100万ドル債券盗難事件(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

100万ドル債券盗難事件(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

アガサ・クリスティーのポアロシリーズ『百万ドル債券盗難事件』。この物語は、厳重に運んでいた百万ドル分の債券が船上で忽然と姿を消す、『ポアロ登場』に収録されている短編小説です。

そこでこのページでは、真相など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

登場人物

本作品の登場人物は以下です。

登場人物名 説明
エルキュール・ポアロ 私立探偵
アーサー・ヘイスティングス ポアロの友人
エスメー・ファーカー リッジウェイの婚約者
フィリップ・リッジウェイ 債権の輸送責任者
ヴァヴァスール 銀行の共同総支配人
ショウ 銀行の共同総支配人

あらすじ

ポアロとヘイスティングスが輸送中に盗まれた債権の話をしていると、エスメー・ファーカーという女性が訪ねてくる。エスメーは盗まれた債権の輸送責任者だったフィリップ・リッジウェイの婚約者で、ポアロに真相の解明をお願いしに来たのだった。

債権は特別製の鍵を付けたトランクに入れてリヴァプールを発ったが、ニューヨークへ入港する直前に忽然と消失。奇妙なのは鍵をこじ開けた跡があるにもかかわらず、トランクを別の方法で開けていたことだった。

解説と考察

それでは本物語の解説と考察に移ります。

黒幕とトリック

債権を盗んだのは、ロンドン・スコットランド銀行の総支配人であるショウでした。動機は明確になっていませんが、単純にお金のためでしょう。ショウは以下の方法で、債券をニューヨークで売っていました。

  1. ジャイガンティック号で本物の債権を輸送
  2. 銀行で偽物の債権をトランクに詰めて特別製のカギをかける
  3. ジャイガンティック号がニューヨークに着いたら債権を仲間に受け取らせる
  4. オリンピア号がニューヨークに着く直前にトランクに傷をつける
  5. 合鍵でトランクを開けて中身を海に捨てる
  6. オリンピア号がニューヨークに入港したら本物の債権を売り払う

ジャイガンティック号は大西洋横断のスピード記録を持っており、リッジウェイが乗ったオリンピア号の前日にニューヨークに入港する船です。

トランクに傷をつけ合鍵を使って中身を取り出したのがショウ。ヴェントナーという名のメガネをかけた老紳士に扮し、出くわさないために重病人を装い、リッジウェイの隣の客室に乗っていました。ショウが債権を輸送した日から二週間も病気で休んでいたのは、オリンピア号に乗っていたからだったわけです。

債権の確認

リッジウェイが輸送した偽物の債権は、当日に数えられたうえで封をされました。確認したのはショウとヴァヴァスールの二人。つまり偽物の債権は、ヴァヴァスールの目をすり抜けたことになります。

考えられる可能性は以下でしょうか。

  1. 債権はヴァヴァスールの目をごまかせるほど精巧だった
  2. ヴァヴァスールの確認が適当だった
  3. エスメーの話し間違い

いちばんありそうな可能性は1。この場合はかなり前から計画されており、仲間(かかわっていた人)も相当数いたことが示唆されます。なぜなら、かさばるほどの債権を作るにはそれなりの人数や設備が必要だからです。もしかしたらその道のプロ、もしくは裏の組織ともつながりがあったのかもしれません。

2であれば単純なミス。強いて理由をあげれば、偽物であるはずがないと安心しきっていたからでしょうか。3は言い換えると確認したのはショウだけだということ。ただしリッジウェイから聞いた話と完全に一致しているとヘイスティングスが記録しているので、可能性としては極めて低いと思います。

いずれにしてもヴァヴァスールが偽物に気づかなかったのは事実。動揺したがゆえの発言でしょうが、どこかで口外したと責め立てられたリッジウェイはちょっと可哀想です。

ドラマについて

デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1991年に『100万ドル債券盗難事件』というタイトルで本物語を放送しました。以下は原作との主な相違点です。

原作との相違点
  • ポワロに話が持ち込まれた時点で債券が盗まれていない
  • 計画が複雑化している
  • エスメーがババソアの秘書
  • マクニールが警備主任でケースを考案
  • 債券を運んだ船の名前がクイーン・メリー号
  • リッジウェイに悪い癖がある
  • エスメーがババソアの鍵を盗む
  • ヘイスティングスが女性不信に陥り乾杯する

100万ドル債券が盗まれたりショーが首謀者であることは原作と同じですが、計画がかなり複雑になっています。その最たるものはミランダ・ブルックスというショーの看護師が協力者であること。ショーを車でひきかけて命が狙われていると見せかけたり、変装して船に乗り偽の債券を海に捨てるという重要な役割を担っていました。

一方で原作では好青年だったリッジウェイが悪い癖を持っており、輸送中にも夜な夜なカードで遊び敗北。債券を盗むのに十分な動機を持つような人物に仕立てられています。そのことを心配していたエスメーはリッジウェイに疑いが向かないよう、ババソアの部屋からケースの鍵を盗んでしまいました。

債券が盗まれていないところから物語が始まるので、ポワロとヘイスティングスも警護にあたります。クイーン・メリー号に乗船できて興奮していたヘイスティングスですが、船酔いではなく牡蠣にあたって体調不良。終いにはミランダのすごい変装を見て落胆。散々な日々でしたが、キレイな女性を単純に信用してはいけないという意味でポワロは乾杯を促します。

感想

あからさまなヒントが多い珍しい作品だなと思いました。リッジウェイが出港した日にショウが病気で休んだというのは一緒に乗船したヒント。オリンピア号がニューヨークに入港する前に債権が売られていたのは、別のルートで輸送されたヒントになっていました。

これらのことがなければ、ポアロもがっかりすることはなかったでしょう。仲間の一人が債権をフライングで売っちゃったのは完全なる凡ミス。オリンピア号でのショウの役割は、別の人がやっても良かったはずです。

また、本作はことさらにポアロの自惚れが過ぎます。特に次の一言。

自分ほど才能を授からなかった人々に対しては、思いやりというやつが必要だからな

出典元:ハヤカワ文庫『ポアロ登場(百万ドル債権盗難事件)』アガサ・クリスティー/真崎義博訳

もしかしたら単純な計画にもかかわらずマクニール警部が解決できないため、多少腹が立っていたのかもしれません。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。