バスカヴィル家の犬(ホームズ)のネタバレ解説・相関図・あらすじ
アーサー・コナン・ドイルが執筆した『バスカヴィル家の犬』。この物語は、バスカヴィル家の当主が怪物のような犬に命を奪われた謎を追う、シャーロック・ホームズシリーズの長編小説第三弾です。
そこでこのページでは、真相や人物相関図など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説の前に、本作品の登場人物の最終的な相関図とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
最終的な人物相関図
以下は、『バスカヴィル家の犬』の最終的な人物相関図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。
あらすじ
◆ バスカヴィル家の伝説
ワトスンが褒められ落とされしながら忘れもののステッキについてホームズと推理していると、当の持ち主であるジェームズ・モーティマーが訪ねてくる。三か月前に命を落としたチャールズ・バスカヴィル卿の、不思議な現場状況についてモーティマーは話し始めた。
バスカヴィル家には先祖が怪物のような犬に食いちぎられ命を落としたことから、暗い夜には沼沢地に近づくなという言い伝えがあった。チャールズは本人も恐れていたその沼沢地で息絶えており、モーティマーは少し離れたところで巨大な犬の足跡を見つけたという。
◆ 尾行していた男
モーティマーは不吉なバスカヴィルの館に相続人のヘンリーを住まわせても良いものか判断を仰ぎに来ただけだった。以前から沼沢地では青く光る大きな動物が目撃されていたため、チャールズ絶命は超自然現象によるものだと思いかけていたのである。
ところが翌日にかけ、沼沢地に近づくなという手紙が届いたり、靴が二度も盗まれたりと、ロンドンに着いたヘンリーの周りで奇妙なことが立て続けに発生。何より一泡吹かされたのは、ヘンリーを尾行していた男が調べられると見越してシャーロック・ホームズと名乗っていたことである。
◆ バスカヴィルの館
護衛兼報告の役割を任されたワトスンは、ヘンリー、モーティマーとともにデヴォンシャーにあるバスカヴィルの館に到着。不気味極まりないこの地に凶悪なセルデンという人物が逃亡してきたこと、そして夜中には執事バリモアの妻の忍び泣きを聞く。
メリピット荘に住むベリル・ステイプルトンは、兄・ジャックの目を忍んでロンドンへ帰るよう警告。その真意はわからなかったが、一瞬で惹かれ合ったヘンリーとベリルを兄が快く思っていないことだけは確かだった。
◆ 謎の怪人物と黒幕の正体
実はバリモアの妻の弟だったセルデンを取り逃がした直後、ワトスンは岩上にいる怪人物を目撃。なんとその正体は、ワトスンに内緒で捜査をしていたホームズだったのである。
ワトスンのこと細かい報告とホームズの調査により、バスカヴィル家の周りで起こっていた奇妙な現象はジャック・ステイプルトンによるものだと判明。ホームズは決定的な証拠をつかむため、網を張り巡らし最後の決戦に臨む。
解説と考察
それでは、本物語の解説と考察に移ります。
黒幕と動機
チャールズ・バスカヴィルを亡き者にしたのは、メリピット荘の主であるジャック・ステイプルトンでした。動機はバスカヴィル家にあった莫大な遺産。実はバスカヴィル家の血を引いていた自分に巡ってくるよう、ジャマ者を排除するのが狙いでした。
実際にステイプルトンがチャールズの命を奪った手順は以下です。
- ローラ・ライオンズに手紙を送らせてチャールズを沼沢地へ向かう小門に呼び出す
- もっともらしい理由をつけてローラ・ライオンズを待ち合わせ場所に行かせないようにする
- まんまと小門に来たチャールズに向け巨大な犬を解き放つ
- チャールズがあまりの恐怖で息絶える
小門付近に残っていたたくさんの足跡はチャールズが待っていたときにできたもの、半分だけの足跡は犬から逃げて走ったときにできたもの。襲った犬の足跡が残らなかったのは、並木道の両側にある芝生を通っていたからです。
実は妻だったベリル、夫との関係に悩んでいたローラ・ライオンズ、そしてチャールズの優しさ。ステイプルトンは自分の欲望のためにあらゆる人の気持ちに付け込んで利用していました。しかしホームズの危なっかしい計画により、ヘンリーを襲った犬は撃たれ絶命。真相は不明ですが、逃亡したステイプルトンは底なし沼に落ちて消えたと推測されます。
バリモアの妻が泣いていた理由
ワトスンがバスカヴィルの館に着いた日の夜、どこかで忍び泣く女性の声を聞きます。その正体は家政婦のイライザ・バリモアで、理由は刑務所から逃げ出した弟・セルデンの身を案じていたから。ステイプルトンの計画の裏で動いていた、悪く言えばとても紛らわしい要素でした。
夫のバリモアはヘンリーに内緒で二日に一回、セルデンの安否を確かめるために夜中に合図。沼沢地に隠れているセルデンに食事や衣服を届けていました。しかし結果的にこれがあだとなり、セルデンはヘンリーに間違われ犬に襲われてしまいます。
魔犬の正体
チャールズやセルデンの命を直接奪ったのは、ステイプルトンが飼いならしていた獰猛な犬でした。体長は小さなメスのライオンくらいあり、犬種はロス・エンド・マングルズというブラッドハウンドとマスティフの雑種。さらにバスカヴィル家の伝説により近づけるため、眼や鼻の周りにリンを塗り火を演出していました。
リンは暗所で青白く発光する物質(元素)。種類がいくつかあるのですが、発光しているため使われているのは白リン(ニンニクのような臭いがある)だと思います。燃えていたのもリンが空気中で起こす自然発火の影響。犬自身熱くなかったのかは気になりますが…。
もう一つ気になるのは、空腹にもかかわらずステイプルトンを襲わなかった点。臭いを嗅がせ人を襲わせるくらいの理性を残す絶妙なラインで、ステイプルトンは犬を管理していたのかもしれません。
ドラマについて
ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1988年に『バスカビル家の犬』というタイトルで本物語を放送しました。以下は原作との違いの中でも比較的大きなものです。
- ヘンリーが靴をなくしてホテルの従業員と揉めているところをホームズとワトスンが見ている
- ホームズがロンドンで尾行されているのに気づいたのが朝食をともにしたレストラン
- ホームズがヘンリーに同行するワトスンへの指示を手紙で伝える
- ホームズがワトスンの手紙を郵便局から受け取る
- ヘンリーの盗まれた靴が見つかったのが持ち帰ったカバンの中
- ワトスンとヘンリーがセルデンを取り逃がした後にバリモア夫妻から事情を聞く
- ワトスンがモーティマーといっしょにホームズの隠れ家に行く
- ホームズの作った料理がひどい
- 最後の仕上げにモーティマーが同行している
いちばんの違いはクライマックスでモーティマーが同行していることです。原作ではレストレード警部がロンドンからやってくるのですが、演じているコリン・ジェボンズのスケジュールが合わなかったのだとか。
また、長編小説を二時間のドラマにまとめているので多くの場面がカットされています。特に序盤にホームズが仕掛けたバリモアの不在確認、切り抜きに用いた新聞、逃げた馬車の調査はすべて行っていません。ワトスンが一人でローラ・ライオンズに会いに行く場面もなくなっています。
使用されたロケ地が美しいのも印象的でした。ご参考までに、特定できたロケ地を以下にまとめておきます(「Googleマップ」をクリックすると新しいタブで地図が開きます)。
シーン | ロケ地 | 場所 |
---|---|---|
バスカヴィル家 | ヒースハウス(The Heath House) | Googleマップ |
メリピット荘(ステイプルトン家) | カステルンホール(Castern Hall) | Googleマップ |
ヘンリーとベリルがこっそり会ったりなどした岩場 | ブリムハムロックス(Brimham Rocks) | Googleマップ |
バスカヴィル家の最寄り駅 | リーバイシャム駅(Levisham Station) | Googleマップ |
感想
バスカヴィル家の伝説になぞらえたトリック。それををいかにして実現したのかと考えながら読んでいましたが、本当に犬が襲っていたという結末には驚きました。臭いを嗅がせ人を襲わせる犬に育てていたころから、ステイプルトンはそれなりの時間をかけていたのでしょう。その努力を別のところに注げば良かったのに。
いつものことですが、ホームズから事実だけを報告だと言われているのにワトスンが結構憶測を書いているのが面白かったです。
これはなにか情事に関する内証ごとではなかろうかと気がついた。
出典元:新潮文庫『バスカヴィル家の犬(第九章 暗夜の怪光)』コナン・ドイル/延原謙訳
これは十月十五日の報告でバリモアの行動に関する記載ですが、「ホームズの正しい判断に待つ」と書いた直後。思い切り憶測ですし的外れもいいところです。ワトスンの愛らしい面が見えて思わず笑っちゃいました。
デヴォンシャーの風景描写が多く登場するのも印象的でした。現在はデヴォン州と呼ばれているこの地は、今でも多くの自然が残っています。ちなみに本作を執筆するきっかけとなったのは、冒頭でドイルが賛辞を述べているロビンソンから聞いたエピソード。このエピソードの舞台となっているのがダートムーアという場所で、実際にデヴォン州にあります。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のホームズ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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