マザリンの宝石(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

マザリンの宝石(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『マザリンの宝石』。この物語は、盗まれたマザリンの宝石の行方をあぶり出す、『シャーロック・ホームズの事件簿』に収録されている短編小説です。

そこでこのページでは、結末など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

登場人物

『マザリンの宝石』の登場人物は以下です。

登場人物名 説明
シャーロック・ホームズ 私立探偵
ジョン・H・ワトスン 医師
ネグレト・シルヴィアス 伯爵、狩猟家
サム・マートン ボクサー
カントルミヤ卿 貴族
ビリー ホームズの給仕
ユーガル スコットランドヤードの刑事

あらすじ

「あさっての七時半に」と食事をお願いするほど、ホームズは調査で忙しくしていた。十万ポンドもする王冠ダイヤ「マザリンの宝石」を取り返すため、変装を繰り返して黒幕を追いまわしていたのである。

黒幕はネグレト・シルヴィアス伯爵だとわかってはいるものの、宝石の場所だけが不明な状況。命に危険があることも含めワトスンに事情を説明したとき、なんと黒幕本人がホームズを訪ねてくる。

解説と考察

それでは本物語の解説と考察に移ります。

結末

マザリンの宝石は、シルヴィアス伯爵本人が持ち歩いていました。理由はいちばん安全だから。しかしホームズは以下の手順で、マザリンの宝石を懐から出させました。

  1. シルヴィアス伯爵にさんざん揺さぶりをかける
  2. ヴァイオリンを持って寝室に行きシルヴィアス伯爵とマートンを二人にさせる
  3. 蓄音機を使ってヴァイオリンの音を出す
  4. 寝室の別のドアから人形のある場所へ行く
  5. 油断してマザリンの宝石を出したときにつかみ取る

そしてワトスンに呼んでもらっていた警官が来てシルヴィアス伯爵とマートンを確保。嫌味なカントルミヤ卿のポケットに手に入れたマザリンの宝石を忍ばせ、本人いわく茶目ないたずらをしてぎゃふんと言わせます。

ベーカー街221Bの構造

ホームズはマザリンの宝石を取り返すとき、寝室の別のドアから出て窓のあたりに忍んでいました。以下はベーカー街221Bの部屋で、ホームズがたどったであろう経路です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

ベーカー街221Bの構造

文章から、何かしらの方法でカーテンは抜け出てきたドアまで引いてあった可能性があります(マートンが「多すぎる」とぼやくのも根拠の一つ)。

シルヴィアス伯爵とマートンに気づかれなかったのは、本人も言っている通り好運と言わざるを得ません。足音、ドアの開閉音、人形を動かした音(二人は一瞬気になっている)など、さまざまな音が狭い空間で発生するからです。ヴァイオリンの音に加えベーカー街はかなりにぎわっている通りなので、かき消してくれる要素になったかもしれませんが。

何よりも気になるのがベーカー街221Bの構造。少なくとも『緋色の研究』では、寝室が二つと記述されています。つまりホームズは、元々ワトスンの寝室だった部屋から出てカーテンの奥に忍んだ。二つの寝室がつながっていたことも驚きですが、もしかしたらワトスンが出て行っちゃったから勝手に改造しちゃった可能性もなきにしもあらずです。

ドラマについて

ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1994年に『マザランの宝石』というタイトルで本物語を放送しました。以下は原作との相違点です。

原作との相違点
  • 『三人ガリデブ』と組み合わせたストーリーになっている
  • ホームズが旅に出て不在
  • ワトスンがガリデブ、マイクロフトがマザランの宝石の調査をする
  • ガリデブ姉妹が相談に来る
  • ネイサンがワトスンの恩師
  • ネイサンの家の地下にあるのが宝石の加工場
  • シルヴィアスとの決闘が港

本エピソードはタイトルこそ『マザランの宝石』であるものの、別作品『三人ガリデブ』との組み合わせになっています。しかも調査を担当するのが、ホームズではなくワトスンとマイクロフト。ホームズは強迫観念にとらわれていたため、ハイランド地方へ旅に出てしまいました。

ただし二つの謎は、最後に奇妙な交わりを見せます。シルヴィアスが宝石を盗みジョン・ガリデブが加工する共謀関係にあったのです。この結末に持っていくため、ネイサンの家の地下にあるのが偽札工場から宝石の加工場に変更となっています。

お笑い要素はネイサンがワトスンの恩師だという点です。かつての教え子であるにもかかわらず、ワトスンのことをワトキンスと間違える始末。途中でジョンには修正しますが、いっそのこと最後まで間違えたままでも面白かったかもしれません。

感想

珍しく三人称(ワトスンが執筆していない)で書かれ会話も多いなと思ったらそれもそのはず。原作は『王冠のダイヤモンド シャーロック・ホームズとの一夜』という戯曲で、本作は小説用に書き下ろされたもの。舞台がベーカー街のアパートだけで完結しているのも、それが理由でしょう。

ワトスンがビリーに人形を見せてもらったときこんなことを言いました。

まえにも一度こんなものを利用したことがあったよ

出典元:新潮文庫『シャーロック・ホームズの事件簿(マザリンの宝石)』コナン・ドイル/延原謙訳

これは『空き家の冒険』での出来事。ニヤニヤしたのは自分だけではないはず。

シルヴィアス伯爵がホームズのもとを訪れたのは、どれほど知られているか確かめ葬るかを判断することが理由でした。しかし捕まる直前に話していたのは逃亡計画。結果論かもしれませんが、それなら最初からホームズになどかかわらず逃げてしまえば良かったのにと思います。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。

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