西洋の星の盗難事件(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

西洋の星の盗難事件(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

アガサ・クリスティーのポアロシリーズ『西洋の星の盗難事件(<西洋の星>盗難事件)』。この物語は、二つの対になっているダイヤモンドが盗まれた謎を追う、『ポアロ登場』に収録されている短編小説です。

そこでこのページでは、結末など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

登場人物

本物語の登場人物は以下です。

登場人物名 説明
エルキュール・ポアロ 私立探偵
アーサー・ヘイスティングス ポアロの友人
メアリ・マーヴェル 映画スター
グレゴリー・B・ロルフ 映画スター、メアリの夫
ジョージ・ヤードリー 子爵
モード・ヤードリー ジョージの妻
マリングズ ヤードリー家の執事
ミセス・マーチンソン ポアロの事務所の大家

あらすじ

ヘイスティングスのロマンティシズムな推理が見事に外れた後、映画スターのメアリ・マーヴェルがポアロの事務所を訪ねてくる。用件は中国人が届けに来た手紙のことで、「西洋の星」と呼ばれるダイヤモンドを奪う旨の内容が記されていた。

ポアロが自分にダイヤモンドを預けるよう提案するもメアリは拒否。理由は金曜日に撮影で訪れるヤードリー猟場の夫人が、「西洋の星」と対の「東洋の星」を持っているからだった。

解説と考察

それでは本物語の解説と考察に移ります。

真相

対であると思われていた「西洋の星」と「東洋の星」は、実は一つの同じものでした。メアリが持っていた「西洋の星」は、三年前にグレゴリーがヤードリー夫人をゆすって手に入れた本物。ヤードリー家にあった「東洋の星」は、その際にすり替えられたレプリカでした。

すり替えはバレることなく時が過ぎましたが、ついに問題が生じます。真面目な生活を考え始めたヤードリー卿が、家宝の売却を検討し始めたのです。焦ったヤードリー夫人はグレゴリーに連絡。グレゴリーは二つの宝石が存在することにして奪い、すり替えを行なったことの隠ぺいを企てます。

グレゴリーがヤードリー夫人に協力させて実行した計画の手順は以下です。

  1. 中国人に手紙を届けさせる
  2. 「西洋の星」と「東洋の星」のことを新聞記事に載せる
  3. 「東洋の星」が奪われたようヤードリー夫人が演じる
  4. 中国人のようなメイクを施し「西洋の星」を奪う

新聞という媒体を使っているのが計画のうまいところ。自分たちとは無関係なものを使うことで、本当にある話らしく見せかけられます。さらにグレゴリーは宝石に掛けた保険金さえも得て、二重にお金を手に入れる目論見でした。

東洋の星の強奪

ヤードリー夫人は中国人に襲われたフリをして、「東洋の星」が奪われる演技をしました。ドアに挟まれていた絹の切れ端も中国人だと思わせる偽装。本物の宝石(レプリカ)はあらかじめ抜きとっておき、ポアロたちに見せるときには手で隠していました。

ただしこの自作自演はヤードリー夫人がとっさに考え出したことだと思います。なぜならポアロとヘイスティングスの訪問は突然のこと。加えてダイヤモンドの専門家が来るのも、ポアロが誰にも気づかれないよう行なった策略だからです。

グレゴリーが新聞記事を見て「西洋の星」を奪う行動を起こしたのも、それの裏付けとなっています。本当は手紙に書いてあった満月の夜の金曜日に計画を実行する予定だったのでしょう。ポアロの手のひらで踊らされてはいましたが、二人とも予期せぬ事態にうまく対処したとも言えるのではと思います。

ドラマについて

デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1990年に本物語を放送しました。以下は原作との主な相違点です。

原作との相違点
  • バン・ブラックスという人物が出てくる
  • マーベルがベルギーの映画スター
  • マーベルが宿泊しているホテルで事情を話す
  • ヘイスティングスがヤードリー夫人訪問のことをポアロに話すのが汽車の中
  • 結末
  • ヘイスティングスがクラブでビリヤード三昧
  • ポアロが散髪して左右の長さの違いを気にしている

ドラマではバン・ブラックスというダイヤモンドの収集家が登場人物に加わっています。ブラックスには疑わしい要素があったため、ジャップが捜査で絡んでくる筋書き。ポアロも散髪中にジャップから話を聞き、ブラックスの存在を知りました。

そして結末が大きく異なっています。ヤードリー夫人がポアロの事務所に来てすべてを告白。グレゴリーにそのことを話しても認めないので、ポアロは反撃に出ます。まずホフバーグと交渉してグレゴリーにはレプリカのダイヤモンドをつかませ、マーベルには辛い真実を告白。東洋の星をヤードリー夫人に返し、グレゴリーとブラックスは空港でジャップらに逮捕されました。

原作に比べ、ヘイスティングスのオトボケに拍車がかかっています。ビリヤード三昧の生活に始まり、ヤードリー夫人には氷のごとき冷徹な思考で対応。その対応のせいでヤードリー夫人はゆすられていることを言う勇気を失ってしまいます。オマケにタクシーに無視されるはと散々でした。

感想

二つあると思われていたものが実は一つだったという点は面白かったです。ただヤードリー卿の口ぶりから、家宝の宝石には名前など存在しなかったことは確実。したがって新聞の記事が出たら目だと騒いでいたら、グレゴリーとヤードリー夫人がどういう行動に出たのか気になるところではあります。

それからとにかくヘイスティングスの迷推理が目立っていました。メアリーの素性、ヤードリー夫人訪問の際の先走り、中国人に襲われたという推理などなど。最後にヘイスティングスは腹を立てましたが、ポアロを心の中で笑っていたのだから自業自得でしょう。

ただ最初のメアリーの素性に関しては、グレゴリーがメイクで中国人のフリをしたトリックの伏線になっているのだと思います。ほかの作品でも見られますが、ロマンティシズムが過ぎるヘイスティングスの行動や思考がヒントになっているのだと改めて感じました。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。