四つの署名(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

四つの署名(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

アーサー・コナン・ドイルの『四つの署名(四人の署名)』。この物語は、四人の名前が書かれた紙片の謎を追いワトスンが幸せな結末を迎える、シャーロックホームズシリーズの長編小説第二弾です。

そこでこのページでは、人物相関図や謎をひとつひとつ確認しながら、本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説の前に、最終的な人物相関図あらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

最終的な人物相関図

以下は、『四つの署名』の登場人物の最終的な関係をまとめた図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

相関図

あらすじ

◆ 相談者の訪問

退屈な日々に絶望さえ感じていたホームズのもとに、メアリー・モースタンが訪ねてくる。帰国した父と会う約束をしていたが、当日に行方不明となりそのまま十年が過ぎたという妙な相談だった。

さらに妙なのは六年前から毎年、謎の人物から高価な真珠が一粒ずつ送られてくること。そして相談に来たいちばんの理由は、「未知の友」と名乗る人物から呼び出しの手紙が届いたからだった。

◆ 父の行方と財宝

「未知の友」とはショルトー少佐の息子・サディアスで、ホームズたちはメアリーの父が十年前に失踪したいきさつを知る。メアリーの父はショルトー少佐と財宝の取り分について揉めた際、発作を起こして頭を打ち命を落としていたのである。

欲望に負けて独り占めしてしまった財宝をメアリーに渡すことが、息子たちに託したショルトー少佐の遺言。五十万ポンドはくだらない財宝の分配を、サディアスの双子の兄・バーソロミューも交えて話し合うことになっていた。

◆ 惨劇

到着したポンディシェリ・ロッジで、ホームズたちは惨劇を目の当たりにする。奇妙な微笑を浮かべてバーソロミューが絶命し、そばには「四の符牒」と書かれた紙片が落ちていたのである。

部屋や屋根裏にあった痕跡から、手を下したのは二人組で一人はジョナサン・スモールという義足の男だと判明。ホームズとワトスンは犬のトービーを使い後を追うが、行きついた先はただの製材工場で徒労に終わってしまう。

◆ 黒幕の確保、そして…

一時は捜査に行き詰ったものの、船での壮絶な追跡を経てスモールを確保。観念したスモールは、財宝や協力者の小男のことを含め自分の身にあった過去を語り出す。

スモールから回収した櫃の中は空で財宝の在り処は不明のままだったが、代わりに純粋で貴いものが生まれた。それは財宝という障壁が取り払われた、ワトスンとメアリーの愛である。

解説と考察

それでは、本物語の解説と考察に移ります。

謎に次ぐ謎

本作はメアリー・モースタンの相談を皮切りに、謎に次ぐ謎が現れるのが魅力の一つでしょう。まずはその謎と答えを、順番に見ていきます。

一つ目の謎:メアリー・モースタンの相談

答え
アーサー・モースタンの行方 心臓発作の拍子に頭を打ち絶命
真珠が送られてきた理由 ジョン・ショルトーの償い
「未知なる友」の正体 サディアス・ショルトー
なぜ六年経ってから呼び出したのか 財宝が発見されたから

メアリーの父・アーサーはジョン・ショルトーと口論していた際に心臓発作が起き、櫃に頭をぶつけ亡くなっていました。口論の原因は、インド駐留中に手に入れた財宝の取り分。独り占めして逃げたショルトーに分け前を要求していたときに、興奮して起こった悲劇でした。

送られてきた真珠は、友を裏切り強欲を悔いていたショルトーの償い。ショルトーは息を引き取る直前、息子二人に真実を話し、メアリーに財宝を分けるよう指示します。その役割を引き受けたのが、「未知なる友」ことサディアスでした。

ショルトーは真実を語った際、「少なくとも半分は」と述べています。ほかの何者かが財宝に関与していることをほのめかす発言で、ショルトーが恐れていた義足の男と結びつけるヒントといえるでしょう。

二つ目の謎:バーソロミュー・ショルトーの絶命

答え
バーソロミューを亡き者にした人物 義足の男(ジョナサン・スモール)と小人
部屋への侵入方法 小人が天窓から侵入
「四の符牒」の意味 後述

ホームズは現場に残されていた足跡から、バーソロミューを亡き者にしたのが義足の男と小人だと特定(正確には手を下したのは小人だけ)。そして「四の符牒」に書かれた名前とショルトーが恐れていた人物から、義足の男はジョナサン・スモールだと推理します。

侵入・脱出方法は以下の通りです。

  1. 小人が屋根によじ上り天窓から侵入
  2. 屋根裏から部屋に行き窓を開ける
  3. 小人が窓からたらしたロープを上ってスモールが侵入
  4. 財宝を持ち1~3の逆をして脱出

ロープは小人があらかじめ巻き付けておいたもの。また、バーソロミューは小人が部屋に入ったときに運悪くいたため、命を奪われてしまいました。少し気になるのは、天窓のカギは開いていたのかということでしょうか。

幸い小人がクレオソートに足を突っ込んでいました。この臭いを頼りに、ホームズとワトスンは犬のトービーを使って逃げた二人の後を追います。

三つ目の謎:黒幕の行方

答え
二人組の行方 もともとのねぐらに潜伏
船(オーロラ号)の行方 造船所で模様替え

臭いを追ってモーディカイ・スミスの貸し船屋までたどり着くも、二人組の痕跡はここで途絶えていました。そこでホームズは使用したとみられる船を見つけるため、ベーカー街少年隊を使って捜査を開始。しかし二人組も船も見つけられず、何日かが経過してしまいます。

苛立つホームズでしたが、気分転換(化学分析)をして頭を切り替え、スモールの性格からもともとのねぐらに潜伏していると推理。さらに自らの足を使って、模様替えを頼まれた造船所を突き止めます。

ようやく行動を始めたスモールたちを待ち伏せし、ホームズたちは船で追走。途中で小人(トンガ)や財宝はテムズ川に消えてしまいますが、首謀者・スモールの確保に成功します。

動機となった過去

ではスモールらが凶行に及んだ動機は何だったのか。きっかけとなった過去を簡単に振り返っていきます。

クロコダイルに足を食べられ、農園主となり、セポイの反乱から逃げて来たスモールは、アグラの要塞にたどり着き王の使いから財宝を奪いました。このときの仲間が、モハメッド・シン、アブドゥラー・カーン、ドスト・アクバル。「四の符牒」に書かれていた名前です。しかし王の使いの命を奪ったことがバレて、四人とも終身刑となってしまいます。

奪った財宝を隠したままアンダマン諸島に移ったあるとき、スモールが目を付けたのがお金に困っていたショルトーでした。スモールは財宝の一部を渡す代わりに、収容所からの脱出を手伝うよう話を持ち掛けます。そしてモースタンを仲間に加えいざ実行となりますが、ショルトーが突然の裏切り。財宝を持って、一人で国にトンズラしていきます。

復讐を誓ったスモールは、治療をきっかけに出会った小人・トンガの助けで島を脱出。何年かかけてロンドンに着きショルトーの家へ行きますが、当人は目の前で息絶えてしまいました。復讐が失敗に終わった帰り際、はっきりと憎しみを示すために「四の符牒」を残して逃走。時が経ち財宝が見つかったと知って屋敷に忍び込みますが、運悪くバーソロミューがいたためトンガが亡き者にしてしまった、というのがことの顛末です。

数々の名言

本作はことさらに多くの名言が登場することも印象的です。個人的に好きな言葉になってしまいますが、いくつかピックアップして内容について考えてみたいと思います。

他の要因をすべて排除してしまえば、残ったひとつが真実であるに決まってるのさ

出典元:創元推理文庫『四人の署名(1. 推理の科学)』アーサー・コナン・ドイル/深町眞理子訳

郵便局に行ったワトスンが何をしたかを言い当てたときの発言です。このときに、ホームズは理想的な探偵に必要な三つの資質を述べています。

理想的な探偵に必要な三つの資質
  • 観察力
  • 推理力
  • 知識

ワトスンも質問していましたが、わかりづらいのが観察力と推理力の違い。観察力は対象の変化を見つけること。知識と結びつけることによって一つの答えが得られるものも含まれます。推理力は観察で得た情報に基づき考えを巡らせること。言葉だけだとわかりづらいと思うので、一つ例を挙げます。

コーヒーカップ

喫茶店にこのような状態のコーヒーカップが残っていたとしましょう(上部のにょろにょろは麺ではなく湯気です)。ここから観察できることは、次の要素です。

  • まだ温かい
  • 量が少し減っている
  • カップの縁には何も付いていない

これらの情報をもとに推理すると、「コーヒーを飲んでいたのは男性で、ついさっき急な用事ができて慌てて店を出ていった」です。「男性」はカップの縁に紅が付いていないことから、「時間」はコーヒーが温かいのでまだ間もないことを示し、「慌てて」は飲み干していないことからの推理。ただしもちろん可能性であって、化粧していない女性だったり、コーヒーがまずかったから残していったとも考えられます。

最初の言葉に戻りますが、真実を知るためには探偵に必要な資質を駆使して考えられる要因をまず並べ立てなければなりません。それをひとつひとつ潰していくことで、残った真実にたどり着きます。

ぼくの指摘がきみにとって不思議に思えるとすれば、それはたんにきみが、ぼくの思考の筋道をたどれなかったり、重要な推理の土台になっている些細な事実を、見のがしていたりするからにすぎない

出典元:創元推理文庫『四人の署名(1. 推理の科学)』アーサー・コナン・ドイル/深町眞理子訳

ホームズらしい言い方でお気に入りなのですが、要はわからないことは不思議に感じるということです。代表的なのはマジック。わからないうちは何が何だかわからない状態に陥りますが、タネを知っていれば不思議でも何でもありません。

関連するものとして、アセルニー・ジョーンズの偉そうな態度を見たときにホームズがゲーテの言葉を引用しています。

自分の理解できぬものをばかにして笑うのは人間のつねである

出典元:創元推理文庫『四人の署名(6. シャーロック・ホームズ、論証を行う)』アーサー・コナン・ドイル/深町眞理子訳
※もとはゲーテの『ファウスト』

ホームズの言う通りうがった言葉ですが、ワトスンのように純粋に不思議に思う人もいるので「つね」ではなさそうです。

例外は原則を否定するものだ

出典元:創元推理文庫『四人の署名(2. 事件の顛末)』アーサー・コナン・ドイル/深町眞理子訳

ワトスンがメアリーに惚れちゃったときに発した言葉で、個人的感情である人を特別視したら判断を誤りかねないことをホームズは指摘しています。この言葉は捜査に限ったことではありません。人でも物でもルールの中から例外を認めたら、それはルールとして成り立っていないことを表しています。

ただ、人への想いが人を動かすことがあるのも事実。人間は感情を持つ生き物ですから、誰かの優しい気持ちに触れればそれに応えようとすることもあると思います。ワトスンはいい意味で個人的感情を押しとどめない存在。原則の中で捜査するホームズにとって、領域外をカバーしてくれる最高のパートナーと言えるでしょう。

ドラマについて

ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1987年に『四人の署名』というタイトルで本物語を放送しました。以下は原作との相違点です。

原作との相違点
  • メアリーが呼び出された手紙の日付が10月7日
  • バーソロミューの部屋に入るときホームズが新聞を使って鍵を手繰り寄せる
  • アセルニー・ジョーンズ到着時にワトスンがトービー(犬)を呼びに出る
  • トービーを連れて来たときホームズが屋上にいる
  • トンガの放った矢がホームズの首元に刺さる
  • スモール確保後にメアリーにベーカー街のアパートまで来てもらう
  • 署名されている名前がスモール以外異なる
  • スモールが宝を持ってきた男を義足で転ばせる
  • 解決後に残ったものがホームズは満足感でワトスンは記録の楽しみ

最大の違いはワトスンがメアリーと結ばれないことでしょう。理由はおそらく、ワトスンをベーカー街のアパートにずっと住まわせるため。ワトスンが結婚してホームズと別居するという原作の設定を取り除いて、以降の「シャーロック・ホームズの冒険」の話を組み立てやすくしたのだと思います。

原作でスモール以外の署名は、モハメッド・シン、アブドゥラー・カーン、ドスト・アクバルでした。しかしドラマでは、カーター、インデジット、ジャゴディッシュに変わっています。理由はちょっとわかりませんが、インド要素を消すためでしょうか。

印象的だったのがトンガの存在。演じたのはキラン・シャーという、身長が127センチの俳優さんです。『スターウォーズ』『ロード・オブ・ザ・リング』『ハリー・ポッターと賢者の石』などにも出演されているので、もしかしたらご存じの方も多いかもしれません。

感想

ホームズというキャラクターを、良い面も悪い面も確立した作品だと感じました。退屈だと手を出してしまう悪習、数々の名言から見える芯の部分、友人が自分のもとを去っていくことで見せた寂しさ。人間には厳しいにもかかわらず、犬のトービーが失敗したときには「かわいそうに」なんて言っているあたりも微笑ましくありました。

ストーリーについては、解決しても出てくる新たな謎が展開をどんどん変えていって面白かったです。ちょっとだけ残念だったのは、後半がスモールたち確保の追走劇になってしまったこと(個人的に謎解きが好きなので)。あとは悪事を働いた動機に、「そういう悲しい過去があったんだ」と感情移入できるようなドラマがあるともっと楽しめたかなと思います。

そしてやっぱり嬉しかったのが、お金という縛りから解放されて得たワトスンの結婚です。ただ忘れてはならないのは、執筆はホームズの偉業を伝える記録だということ。にもかかわらず私情を恥ずかしげもなく挟みまくっていることを考えると、ワトスンが本当に愛らしく感じました。それだけメアリーとの結婚が嬉しかったのだと思いますし、もしかしたら本という形でみんなに知ってもらいたかったのかもしれません。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。