ブルースパーティントン設計書(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『ブルース・パーティントン設計書』。この物語は、国家機密であるブルース・パーティントン型潜水艦の設計書が盗まれた謎を追う、『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、真相など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『ブルース・パーティントン設計書』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
シャーロック・ホームズ | 私立探偵 |
ジョン・H・ワトスン | 医師 |
マイクロフト・ホームズ | シャーロック・ホームズの兄 |
アーサー・カドガン・ウェスト | 政府の職員 |
ヴァイオレット・ウェストベリー | アーサー・カドガン・ウェストの婚約者 |
ジェイムズ・ウォルター | 政界の大物 |
ヴァレンタイン・ウォルター | ジェイムズ・ウォルターの弟、大佐 |
シドニー・ジョンスン | 主任事務官、製図技師 |
レストレード | スコットランドヤードの警部 |
あらすじ
濃霧の日々が続き文句タラタラのホームズのもとに、カドガン・ウェストの件で相談があるというマイクロフトからの電報が届く。ウェストは列車から転落して命を落としたとみられていたが、奇妙にも切符がどこからも発見されていなかった。
習慣を変えてまで来たマイクロフトの用件は、最高レベルの国家機密「ブルース・パーティントン型潜水艦」の設計書の捜索。なぜか平職員のウェストが持っていた10枚のうち特に重要な3枚が消え失せたため、ホームズに捜査を頼みたいというのだ。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
真相
ブルース・パーティントン型潜水艦の設計書を奪ったのは、カドガン・ウェストではなくヴァレンタイン・ウォルターでした。理由は投資に失敗し、お金に困っていたため。ウェストは設計書を取り返そうと詰め寄りますが、ヴァレンタインの受け渡し相手のヒューゴー・オーバーシュタインにより命を奪われてしまいました。
ウェストがヴァレンタインの悪事を追ってから遺体となって発見されるまでの過程は以下です。
- ヴァイオレットと劇場へ向かっている途中にヴァレンタインを目撃
- 設計書を持ち出したヴァレンタインを追う
- 受け渡し場所で問い詰めるも亡き者にされてしまう
- 部屋の窓から電車の上に乗せられる
- カーブとポイントのある場所で電車から落ちて朝発見される
重要なヒントは、設計書が持ち出されたという点。ウェストなど関係者であるならば写しを取ればよく、情報が漏れた事実も発見が遅くなる可能性が高いです。したがって設計書を持ち出したのは関係者ではない人物。鍵を手に入れられそうなヴァレンタインに結びつきます。
ヴァレンタインとオーバーシュタインは設計書から特に重要な3枚だけを奪い、残りをウェストに悪事をなすりつけるためにポケットに突っ込みました。ところが重要なバルブ部分の設計書が3枚に含まれていなかったことが判明。そこをホームズが利用し、まんまとおびき出されたオーバーシュタインは逮捕されます。
ロンドンの地下鉄
息絶えたカドガン・ウェストが発見されたのは、アルドゲイト駅手前のトンネルを出たところでした。では実際の地理上、ウェストはどこで乗せられ、どのくらいの間電車の上で横たわっていたのか。当時の路線図を交えて考えてみたいと思います。
次の図は1895年時に運行していた地下鉄の路線図です(一部抜粋)。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。
路線図から明らかなように、オーバーシュタインの家があるケンジントンからウェストが発見されたアルドゲイト駅手前まで間に何駅も挟まっています。そこで出てくるのが、よく間の駅で見つからなかったなという疑問です。
おそらくウェストは電車の向きに対して平行(縦)に寝かせられたのでしょう。これで頭ないし足が電車からはみ出ることなく、他の人から発見される可能性がかなり低くなります。まさか電車の上に人がいるなんて思わないので、目につかなければ特に気にも留めないでしょう。また、朝6時で人が少なかったことも、見つからずに済んだ要因の一つだと思います。
そしてアルドゲイト駅手前の大きなカーブとポイントの揺れでウェストが落下。ただこれは多少の予測は出来たとしても偶然に過ぎません。そもそもヴァレンタインとオーバーシュタインにしてみれば、ウェストが発見される場所は電車の上でなければどこでも良かったはずです。もちろん遠ければ遠いほど都合が良かったとは思いますけどね(下手したら循環線なので一周してしまいますが)。
アルドゲイト駅手前のカーブは今でも現存しているので、ご興味のある方は地図アプリ等で確認してみてください。ご参考までに、Googleマップでの手順を以下に記載しておきます。
- Googleマップを開く(アルドゲイト駅に設定してあります)
- パソコンの場合は左の「ルート・乗換」をクリック、スマホの場合は「経路」をタップ
- 出発地に「サウスケンジントン駅」と入力
- 「Circle線」の経路を選択するとアルドゲイト駅手前で大きなカーブが見られます
ドラマについて
ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1988年に本物語を放送しました。以下は原作との相違点です。
- マイクロフトの電報を持ってくるのがハドスン夫人でホームズが散らかしたことを謝る
- レストレードの代わりにブラッドストリートが登場
- スパイの一覧表をマイクロフトに依頼するのが最初に話を聞いたとき
- ホームズとワトスンがヴァレンタインに葬儀屋だと間違われる
- ホームズとワトスンがヴァイオレットといっしょに英国海軍特許庁の前まで行く
- 英国海軍特許庁の聞き込みをしたのがホームズ一人
- マイクロフトの字が汚すぎてワトスンに読ませる
- ホームズが地図を広げるときにハドスン夫人に食器を片付けさせる
- ホームズが列車の上にマフラーを落とす
- ピエロからの伝言が載った新聞が金庫に入っていない
- オーバーシュタインをおびき寄せる手紙の内容をホームズ一人で決めない
- ヴァレンタインに逃げられる
- ホームズが慈心深き貴婦人からエメラルドの付いたタイピンを受け取っていない
いちばん大きな違いは、レストレード警部の代わりにブラッドストリート警部が登場すること。確かな理由はわかりませんが、出番の少ないマイクロフトが出る貴重なエピソードなので、同じく出番の少ないブラッドストリートもいっしょに登場させたかもしれません。また、ホームズに電報や手紙を届ける役割を、ハドスン夫人がすべて担うよう変更されています。
ちょっとずつお笑い要素が加わっているのもポイント。ホームズがマイクロフトの汚すぎる文字をワトスンに読ませたり、地図を広げるときにせっかちな面が出たり。推測ですが、退屈極まりない日々にマイクロフトからの依頼が舞い込み、ホームズはいつも以上に興奮していたのかもしれません。
感想
マイクロフトはイギリス政府そのもの。人間離れした頭脳で各省庁の中枢的役割を担っているという事実はさすがに驚きました。ただ心配なのはマイクロフトが亡くなった場合。急に命を落としたら大きすぎる痛手、最悪イギリス政府は心中するしかありません。もちろん抜け目ないマイクロフトのことなので、対応はしてると思いますが…。
最初は濃霧に文句を言っていたホームズも、調査に当たって利用しているあたりが何気に面白かったです。ホームズにとってのイライラのもとは、霧などではなく退屈な毎日。言い換えると、謎を解くことが何よりの栄養なのでしょう。
最後に書かれていた「さる慈悲深き貴婦人」とはヴィクトリア女王のこと(設計書が奪われたのが1895年11月のことで、当時在位していたのがヴィクトリア女王)。ウィンザー城で過ごした日に、ホームズはヴィクトリア女王からエメラルドのタイピンを授かったといいます。名誉に欲のないホームズですが、そのタイピンを付けるようになったということはさすがに嬉しかったのでしょうね(気遣いの可能性もありますが)。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のホームズ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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大変参考になりました。私もケンジントン地区のどこかから(フィクションなので当時窓の下に地下鉄が止まる所がなくてもいいかなと思っています)、ディストリクト線の反時計回りの内回り(外回りではなく)ではないかと想像しています。しかし、オールドゲイト駅手前のトンネルから出てきたカーブの線路の「左側」に死体があったのなら、カーブの方向から遠心力で「右」に放り出されないと合点できないでいます。
井澤秀記さん、
コメントありがとうございます。
疑問をお持ちの点、確かに変ですね。
考えられる可能性としては、オールドゲイト駅側から見た視点でしょうか。
マスコミが駅側から現場を見て報道したと解釈するとですが…。
もしそうだったとしたら列車との視点が混ざるので、あまり良い記述とは言えなくなってしまいます。