味の悪い結末を迎えたかに見えたが…。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
犯人と動機
シャイタナの命を奪ったのはロバーツ医師でした。動機はもちろん過去を知られたことによる口封じ。ロバーツは自分を訴えようとしたクラドックの命を奪い、さらにはヒステリーを持ちジャマに感じていたクラドックの妻も亡き者にしていたのです。
ただしほかの3人も命を奪った過去がありました。デスパードは夫人のせいで手元が狂い背中を撃ってしまったラクスモア教授を、メレディスは窃盗の露見を怖れてベンスン夫人を、ロリマー夫人は夫を。シャイタナはこれらすべての過去を知っていたため、動機という面では4人全員が持っていました。
ロバーツがロリマー夫人の命を奪ったのは、濡れ衣を着せて捜査を終わらせることが目的。バトル警視らの捜査でシャイタナの件だけではなく、過去の凶行まで調べあげるのではないかと不安だったのです。
4人の性格とブリッジ
本作は序文で述べている通り、容疑者4人の心理面に醍醐味があります。以下は各人の主な性格です。
名前 | 性格 |
---|---|
ロバーツ | 大胆、鋭い観察力を持っている、追いつめられると直ちに行動する |
ロリマー夫人 | 頭が良い、冷静で論理的思考にたけている、1つのものに専心するあまり周囲のものは目に入らない |
デスパード | 堅実、先を見通し万一の場合に対して準備する、自分の心と調和するものだけしか見ない |
メレディス | 臆病、保身のために何でもする、美しい装身具が好き |
これらの性格がブリッジの手や得点表、ポアロのシャイタナ宅に何があったかの質問から読み取れるわけです。
では本作の凶行はどのような性質のものだったでしょうか。それは、前もって計画されたものではなくとっさの思い付きで、図太さや度胸のいる仕事だということです。性格上この性質の凶行に及べるのはロバーツだけ。ロリマー夫人やデスパードは計画するタイプであり、メレディスは臆病なため人の目があるときにはやりません。
凶器の場所も、鋭い観察力を持っていれば把握できます。命を奪うタイミングは、プレイヤーの目がゲームに集中しているグランドスラムのとき。休みもせり上げたのもロバーツであることから、黒幕であると推理できるわけです。
ドラマ「名探偵ポワロ」について
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、2006年に本物語を放送しました。以下はキャストと、原作との主な相違点です。
キャスト
登場人物名 | 役者名 |
---|---|
エルキュール・ポワロ | デヴィッド・スーシェ |
アリアドニ・オリヴァ夫人 | ゾーイ・ワナメイカー |
シェイタナ | アレクサンダー・シディグ |
ドクター・ロバーツ | アレックス・ジェニングズ |
ロリマー夫人 | レズリー・マンビル |
アン・メレディス | リンゼイ・マーシャル |
ウィーラー警視 | デヴィッド・ウェストヘッド |
デスパード少佐 | トリスタン・ゲミル |
ヒューズ大佐 | ロバート・パフ |
ローダ・ド-ズ | ハニーサックル・ウィークス |
原作との主な違い
- 登場人物の変更
- オリヴァ夫人も最初の展示会に来ている
- ポワロとウィーラーが一緒にロバーツを訪問
- メレディスとローダがオリヴァ夫人訪問時にボートを漕いでいる
- デスパードが馬の世話をしている
- シェイタナの家が荒らされる
- ラクスモア教授が自分を実験台にして精神異常をきたす
- ポワロがシェイタナを撮った写真館を訪問
- ウィーラー警視が疑われる
- ロリマー夫人とメレディスが親子
- ローダがメレディスをボートから落とす
- ロバーツはラクスモア教授と関係を持ち夫人にゆすられていた
黒幕や命を奪ったタイミングは原作通りですが、多くの点で違いがあります。まずは登場人物で、バトル警視はウィーラー警視、レイス大佐はヒューズ大佐に変更。さらにウィーラー警視は、容疑者の1人に数えられます。
人間関係にも違いがあり、大きなところではロリマー夫人とメレディスが親子だという点。おそらくこの変更点は、ロリマー夫人がメレディスを庇う理由を強めるためだと思います。原作では余命が短いことを知ってメレディスを庇いますが、自分と重ねたにしろ他人にそこまでするだろうかと理由としては少し弱いからです。
また、ローダが悪人になっています。ベンスン夫人の命を奪ったのも実はローダで、終盤でボートから落とすのもローダ。結果的にデスパードが助けたのはメレディスで、命を落とすのがローダに変わっています。
感想
言われてみれば確かに性格上ロバーツ黒幕で納得しましたが、最後まで誰がやったのかわかりませんでした。それは4人という人数ながら全員が疑わしい状況、特にアン・メレディスならやりかねないと思わせる巧みさにあったのだと感じています。終わりの方で容疑者のうち2人が命を落としますが、オリヴァ夫人が自身の小説について語った次の話が思い出されました。
小説が少しだれて来たら、だらっと血を流させれば引き締まりますよ。
出典元:ハヤカワ文庫『ひらいたトランプ』アガサ・クリスティー/加島祥造訳
個人的にだれてきたとは思わなかったですが狙ってのことかもしれません。
話の中で面白かったのが、ロリマー夫人がブリッジの最中にメレディスを見て黒幕だと勘違いすること。これがグランドスラムで注視している状況の対比になっているのでしょう。ロリマー夫人自身が勝負は別に面白くないと語っていることからも、この考えの裏付けになると思います。
それからすごいのがオリヴァ夫人。最初から黒幕はロバーツだと思っており、解決編でも自画自賛でした。直感はそれまでの経験に基づいて湧き起こってくるものだとの考えがあります。オリヴァ夫人はいったいどのような経験をしたのでしょう。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のポアロ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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