踊る人形(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『踊る人形』。この物語は、子どもの落書きのような人形の絵の暗号を解読する、『シャーロック・ホームズの帰還』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、結末や暗号の一覧・解き方など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『踊る人形』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
シャーロック・ホームズ | 私立探偵 |
ジョン・H・ワトスン | 医師 |
ヒルトン・キュービット | リドリング・ソープ・マナーの主 |
エルシー・キュービット | ヒルトン・キュービットの妻 |
ソーンダース | メイド |
キング夫人 | 料理人 |
エイブ・スレイニー | シカゴの極悪人 |
マーティン | ノーフォーク警察の警部 |
あらすじ
ワトスンが希少種の鳥のような格好のホームズに投資話に乗らないことを見抜かれた後、変な絵を見せられる。子どもの落書きみたいなその絵は、不格好な人形が横にずらりと並んで踊っている奇妙な代物だった。
絵を送って来たのは旧家出身のヒルトン・キュービットで、暗い過去を抱える妻のエルシー・パトリックが相談に来た理由。一年は幸せに暮らしていたものの、踊る人形の絵が送られてきて以来エルシーはすっかり怯えているという。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
踊る人形の謎とエルシーの過去
踊る人形の絵(解き方等は後述します)は、エイブ・スレイニーという男からエルシーに宛てた共通言語でした。人形の暗号を考えたのがシカゴのギャングの頭領だったエルシーの父・パトリック。スレイニーはそのギャングの一員で、エルシーと婚約関係にある男でした。
エルシーが過去を明かさなかったのは、不正を生業とする人に囲まれていた後ろ暗さを持っていたから。あるとき嫌気が差したエルシーはシカゴを飛び出します。逃げてきたロンドンで出会ったのがヒルトンでそのまま結婚。幸せな生活を送っていましたが、ついにスレイニーに見つかり話し合いで解決しようとします。
話し合いをしている最中にヒルトンが気づき、スレイニーを銃撃。ところがスレイニーには当たらず、逆に撃たれて命を落としてしまいます。責任を感じたエルシーは窓を閉めた後、自らの頭に引き金を引いた。幸い命は助かりましたが、なんともやりきれない結末でした。
暗号の変換一覧表と解読法
踊る人形の絵とアルファベットの対応表、作中に登場した暗号文とその答えを以下に図示しました。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。
ホームズが解読した手順は以下の通りです。
- 換字式暗号(ある法則により文字を変換する暗号)だと見抜く
- 最初の暗号からいちばん多い絵文字が「E」で旗を持っているのが単語の区切りだと判別
- 四つ目の短い暗号から「N」「V」「R」を判別
- エルシーと呼び掛けていると仮定し「L」「S」「I」を判別
- 三つ目の暗号からエルシーに訴えていると仮定し「C」「M」を判別
- 最初の暗号を穴埋めにして最初の絵文字が「A」二番目の単語の頭が「H」だと判別
- 最初の暗号の三番目と四番目が名前であると確信し「B」「Y」を判別
- 二番目の暗号を穴埋めにして意味の通る単語を探し「T」「G」を判別
- 五番目の暗号を穴埋めにして意味の通る単語を探し「P」「D」を判別
「E」がアルファベットで使われる頻度がいちばん高いというのが最大のポイントだと思います。それから重要なのが、二人の感情を読み取りメッセージの内容を想像すること。そしてある程度わかったところで、穴埋めにし意味の通る内容を考えてホームズは暗号を解読しました。
少し気になったのが、ホームズがスレイニーをおびき寄せるために送った暗号。「ONCE」の「E」に旗を持たせていますが、エルシーやスレイニーが送った暗号では最後の単語に存在しません。もちろん暗号を知るのは二人だけなので、エルシーが送ったメッセージだとスレイニーが思うのもわかります。ただもしルールがあったとしたら、疑いの目を向けても良かったかもしれません。
ドラマについて
ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1984年に本物語を放送しました。以下はキャストと、原作との主な相違点です。
登場人物名 | 役者名 |
---|---|
シャーロック・ホームズ | ジェレミー・ブレット |
ジョン・H・ワトスン | デビッド・バーク |
ヒルトン・キュービット | テニエル・エバンス |
エルシー・キュービット | ベッツィ・ブラントレー |
マーティン | デイビット・ロス |
エイブ・スレイニー | ユージン・リピンスキー |
キング夫人 | ロレイン・ピーターズ |
サンダース | ウェンディ・ジェーン・ウォーカー |
- キュービット家があるのがダービーシャーになっている
- キュービット夫妻が結婚してから三年が経過している
- 最初にシカゴから手紙が来たのが五月で読まずに燃やしている
- ベーカー街のアパートの前でなぜか少年が踊る人形の絵を描いている
- 暗号の説明が詳しくされない
- ホームズがヒルトンにちょっと冷たい
細かい変更点はありますが、おおよそ原作通り。ただしドラマでは冗長になるためか、暗号の詳しい説明がされません。なぜかホームズではなく、ワトスンが一生懸命説明する姿はあるのですが…。
ホームズが踊る人形の「E」と旗を持っている文字を真似するのも印象的。言葉ではお茶目な面をたびたび見せますが、ジェスチャーで見せる場面はなかなかないのではないでしょうか。また、ハドスン夫人の料理の腕があがったなんていう会話も、何気に面白いシーン。
キュービット家の屋敷のロケ地は、ランカシャー州にあるレイトンホールという場所です。Googleマップのリンクをしておきますので、よかったらご参考ください。
感想
踊る人形の絵文字も可愛かったし、やっぱり暗号は面白い。そしてホームズの暗号を解読した経緯の説明も、理路整然としていて勉強になりました。ただ材料がそろっていなかったのでしょうがないですが、それでも悲劇を防いでほしかったなとは思います。
その悲劇も、エルシーが過去を話せていたら起こらなかったでしょう。もちろん嫌われたくないとか家柄のこともあったのだと思いますが、ヒルトンは受け入れる度量も覚悟もあったように見受けられました。もし話せていたら保護してもらうなどの対応も取れたでしょう。
日付ですが、1898年の7月末~8月中旬の出来事だと思っています。根拠は女王即位記念式典が一年前であること、最初のアメリカからの手紙が届いたのがひと月前の六月末とヒルトンが話していること。そこから新たな暗号をヒルトンが持ってくるまで二週間と数日、アメリカから電報が届くまで二日かかったことを加味するとこの期間にあたるのではと思います。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のホームズ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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