スタイルズ荘の怪事件(ポワロ)のネタバレ解説・相関図・あらすじ

スタイルズ荘の怪事件(ポワロ)のネタバレ解説・相関図・あらすじ

アガサ・クリスティのミステリー小説『スタイルズ荘の怪事件』。この物語は、ヘイスティングスが訪れた友人宅の女主人がストリキニーネによって命を奪われる、ポアロシリーズの記念すべき長編第一作目です。

そこでこのページでは、「人物相関図」や「物語のポイント」を確認しながら、本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説の前に、最終的な人物相関図あらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

最終的な人物相関図

以下は、本作品の登場人物の最終的な相関図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

人物相関図

あらすじ

◆ エミリー絶命

傷病兵となり休暇を与えられたヘイスティングスが、友人のジョン・カヴェンディッシュに誘われスタイルズ荘にやってくる。かつてお世話になったこともあるヘイスティングスは歓迎されたが、家主のエミリー・イングルソープが20歳も若いアルフレッドと結婚したためスタイルズ荘には不穏な空気が漂っていた。

ヘイスティングスがスタイルズ荘に来て幾日か経った深夜、エミリーが激しい痙攣を起こしそのまま絶命。働き過ぎがたたったのかと思われたが、バウアスタイン博士らの反応によると何者かに命を奪われたようだった。

◆ ポアロに捜査の依頼

ヘイスティングスの旧友で、エミリーが亡命に手を貸したベルギー警察の元刑事のポアロに真相の究明を依頼する。さっそく取り掛かったポアロはエミリーの寝室から六つの興味深い事実を発見し、新しい遺言状が書かれていたことまで証明してみせた。

ところがカギをかけていたエミリーの寝室に何者かが侵入し、文書箱の中にあった重要な書類が紛失。さらに薬局に勤めるメースが、エミリーが亡くなった原因はストリキニーネではないかと心配してポアロの住むコテージを訪ねてきた。

◆ アルフレッドの容疑

ストリキニーネを買ったなどの証言が出てきたことにより、アルフレッドは極めて不利な状況に立たされてしまう。ポアロがアルフレッドのアリバイを証明したため逮捕は免れたが、それは真の黒幕に手の内をさらけ出したことを意味していた。

アルフレッドのものと似た付け髭が見つかり、ポアロからローレンスに謎めいた伝言を頼まれる中、ヘイスティングスはバウアスタイン博士に疑問を抱く。思い切って下宿先を訪ねてみると、なんとバウアスタイン博士は諜報活動の容疑で逮捕されてしまっていた。

◆ ヘイスティングスの一言

シンシアが働く病院でローレンスがストリキニーネの壜に触れていたことが判明したのもつかの間、今度がジョンが逮捕されてしまう。ポアロはジョンの無実を確信しているようだったが、真の黒幕をあげる最後の環が見つからないと嘆いていた。

ジョンの公判がいったん閉廷となった日の後、ポアロはヘイスティングスの何気ない一言をきっかけに最後の環を発見。翌日に関係者全員を集め、すべての真相を語り出す。

解説と考察

それでは本物語の解説と考察に移ります。

黒幕とトリック

エミリーの命を奪ったのは、エヴリンとアルフレッドでした。動機はエミリーの持っていた莫大な遺産。犬猿の仲だと思われていた二人は実は愛し合っており、エミリーが夫のアルフレッドに残した遺産で悠々自適に暮らそうとしていました。

凶器はやはりストリキニーネ。しかしメースが売ったものでもシンシアの病院にあったものでもなく、ストリキニーネが入っている強壮剤から命を落とすほどの量を摂取させました。方法は以下です。

  1. 強壮剤にシンシアが調合した臭化カリを入れる
  2. 強壮剤に入ったストリキニーネが底に沈殿
  3. 攪拌しないように気を付けてエミリーに強壮剤を飲ませる
  4. 大量のストリキニーネが混在した最後の一服をエミリーが飲む

アルフレッドは自分に疑いがかかったとき、わざと逮捕されようと振舞いました。理由はいよいよというときに不動のアリバイを持ちだし無実の判決を受けるため。一度無実になると二度と裁判にかけられることはないというイギリスの法律を逆手に取り、今後一切の安泰を狙ったわけです。

4つのポイントとなる時間帯

エヴリンとアルフレッドはただ時を待てばよいだけでしたが、他の人物(特にメアリとローレンス)の行動により物事が複雑に見えていました。その事実を紐解くために、7月16日から7月18日(エミリー絶命の日)の朝までのできごとを以下の四つのグループに分類します。

  1. 7月17日の午後4~5時
  2. 7月17日の夕食後
  3. 7月18日の午前5時
  4. 7月16日の午後6時

ひとつひとつ見ていきましょう。

7月17日の午後4~5時

この1時間は、メアリが危険な橋を渡ろうとしたきっかけ、およびエミリーが身に危険が迫っていることを知ってしまう時間帯です。混み入った状況をわかりやすくするため、エミリーの行動を図示すると次のようになります。

7月17日4時から5時のエミリーの行動

エミリーが発見したアルフレッドの手紙はエヴリン宛のもので、自分の命を奪おうとしている明らかな証拠でした。一方でメアリはこの手紙を愛するジョンの不貞の証拠だと勘違い。エミリーに言い寄っても見せてもらえなかったので、明け方に文書箱から奪う計画を実行していくこととなります。

エミリーが息絶えた後の話ですが、手紙は文書箱の中に残ったままだったので、アルフレッドは危険を冒して部屋に侵入。ちぎってこよりにし、マントルピースの上の壺の中に入れました。これがポアロの言う「最後の環」でしたが、プライベートを気にせず最初に文書箱を調べていたら早期解決につながったでしょう。

7月17日の夕食後

7月17日の夕食後は、メアリがエミリーの部屋に侵入するための下準備をした時間帯です。一つはシンシアのコーヒーに睡眠剤を入れること。容易にシンシアが起きないようにし、彼女の部屋からエミリーの部屋に入るためです。二つの部屋の間にあるドアのボルト錠は、あらかじめ外しておきました。

ここで問題になるのがコーヒーカップの数。言葉だけだとわかりづらいと思うので、以下の図を作りました。

コーヒーカップの数

ややこしいのがアルフレッドのコーヒーカップの存在。アルフレッドはコーヒーを飲まないので、ポアロは当初用意されたカップは6つだと思っていました。しかし実際はアニーが勘違いして7つ用意。アルフレッドのために用意されたコーヒーは、突然訪問して来たバウアスタイン博士が飲んでいたのです。

7つあるはずのカップが6つしかないため、様相が変わってきました。そこで出てくるのが、シンシアはコーヒーに砂糖を入れないという事実。これによりポアロはシンシアのコーヒーカップがなくなっていることを確信し、「余分のコーヒーカップを見つけなさい」というローレンスへの伝言につながっていきます。

そしてメアリーがした二つ目の準備は、エミリーが飲むココアにも睡眠剤を入れること。アニーが見つけた塩というのは、睡眠剤がこぼれたものだったわけです。結果的にこの睡眠剤が原因で、ストリキニーネの症状が出るのが遅れることとなります。

7月18日の午前5時

7月18日の午前5時はエミリーが絶命。さらにメアリがエミリーの部屋に侵入し、ローレンスがシンシアに疑いを持ってしまう時間帯です。

計画通りジョンの不貞の証拠を探していたメアリでしたが、エミリーが突然の発作に襲われます。動転したメアリは蝋燭を落とし、シンシアの部屋に戻る際には緑色の農作業用の袖カバーをドアのボルト錠に引っ掛けてしまいました。

何とかその場を離れようにも、エミリーが呼び鈴を鳴らしすでに人が駆けつけている状態。そこでメアリはシンシアを揺り動かしているところを装い、危機的な状況をやり過ごしました。シンシアの部屋にいた理由として「何かが倒れる音を聞いた」と証言しますが、後のポアロの実験により噓であることが証明されます。

一方でエミリーが息絶えたとき、ローレンスはシンシアの部屋に通ずるドアのボルト錠が外れているのを目撃。愛するシンシアが黒幕だと早合点し、コーヒーを分析させないためにカップを砕きます。元医者であるにもかかわらず頑なに自然に亡くなったと主張したのは、シンシアを庇うためだったわけです。

ただしローレンスが砕いたコーヒーカップは、危なっかしいテーブルが倒れたときに落ちてしまったもの。つまりエミリーはコーヒーを飲んでいないという明らかな証拠でした。

ここまででポアロが示した「興味深い6つの事実」の説明がつきます。

  1. 粉々に砕かれたコーヒーカップ:ローレンスが分析させないために砕いた
  2. 鍵を差し込んだままの文書箱:メアリが手紙を探している途中だった
  3. 床のしみ:エミリーはコーヒーを飲んでいなかった
  4. 濃い緑色の布地の切れ端:メアリの袖カバー
  5. 床に飛び散った蝋:メアリが蝋燭を落としてしまった跡
  6. 薬剤師の名前がない箱:シンシアが調合した臭化カリの存在

エヴリンとアルフレッドの計画に直接かかわっているのは6だけ。いかにメアリとローレンスがややこしくしていたかがわかる事実でもあります。

7月16日の午後6時

時は戻って7月16日の午後6時。この時間は、アルフレッドのような風貌の男がメースからストリキニーネを買った時間です。

買ったのは変装したエヴリンで、ジョンがエミリーの命を奪ったと見せかけるのが目的。筆跡を真似るだけではなく、偽の手紙でジョンを呼び出しアリバイを不明確にしました。極めつけにジョンの部屋のタンスにメガネとストリキニーネの壜を入れ、嫌疑を確実なものにします。

ところがエヴリンとアルフレッドにとって誤算が二つありました。一つはこの日の夜にエミリーが強壮剤を飲まなかったこと。エミリーを深夜に隔絶するために仕組んだ、呼び鈴を壊しシンシアを外泊させるなどの準備が無駄になってしまいます。そしてアルフレッドは決定的な証拠となる、エヴリン宛の手紙を書いてしまいました。

もう一つはローレンスにも疑いが向いてしまったこと。調剤室でストリキニーネの壜に触ったことは単なる好奇心でしたが、エヴリンとアルフレッドにとっては迷惑な話でした。ローレンスがシンシアを救うためにしたことが、偶然にも二人の計画を狂わす結果につながったわけです。

ドラマについて

デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1990年に本物語を放送しました。以下はキャストと、原作との主な相違点です。

登場人物名 役者名
エルキュール・ポワロ デヴィッド・スーシェ
アーサー・ヘイスティングス ヒュー・フレイザー
ジェームズ・ジャップ フィリップ・ジャクソン
ジョン・カヴェンディッシュ デビッド・リントゥール
アルフレッド・イングルソープ マイケル・クロウニン
エミリー・イングルソープ ジリアン・バーグ
エヴリン・ハワード ジョアンナ・マカラム
ローレンス・カヴェンディッシュ アンソニー・カルフ
メアリ・カヴェンディッシュ ビーティ・エドニー
シンシア・マードック アリ・バーンズ
原作との相違点
  • 省かれている話が多くある
  • ローレンスがシンシアと同じ病院に勤めている
  • バウアスタインが出てこない
  • ジョンとレイクス夫人の密会中にポアロが訪ねてくる
  • ポアロが運転技術を講釈する

物語は原作にかなり忠実ですが、省かれてる話が多くあります。例えば登場人物。バウアスタイン博士の役割がウィルキンズ医師に集約されているため、スパイ容疑で逮捕される話がありません。さらに庭師二人がエミリーの遺言状にサインしたり、メイドのアニーがココアの件で後ろめたさを感じている話もなくなっています。

ほかにもローレンスがストリキニーネの瓶に触れるなど省かれている話はありますが、大きなところではエミリーの部屋でテーブルを倒す実験をしないこと。おそらく右と左に分かれた棟を持つちょうど良い建物がなかったからでしょう。そのため悲劇の起きた日の早朝、原作ではヘイスティングスはローレンスに起こされますが、ドラマでは夢から覚めるとエミリーの部屋に人だかりができていることになっています。

スタイルズ荘の外観のロケ地は、「Chavenage House」というカントリーハウスです(Googleマップ)。周りは自然にあふれて駅からも離れていますし、原作のスタイルズ荘に近いと言えるのではないでしょうか。

感想

デビュー作ということもあると思いますが、小さな物事を丁寧かつ複雑に絡めている印象を持ちました。言い換えるとアイディアが詰まっており、「これとこれがつながるのか」という楽しさが存分に含まれている作品。命を奪った方法は化学の知識がないと究明は難しいですが、やたら登場させることでストリキニーネを調べるきっかけにしているのだと思います。

そしてエミリーの人生が空しくてなりません。苛烈な性格ではあったかもしれないけれど、長年義理の息子や親友の娘の面倒を見て慈善事業にいそしみました。にもかかわらず最高の友人だと思っていたエヴリンには裏切られ、他の人たちもお金のことばかり。正直、主要な登場人物の中でエミリーに感謝していたのはポアロだけだったような気がします。

それにしてもヘイスティングスの探偵スキルは絶望的です。質が悪いのはそう思っておらず、時には「ものわかりがいい」などと自画自賛していること。また、シンシアにプロポーズしたと思ったらメアリにすぐ目移りし女性にもだらしない(メアリは友人の妻なのに)。ただこの記録を書いたのはヘイスティングスなので、自分の恥を細大漏らさずさらけ出した勇気はすごいと思います。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。

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