ボール箱(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『ボール箱』。この物語は、人間の耳がボール箱に入って届けられた謎を追う、『シャーロック・ホームズの思い出』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、『ボール箱』の結末などの解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『ボール箱』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
シャーロック・ホームズ | 私立探偵 |
ジョン・H・ワトスン | 医師 |
スーザン・クッシング | クロイドンのクロス街に住む独身女性 |
セアラ・クッシング | スーザンの上の妹 |
メアリー・ブラウナー | スーザンの下の妹 |
ジム・ブラウナー | メアリーの夫、船乗り |
レストレード | スコットランドヤードの警部 |
あらすじ
オーブンに突っ込まれたような暑さの八月のある日、ワトスンはホームズに奇妙な新聞記事を教えてもらう。スーザン・クッシングという女性の家に、二つの人間の耳が入ったボール箱が届いたという記事である。
二つの耳の一つは女性、もう一つは男性のもの。警察はかつて下宿していた医学生の仕業だと見ていたが、スーザンには気難しい上の妹と手を付けられない船乗りと結婚した下の妹の存在があった。
解説と考察
それでは『ボール箱』の解説と考察に移ります。
真相
二つの耳は、メアリー・ブラウナーとその不倫相手のアレック・フェアベアンという男性のものでした。送り付けたのはメアリーの夫であるジム・ブラウナー。動機は嫉妬でしたが、何より夫婦の愛情を壊したセアラに復讐することが目的でした。
セアラがジムに好意を寄せたのがそもそもの始まり。想いがかなわないとわかると、セアラはメアリーにあれこれ吹き込み疑心暗鬼にさせていきます。結果、ケンカが絶えなくなりジムは荒れ、夫婦の溝は深まるばかり。メアリーの心はアレック・フェアベアンのもとへ離れていってしまいました。
ホームズが謎を解明する手がかりとしたのは以下の情報です。
- ボール箱の紐が船舶で帆を縫うのに使われるもの
- 結び目が船乗り特有
- メイデイ号が最初に寄港するベルファストからボール箱が送られている
- 耳にピアスをするのは海の男が多い
- 筆跡
セアラが出て行ったことを知らなかったジムは、ボール箱を間違ってスーザン宅に発送。もしちゃんとセアラの家に届いていたら、彼女が隠ぺいする可能性もあるためメアリーとアレックは行方不明のままだったかもしれません。また、宛名を「S」ではなく「セアラ」と書けば、事態は違った様相を見せたでしょう。
耳の形状
耳の形状には人それぞれ個人差があります。先が丸かったり尖っていたり、耳たぶの大小、正面から見て張っていたり隠れていたりと、形作る要素が多岐にわたるからです。そのため耳の形状は、個人を特定するのに役立つ一つの材料にもなります(耳の形の占いなんていうのもあるようです)。
本作と関わりがあるポイントは遺伝性。耳の形状は親から受け継がれるものであり、兄弟とも似たものになるといわれています。つまりスーザンと送られてきた耳の一つが類似していたということ。ホームズもスーザンの耳を見て、「捜査の範囲が一気に狭まった」と言っています。
一方のスーザンはメアリーの耳であることに気づかなかったのでしょうか。これは特に興味がなければ、他人のどころか自分の耳さえ判別することが難しいので無理だと思います。したがってホームズが謎の解明をいち早くできたのは、専門家ならではの視点を持っていたからといえるでしょう。
ドラマについて
ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1994年に本物語を放送しました。以下は原作との主な違いです。
- クリスマスの出来事になっている
- 同時期に墓荒らしが起きている
- ホーキンズ警部が登場
- 医学生の下宿人が一人でマルセル・ジャコテという名前がある
- スーザンがメアリー失踪の相談をホームズにする
- サラが荷物を取りに来たときに耳を見る
- ホームズとワトスンがサラに会う
- ジムがサラに接触したところにホームズたちが現れる
- ジムがメアリーの幻を見て命を奪ったときのことを思い出す
- ホームズがワトスンの表情を読み取る場面がない
ストーリーはおおよそ原作と同じ。大きな変更点を挙げるとすると、時期がクリスマスになっていることでしょう。なんと耳の入ったボール箱をスーザンが開けるのはクリスマスパーティーの最中という、ショッキングな出来事になっています。
メアリーの失踪を受け、スーザンがホームズに相談するシーンも追加。ところがホームズはほとんどまじめに取り合わず、家出人捜しを紹介しただけ。後日、スーザン宅に耳が届けられるため、ある意味ホームズはミスをしてしまったと言えるでしょう。
クリスマスということで、ホームズがハドスン夫人にワトスンに送るプレゼントを相談します。提案してもらったガメージズ百貨店で買った服を着てワトスンは大喜び。一方パイプをプレゼントされたホームズも喜ぶ仲睦まじい姿が見られますが、ホーキンズ警部の来訪により一瞬で打ち消されてしまいます。
感想
人間の耳だけが送られてくる猟奇性はとても不気味でした。加えて送られて来たボール箱から、ホームズがいろいろ推理していく姿も面白い。スーザンの耳の観察も、最初にホームズがワトスンにした読心術がちょっとした伏線になっていたのだと思います。
ただいちばん印象的だったのは、セアラの悪意や嫉妬によって夫婦の愛が壊されてしまったこと。メアリーも他人ならまだしも、実の姉に吹き込まれてしまっては疑惑を持たざるを得ません。もちろんジムの弱さもあったと思いますが、メアリーを傷つけまいと隠したことも裏目に出た。ホームズも最後悲嘆していたように、とても空しい話でした。
その代わりかどうだったかは不明ですが、ホームズとレストレードのやり取りで生まれた言葉のチョイスが面白かったです。
生まれてこのかた、これほど真面目だったことはないよ
出典元:角川文庫『シャーロック・ホームズの回想(ボール箱)』コナン・ドイル/駒月雅子訳
ホームズは普段ちょっとふざけているのでしょうか。また、レストレードを「ブルドッグのようにしぶとい」と言っていたのも笑いました。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のホームズ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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