死人の鏡のあらすじ・ネタバレ:相関図も用いて解説!
アガサ・クリスティのポアロシリーズ『死人の鏡』。この物語は、遺体のそばで割れていた鏡が謎を解くカギとなる、『死人の鏡』に収録されている同名短編小説です。
そこでこのページでは、「人物相関図」と「物語の流れ」を確認しながら、本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、最終的な人物相関図とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
最終的な人物相関図
最終的な人物相関図をまとめると次のようになります。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。
あらすじ
家柄を大事にし、周りからはキチガイだと揶揄されているジャーヴァス・シェヴニックス=ゴアから手紙が届く。依頼内容は、極秘に処理しなければならないことの調査だった。
妙な危険性を感じたポアロは、依頼を承諾してハムバラ荘を訪問。食事の時間に厳格なジャーヴァス卿が現れないので書斎に行くと、密室の中、頭を撃ち抜かれて息絶えていた…。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
偽装工作について
まず、なぜリンガードが偽装工作をしなければならなかったのか。それは、ジャーヴァスを撃ち抜いたときに弾が貫通し、開いていたドアの向こうにある銅鑼に当たってしまったからです。リンガードの立場からしてみると本当にツイてないとしか言いようがありませんが、限られた時間の中で精一杯のことをやりました。
ジャーヴァスを撃った直後から発見までのリンガードの行動を追うと、次のようになります。
- ジャーヴァスを撃つ
- 弾が銅鑼に当たってしまったがそのままにしてドアを閉めカギをかける
- 部屋のカギをジャーヴァスのポケットに入れる
- ジャーヴァスの向きを変え鏡を割る
- 遺書を書く
- 窓から出てカギを閉める
- 花壇に残った足跡を熊手で消す
- 客間から入って銅鑼が鳴るのを待つ
- 銅鑼が鳴るのを見計らって紙袋を膨らまして叩く
- ベリーの鉛筆をハンドバッグに入れる
- ジャーヴァスが来ないのでみんなと書斎の前に行く
- 銅鑼の近くに落ちている弾を拾う
- ジャーヴァス発見のどさくさに紛れて弾を鏡のそばに落とす
実際の弾が銅鑼に当たった音は、カードウェルだけに聞こえていました。ただ、音を聞いてすぐに部屋から出たものの、みんなが集まり始めたばかりだったので気にも留めなかったようです。リンガードも「バックファイアの音だと思うだろうとタカを括っていた」と告白していますしね。
スネルが鳴らした銅鑼の直後に紙袋を叩いて割る。みんなが聞いたこの音を銃声だと勘違いさせることで、リンガードは鉄壁のアリバイを手にしました。しかし不用意にも紙袋をゴミ箱に捨ててしまったため、ポアロに発見されて真実を解明する手掛かりとなってしまいます。
銅鑼のそばに残ってしまっていた銃弾は、拾って鏡のそばに落としました。ただし、このときの姿を見られてもいいように、ベリーの鉛筆を前もって窃取。この手段については、ポアロも次のように賞賛しています。
うん、あれはうまいてだったな。わたしもあれにはすっかりまごつかされましたよ
出典元:ハヤカワ文庫『死人の鏡(死人の鏡:12章)』アガサ・クリスティー/小倉多加志訳
もし弾が貫通していなかったどうなっていたか。ジャーヴァスの向きを変え鏡を割る必要もないため、不自然さがなくなります。自ら命を絶つ性格ではなかった点には疑問が残りますが、少なくともより難解になっていたことは間違いないでしょう。
動機とヒント
動機は実の娘であるルスの幸せを願ってのこと。ジャーヴァスが遺言書を書き替えてしまった場合、レイクと結婚しているルスには一銭も残らない内容だったため、凶行に及びました。
リンガードとルスを結び付けるヒントは、「リンガードがヴァンダのことを褒めちぎっていたこと」と「ルスの母親がタイプライターだったこと」。ルスを大事に育ててくれているヴァンダを見て、感謝の気持ちをあらわにしてしまったのでしょう。
黒幕だと疑えるものは、最後にポアロが言っていた通り次の要素です。
- ジャーヴァスが家柄の恥を他人に話すはずがないこと
- ルスが客間に入るとき「庭から入った」と言わなかったこと
- 客間に紙袋が捨ててあったこと
- ピストルが鳴ったときに客間にいたのはリンガードだけだったこと
「お金がない=不幸」。そう言い切れるものではありませんが、一つの要因になってしまうのは確かです。今まで何もできなかったルスのために、最後だけでも親として何かを残したかったのでしょう。ただ、「本当の親を知ること」と「お金」のどちらをルスが望んでいたか、聞いてみたいところではあります。
ドラマについて
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1993年に本物語を放送しました。ストーリーは大まかには同じものの、多くの点で変更が加えられています。
- ポアロとジャーヴァスの出会いが鏡のオークション
- ヒューゴーが椅子の工房を持っている
- 遺体と鏡の位置が異なる
- ポアロの調査が屋敷内で行われない
- リンガードが拾ったものが銃弾のカフス
- レイクの会社が燃える
- リンガードがヴァンダに手を下そうとする
- ベリー、フォーブズ、バローズ、リドルが登場しない
- ヘイスティングズとジャップが登場する
ドラマでは、鏡を購入しようとしたポアロをジャーヴァスが妨害するところからスタート。オークションに負けたポアロが帰ろうとしていところ、横柄な態度でジャーヴァスが調査を依頼します。
登場人物も変更が多いです。ドラマでは、いっしょにハムバラ荘にいたベリー、フォーブズ、バローズが登場しません。おそらく、一度証言を聞くだけでほとんど関与しないので、尺に収めるために削ったのではないでしょうか。また、ポアロといっしょに調査するリドルの代わりに、レギュラーのヘイスティングズとジャップが登場します。
ストーリーでのいちばん大きな変更点は、結末が異なることでしょう。原作では、ポアロが敢えてルスを詰問したことでリンガードが自白。ところがドラマでは、降霊術を利用してリンガードがヴァンダを手にかけようとします。
ほかにもレイクの会社が燃えてしまったりと、アクション要素を追加。原作はジャーヴァスが息絶えた後、ポアロが一人一人から話を聞き淡々と進んでいくので、ドラマでは少し変化を加えたかったのかもしれません。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のポアロ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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