カーテンポワロ最後の事件ネタバレ解説・あらすじ・感想・相関図

カーテンポワロ最後の事件ネタバレ解説・あらすじ・感想・相関図

アガサ・クリスティのミステリー小説『カーテン ポアロ最後の事件』。この物語は、ポアロとヘイスティングスがあのスタイルズ荘でXなる悪人を追う、ポアロシリーズ最後の作品です。

そこでこのページでは、「人物相関図」や「物語のポイント」を確認しながら、本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説の前に、最終的な人物相関図あらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

最終的な人物相関図

以下は、本作品の登場人物の最終的な相関図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

カーテンの相関図

あらすじ

◆ スタイルズ荘ふたたび

ポアロからの手紙を受け取り、ヘイスティングスはあのスタイルズ荘にふたたびやってくる。今では高級下宿となったスタイルズ荘でポアロは療養しているのかと思ったが、なんと凶悪な人物を探しているというのだ。

ポアロは過去に起きた5件の悲劇の概略をヘイスティングスに見せる。一見何も共通点がなかったが、すべてにXなる人物が関与していて今スタイルズ荘に滞在しているというのだ。

◆ 第1の悲劇

狙われている人物が不明なまま、共にこれから起こるだろう悲劇を未然に防ごうと決める。しかしポアロはヘイスティングスが物言う顔だという理由で、Xが誰かを頑なに教えなかった。

ヘイスティングスが探りを入れながら過ぎていったある日、ジョージ・ラトレルが妻のデイジーを撃ってしまう悲劇が発生する。幸い急所を外れ命は助かったが、この一件はポアロから聞いた5つのケースによく似ていた。

◆ ヘイスティングスの凶行と第2の悲劇

ヘイスティングスの娘のジュディスが、忌まわしい話を持つアラートンと親しい間柄になっているという問題が浮上する。娘を救いたい一心でヘイスティングスはアラートンの命を奪う決心をしたが、待っているうちに眠り込んでしまった。

ヘイスティングスの凶行が失敗に終わった翌日の夜、バーバラ・フランクリンがみんなにコーヒーを振舞う。和気あいあいとして終わったかに見えたが、バーバラは夫のジョンが研究していたフィソスティグミンを原因にして命を落とした。

◆ ノートンと名探偵の最期

幾日か後、密室となった部屋でノートンが額の真ん中を撃ち抜かれているのが発見される。そして前夜にノートンから秘密を打ち明けられたポアロも、ベッドで息絶えているのが見つかった。

Xには意味をなさないと言っていたポアロのヒントは、戯曲『オセロ』と『ジョン・ファーガスン』の本、ジョージに会ってみたまえという紙切れだった。ジョージに会った4ヶ月後、ヘイスティングスはポアロから真相を書いた手記を受け取る。

解説と考察

それでは本物語の解説と考察に移ります。

犯人Xの正体

ポアロとヘイスティングスがXと呼んでいた人物の正体はスティーヴン・ノートンでした。ただしノートンは直接手を下すことはしません。言葉巧みに人の持つ心の弱い部分に働きかけ、命を奪ってはいけないという良心・理性を押しつぶしていたのです。

動機は自らが手を出さずに人が人の命を奪う姿を見られる快楽。いわば人を思いのまま操れる権力意識です。なぜノートンはこのような歪んだ精神を育んでしまったのか。それは人々に軽視され続けてきたからだとポアロは説明しています。

教唆ではない会話で接した人を凶行に駆り立てるだけのため、当然ノートンは捕まりません。ポアロが残した『オセロ』や『ジョン・ファーガスン』にはこのテクニックが書いてあったのです。凶行そのものを未然に防ぐにはノートンの命を奪うことのみ。ポアロはそう考え、人生の最後にノートンを亡き者にする決断をしました。

それぞれの事件の真相

ここからは、ノートンが操って起きた悲劇や、ポアロの凶行の真相を解説していきます。

ジョージ・ラトレルの銃撃

妻から受ける重圧、人前で感じる屈辱感。ノートンはこの感情に目をつけ、ジョージの妻デイジーに対する恨みを増幅させていきました。

はじめはブリッジをした後、「ジョージは自分を主張するなんてできない」と言ったりしたヘイスティングスとの会話。やや大声になったのは感情の昂ぶりかと思われましたが、ジョージ本人にしっかりと聞かせたかったのです。続いてジョージがおごろうと言い出したときの次の状況。

  1. 「喉が渇いたな」とノートンが言い出す
  2. ジョージがおごろうと言って家の中に入っていく
  3. おごっていはいけないとジョージがデイジーに怒られる
  4. ノートンが話し続ける
  5. ボイド・キャリントンが兄を撃った従僕の話をしだす

1でノートンは家の中にデイジーがいると知っていたため、ジョージと何かもめごとに発展すると予測。案の定屈辱を受けたジョージの傷をえぐるように、ノートンは話し続けました。そしてボイド・キャリントンが兄を撃った従僕の話を持ち出し(ノートンが吹き込んだ話)、お膳立て完了。ジョージの中に蓄積された恨みが忍耐の限界を迎え、デイジーを撃ってしまったわけです。

ただジョージはデイジーを愛していたがゆえ、本能的に的を外しました。ノートンの目論見が失敗した一例です。

ヘイスティングスの凶行未遂

ノートンの次のターゲットはヘイスティングスでした。潔癖で誠実な性格、子への愛情や責任感、奪い去る者に感じる嫉妬、妻を頼れない無力感。ヘイスティングスのつけこめそうなあらゆる点を見抜き、アラートンの話をして感情を刺激したのです。

ボイド・キャリントンを差し向けたり、アラートンと逢引きしている人はジュディスだと思わせたりと、ノートンはさまざまな策を講じました。さらにジュディスの思わせぶりな行動、アラートンがXではないかという疑惑もヘイスティングスを駆り立ててしまったのでしょう。

アラートンの命を奪うことを決意したヘイスティングスでしたが、待っているうちに眠り込んでしまいました。直前にポアロに勧められたチョコレートの中に睡眠剤が入っていたからです。

バーバラ・フランクリンの落命

バーバラはいわば上流階級のような生活を夢見てジョン・フランクリンと結婚しました。ところが名声はほどほどで経済的にも期待外れ。そこでジョンを亡き者にし、準男爵位と財産を持つボイド・キャリントンと一緒になろうと企てたのです。

バーバラはみんなを自室に招待し、ジョンにカラバル豆のアルカロイド入りのコーヒーを淹れました。思わぬことが起こったのはそのときで、みんなが流れ星を見ている間にヘイスティングスが書架を回転。本来ジョンが飲むはずだったコーヒーがバーバラの前に行き、彼女は命を落としてしまいました。

ポアロはバーバラが自ら命を絶ったという説を強調。無実のジョンやジュディスに、疑いがかからないようにするためでした。

ノートンとポアロの落命

前述したとおり、ノートンの命を奪ったのはポアロです。その凶行、最後の大仕事は次の手順で行われました。

  1. ノートンを部屋に呼び睡眠剤入りのチョコレートを飲ませる
  2. 車いすにノートンを乗せてカーテンの陰に隠す
  3. みんなが寝静まってから車いすを押してノートンの部屋へ
  4. ノートンの部屋着を着て髪をくしゃくしゃにしヘイスティングスの部屋をノック
  5. 部屋着を着せたノートンをベッドに寝かせ撃つ
  6. 鍵をノートンのポケットに入れる
  7. 合鍵を使って鍵をかけ自分の部屋に戻る

睡眠剤はチョコレートのポットに入っておりポアロも一緒に飲みましたが、常用していたためほとんど効き目はありませんでした。加えてストリキニーネの中和作用(この方法にピンと来る人も多いと思います)も手伝います。

そしてヘイスティングスが見たノートンの姿はポアロの変装。エジプトでの療養で、ポアロは歩けるくらいに回復していたのです。かつらはヘイスティングスも気づいていましたが、髭もなんと付け髭でした。

ノートンの部屋を密室にできたのも、過去に合鍵を作らせたポアロのみ。額の中心を撃ったのは、ポアロらしいシンメトリーを意識してのことでした。

凶行の後、ポアロは亜硝酸アミルのアンプルを自ら遠ざけました。懲罰として命が尽きるのを早めるためです。

ドラマ「名探偵ポワロ」について

デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、第70話(最終話)で2013年に本物語を放送しました。以下はキャストと、原作との主な相違点です。

キャスト

登場人物名 役者名
エルキュール・ポワロ デヴィッド・スーシェ
アーサー・ヘイスティングス ヒュー・フレイザー
ジュディス・ヘイスティングス アリス・オル=ユーイング
ジョン・フランクリン ショーン・ディングウォール
バーバラ・フランクリン アンナ・マデリー
スティーブン・ノートン エイダン・マカードル
ウィリアム・ボイド・キャリントン フィリップ・グレニスター
エリザベス・コール ヘレン・バクセンデイル
トービー・ラトレル ジョン・スタンディング
デイジー・ラトレル アン・リード
アラートン マシュー・マクナルティー
クレイブン クレア・キーラン
ジョージ デイビット・イェランド

原作との主な違い

  • ジョージ・ラトレルの名前がトービー
  • リッチフィールドが三姉妹
  • オセロとジョン・ファーガスンのヒントが出てこない

本ドラマは原作にほぼ忠実と言ってよいでしょう。強いて異なる点を挙げるとすれば、ポアロが『オセロ』と『ジョン・ファーガスン』のヒントを残していないこと。ヘイスティングスが箱を開けたときに何かしら本が出てきましたが、特に言及されず挟まった紙切れが落ちただけでした。

スタイルズ荘の外観のロケ地はシャーバーン城(Shirburn Castle)です(Googleマップ)。イングルソープ家が住んでいたときと違うロケ地なので、改築されてしまったという設定かもしれません。

感想

悲しい結末ではありますが、ポアロらしい最後だと思いました。誰にも打ち明けず着実に計画を進め、人々を救う仕事をやり遂げたからです。それにヘイスティングスの登場、スタイルズ荘という舞台、ストリキニーネやトレードマークの髭さえも利用するトリックは集大成を感じさせます。

ただ本当に命を奪うことが正しかったのか、評価が分かれるところでしょう。ほかの人々を救うためとはいえ、命を奪うことを個人が正当化してしまう行為だからです。それぞれの中に正義はあると思いますが、それを独断で正当化してしまうと法が意味をなさなくなり無法地帯と化してしまいます。

次の言葉は、ポアロが手記の最後に書いたヘイスティングスへのメッセージと自身の感情です。

友よ、もう一緒に狩りをすることもない。われわれの最初の狩りの舞台はここスタイルズ荘だった―そして最後の狩りもまた…
思えばすばらしい日々だった。
さよう、すばらしい人生だった…

出典元:ハヤカワ文庫『カーテン ポアロ最後の事件』アガサ・クリスティー/中村能三訳

言葉通り素晴らしい人生だったと思っていたのでしょうが、もっと続けていたいという名残惜しさも感じます。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。

その他のポアロ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。