安いマンションの事件(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アガサ・クリスティーのポアロシリーズ『安アパート事件(安いマンションの事件)』。この物語は、高級マンションが破格の値段で貸し出されていた謎を追う、『ポアロ登場』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、真相など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
本物語の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
エルキュール・ポアロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポアロの友人 |
ジェラルド・パーカー | ヘイスティングスの旧友 |
ジョン・ロビンソン | モンタギュー・マンションの借り主 |
ステラ・ロビンソン | ジョンの妻 |
エルシー・ファーガソン | ステラの友人 |
エルザ・ハート | コンサート・シンガー |
ルイジ・ヴァルダルノ | アメリカ政府の役人 |
ジェームス・ジャップ | スコットランドヤードの主任警部 |
あらすじ
ロビンソン夫妻が極端に安い家賃でマンションを見つけた話をヘイスティングスが聞いてくる。安い家賃に惹かれ大勢の人が見に行ったにもかかわらず、借り主が決まっていなかったという奇妙な話だった。
さらにおかしなことに、守衛の話ではロビンソン夫妻は引っ越してきてからもう六か月が経つという。興味を持ったポアロは、ヘイスティングスと一緒に同じマンションに部屋を借りて様子を見ることにする。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
真相
家賃が極端に安かったのは、とにかく多くの人に内見させたかったからでした。目的は「ロビンソン夫妻」が内見に来る可能性を上げること。エルシー・ファーガソンら多くの人が断られた(もう借り手が決まったと言われた)のは、名前が違ったからでした。
貸し主の正体はエルザ・ハート。アメリカから重要書類を持って逃げてきた女性で、利用したルイジ・ヴァルダルノが所属していた組織に追われている身でした。そんな状況で、エルザは組織が自分の名前しか把握していないことに光明を見出します。
それが自分の身代わりを用意すること。ロビンソン名義で部屋を借り、相場より遥かに安い家賃に釣られてきたロビンソンに又貸しし、自分の代わりに命を奪われてもらう。エルザはそうやって組織の追手から逃れ、自由の身になろうとしていたわけです。
マンション貸し出しまでの期間
ヘイスティングスがパーカーの集まりでステラに話を聞いてきてからエルザを確保するまでの出来事をまとめると以下のようになります。
曜日 | 出来事 |
---|---|
木曜日 | ヘイスティングスがステラから話を聞く |
金曜日 | ポアロ調査開始、ロビンソン夫妻引っ越し |
土曜日 | ポアロとヘイスティングス引っ越し |
日曜日 | ポアロがロビンソン夫妻の部屋のカギに細工 |
月曜日 | ポアロがジャップからエルザの話を聞く |
火曜日(未明) | エルザ確保 |
エルザがアメリカで重要書類を奪ったのが半年前。マンションの守衛の話と一致します。
気になるのは月曜日の二週間前に日本人、およびイタリア人がイギリスに渡ってきていたこと。つまりロビンソン夫妻が引っ越してくるまでの約十日間、エルザはマンションにいたわけです。内見に立ち会っているため日中はマンションにいたと思いますが、もしかしたら夜は隠れ家の方に行っていたのかもしれません。
いずれにしてもエルザにとって十日間は、いつ襲われてもおかしくない危険な状態にあったと言えます。逆にイタリア人の組織は、二週間もエルザの居場所を突き止められなかったということ。合衆国秘密情報部にも同じことが言えますが、あまり情報収集能力が芳しくなかったのでしょう。
ドラマについて
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1990年に本物語を放送しました。以下は原作との主な相違点です。
- 映画を観た帰りにジャップがFBIの人が来ると話すのが取っ掛かり
- パーカーのパーティーにポアロも参加
- ポアロとヘイスティングスが序盤にバートと会う
- ヘイスティングスがロビンソン夫妻を訪問している最中にポアロがカギに細工
- エルザ・ハートの隠れ家が「黒猫」というお店
- コーザ・ノストラの男をいったん取り逃がす
ストーリーは原作に則っていますが、ところどころ違いがあります。ポアロがするカギの細工も大きな変更点の一つです。原作では留守中に行いますが、ドラマではヘイスティングスが意味の分からないブラシの話で引きつけている間にカギを細工。しかもポアロが過って工具を落とし、ヘイスティングスが機転を利かせて難を逃れます。
エルザ・ハートの隠れ家が「黒猫」というクラブになっているのも大きな変更点。ポアロが怪しんで前もって訪問。その夜、レモンが婦人の会を装って黒猫を訪ね、特ダネをゲットする大活躍ぶりでした。
原作ではコーザ・ノストラの男とともにエルザ・ハートの居場所に行きますが、ドラマではいったん取り逃がします。そして男はヘイスティングスのリボルバーを持って黒猫に登場。弾を抜き取っておいた結末は同じですが、バートがずっといないと主張していたコーザ・ノストラの存在は明るみになります。
感想
うまい話には裏があると言いますが、これはとんでもない話です。まったく関係ないロビンソン夫妻が、身代わりになって命を奪われそうになったのですから。もちろん安く良い物を手に入れるのも大事だと思いますが、価格にはそれ相応の意味があるのだとつくづく感じます。
ポアロはマンションに引っ越してから三日と少しで謎を解明しました。その調査能力は、イタリアの組織や合衆国秘密情報部もなかなか突き止められなかったことを考えると凄いと言わざるを得ません。ただマンションを一か月も借りてしまったので、残りの期間はどうしたのか気になるところではあります。
笑ってしまったのがヘイスティングスの話の盛り具合。十二時にロビンソン夫妻の部屋に侵入して「八時間も待ったように感じた」と書いてありましたが、そんなに経ってたらイギリスは朝です。ただし、ものすごく長く感じたんだなぁってのは伝わってきます。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
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