修道院屋敷(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

修道院屋敷(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『修道院屋敷』(翻訳者により『僧坊荘園』『アビイ屋敷』と訳されているものもアリ)。この物語は、修道院屋敷の主人が亡き者にされた謎を追う、『シャーロック・ホームズの帰還』に収録されている短編小説です。

そこでこのページでは、本作品の結末などの解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

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物語について

解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

登場人物

『修道院屋敷』の登場人物は以下です。

登場人物名 説明
シャーロック・ホームズ 私立探偵
ジョン・H・ワトスン 医師
スタンリー・ホプキンズ 警部
ユースタス・ブラックンストール 修道院屋敷の主人
メアリ・ブラックンストール ユースタス・ブラックンストールの妻
テリーザ・ライト メアリ・ブラックンストールの専属メイド
ジャック・クローカー 船長

あらすじ

資産家のユースタス・ブラックンストール絶命の件で助力を乞われたホームズは、ワトスンを無理やり起こして修道院屋敷に赴く。ところが夫人の証言でランダル家の三人組が手を下したとわかり、ことはあらかた片付いたという話でまとまっていた。

現場となった部屋は夫人の話に矛盾はない状況で、ユースタスは火かき棒で頭を割られ見るも無残な姿。奇妙なのは盗られたものがほとんどなく、顔を見られた夫人が処分されていないことだった。

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解説と考察

それでは本物語の解説と考察に移ります。

真相

ユースタスを亡き者にしたのは、アデレード・サウサンプトン社の船長であるジャック・クローカーでした。動機は愛するメアリの救助。ユースタスに日ごろから酷い仕打ちを受けていたメアリを、守ろうとして起こった悲劇でした。

当初、メアリやテリーザの証言に矛盾はないと思われましたが、ホームズはいくつかの違和感を覚えます。

  • メアリの命が奪われなかった
  • 呼び鈴の紐を引きちぎっても使用人が来ないことをなぜ知っていたのか
  • 盗まれたのが半ダースの銀器だけ
  • ワインを飲んだ形跡があった

一度は帰ろうとしたものの、戻ったホームズは再度現場を検証。呼び鈴の方に残っていた紐がナイフで切られていたこと、その際に膝を乗せた棚に埃の跡があること、椅子の座面に血が付いていることを発見します。メアリとテリーザの証言は作り話であり、これらを実行できる人物が船乗りだという証拠でした。

そしてジャック・クローカーから噓偽りない真実を聞いたホームズは、裁判を見立てて放免とします。愛する人を守った正義に免じて。

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三つのグラスに関する考察

ワインを飲むのに使われた三つのグラスをきっかけに、ホームズはユースタス絶命の真相にたどり着きました。小さな不自然さにも目を向け意味を考えること。違和感に気付く観察眼と一つとして疑問を残さない姿勢が、ことを解決に導けた要因でしょう。

不自然な状況が面白かったので検討してみます。まず、現場に残っていたワイングラスやボトルは以下のような状況でした。

現場の状況
  • 一つのグラスに澱がたくさん入っている
  • ほか二つのグラスに澱はまったく入っていない
  • ボトルには3分の2くらい中身があり澱も残っている

澱とはワインの中の成分が結晶化したもので、置いておけばボトルの底に溜まります。「最後に注いだグラスに澱が残りやすい」とワトスンが言ったのは、量が少ない状態で底に溜まった澱とともに注ぐ場合。ところが現場のボトルは中身が3分の2も入っており、澱もたくさん残っている状態でした。

そこでホームズは、不自然な状況の説明として考えられる理由を二つ挙げます。次の図は、それを絵にしたものです。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

グラスに関して考えられる理由

一つ目は可能性としてあるかもしれませんが、わざわざ三つ目のグラスに注ぐ前に揺する理由がありません。よってホームズは二つ目だと結論付け、三人いたと見せかけたこと、そしてメアリとテリーザが噓をついているという事実に行きつきます。

では本当に不自然な状況が作られる理由は二つだけでしょうか。考えてみたところ、ありそうな理由として次の二つが思い付きました。

  • 三つのグラスに澱が入っていて飲んだ後に一つのグラスにまとめた
  • 一つ注いだら澱が入っていたので時間を置いてから残り二つのグラスに注いだ

可能性としてはあるのではないかと思います。しかし急いでいるはずの三人がわざわざ几帳面に澱を一つにまとめたり、待ってから注ぐなんて余裕があったとは考えにくい(そもそもワインを飲むこと自体おかしい)。したがってグラスに関しては、何らかの偽装が行われたと見て間違いないでしょう。

ただ、今ならDNA鑑定をすれば一発でわかってしまいます。科学の発展は凄いですね。

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ドラマについて

ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1986年に本物語を放送しました。以下は原作との相違点です。

原作との相違点
  • ワトスンが新聞を見てユースタスを知っていた
  • ホームズがワトスンにロウを調べさせる
  • 「複雑な答えを求めてしまう」ということをワトスンが話す
  • 銀器が沈められていた池が凍っていない
  • 船会社を訪ねたときにバーベッジ夫人という人物が登場
  • クローカーはいつの間にか修道院屋敷に侵入していた
  • ホームズがメアリとクローカーを引き合わせる
  • メアリは父の話を利用して証言していた
  • ワトスンがホームズに「変人でいろ」と伝える

基本原作に則っているので大きな違いはありません。ただ、ホームズがメアリとクローカーを引き合わせたりと、物語がよりドラマチックになっています。

メアリとクローカーを放免にする結末は原作と同じですが、ドラマではホームズが「正義」をより強く誇張していました。今までいくつもの謎を解決してきて、「ただ真実を解明するだけが正義ではない」と心の変化が起きた証です。しかしワトスンは裁判の真似事をしたホームズに告げます。「君は変人のままでいろ」と。

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感想

グラスを見たとき、ホームズはこんなことを言いました。

手近に単純明快な答えがあっても、僕のように専門知識や特殊な能力を持つ人間は複雑な答えを求めようとしてしまうのかもしれない。

出典元:角川文庫『シャーロック・ホームズの帰還(アビイ屋敷)』コナン・ドイル/駒月雅子訳

不自然な状況には偶然で片づけてはいけない理由がある。「まぁいっか」で終わらせないホームズの探求心や執念に起因する一言です。ただ違和感に気付くためには、不自然な状況を不自然だと感じることができる専門知識が必要。常日頃の積み重ねがやはり大事なんだなと思う言葉でもありました。

しかし本当に物事を複雑に考えて行き詰ってしまう時もあるでしょう。そんな状況に陥ったときに重要なのがワトスンのような存在。やはり二人は抜群の相性なのでしょうね。

クローカーがユースタスを亡き者にした動機は、メアリを守るためでした。もちろん他に救う方法があったとは思います。しかし愛する人が目の前で命の危機に晒されていたらどういう行動をとるでしょうか。もちろん人の命を奪うことは良くないことです。ただホームズも私利私欲ではないそんな正義を見たからこそ、真実を胸に秘めたままにしたのだと思います。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。