プライオリスクール(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『プライオリ・スクール』(プライオリ学校)。この物語は、教師とともに失踪した公爵子息の行方を追う、『シャーロック・ホームズの帰還』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、本作品の結末などの解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『プライオリ・スクール』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
シャーロック・ホームズ | 私立探偵 |
ジョン・H・ワトスン | 医師 |
ソーニークロフト・ハクスタブル | プライオリ・スクールの校長 |
ホールダネス | 公爵 |
ソルタイア | ホールダネスの息子 |
ジェイムズ・ワイルダー | ホールダネスの秘書 |
ハイデッカー | プライオリ・スクールのドイツ人教師 |
ルービン・ヘイズ | 宿屋「闘鶏亭」の主人 |
あらすじ
部屋に入って来た途端に気絶するという度肝を抜く演出で、ソーニークロフト・ハクスタブル博士が登場する。目を覚ましてホームズに依頼したのは、ホールダネス公爵の息子・ソルタイアの捜索だった。
ソルタイアはプライオリ・スクールにある三階の窓から蔦を伝って下りたとみられ、ドイツ人教師のハイデッカーも同時に行方不明。そしてハイデッカーが所持する自転車一台と、ホールダネスがソルタイアに宛てた手紙がなくなっていた。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
黒幕と公爵子息の行方
ソルタイア卿をさらったのは、首謀者のジェイムズ・ワイルダーと協力者のルービン・ヘイズでした。ホールダネス公爵の息子だったワイルダーが、ソルタイアを取引材料にして全財産の相続を狙ったことが動機。さらわれたソルタイアは、ルービン・ヘイズの宿屋にずっと監禁されていました。
ワイルダーらがソルタイアをさらった方法は、ホールダネス公爵夫人の名を使って雑木林におびき寄せただけ。母への愛情を利用したあくどい手ですが、計画に誤算が生じます。後を追ってきたハイデッカーの存在です。ハイデッカーに気付いたヘイズはステッキで頭を強打し、命を奪ってしまいます。
予想外の事態を知ったワイルダーは混乱し、ホールダネス公爵に洗いざらい告白。すべてを知ったホールダネス公爵は愛するワイルダーの懇願に負け、ヘイズを逃がす猶予として三日間だけ待つことを約束します。ところがソルタイアに会いに行くところをホームズが目撃。これが決め手となり、真相の究明に至ります。
蹄の跡について
ソルタイアを連れ去る際、ヘイズは逃走に使った馬に牛の蹄鉄を打ち足跡を偽装しました。ホームズが最高傑作と言うほどうまい目くらましですが、この蹄鉄はホールダネスの先祖が使っていたもの。面白いトリックなので、ここではその蹄と足跡について考えてみたいと思います。
以下は「馬と牛の足跡」と「ホームズがパンくずを並べて例えた足跡と実際の歩法」を比較した図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

馬ならスピードがあるので「逃げるのに使ったかも」と思いますが、牛ならばなかなかそうは結び付けられません。先入観も利用した巧みな方法だと思います。
少しわかりづらいのが駆け足。ホームズが並べたパンくずではびっこを引いているように見えてしまいがちです。実際の駆け足は左右非対称の動きで、次のような運びが続いていきます。
- 片方の前肢が着地
- その前肢が地を離れると同時くらいに逆の後ろ肢が着地
- ほか二つの肢が着地
- 元の前肢が着地すると同時くらいに逆の後ろ肢が地を離れる
したがって足跡は四つすべて残るはず。ただ体重がかかる肢に差があるため、ホームズは妙な並べ方をしたのでしょう。
※図ではいちばん体重がかかるであろう肢の跡を濃くしました。しかし厳密には前後の肢が同じような位置を踏むため、結果的にどれも同じような深さの足跡、もしくは踏み荒らされた状態になると思われます。
ホームズは牛が一頭もいないことを妙に思い、蹄のトリックを見抜きました。もし牛がいたら現場はもっと荒らされていたでしょうし、特定も困難、または不可能だったかもしれません(歩幅をよく観察してみればわかるかも)。
ドラマについて
ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1986年に本物語を放送しました。以下は原作との相違点です。
- ホームズがハクスタブルの傷のついた時計を指摘する
- ソルタイアが入学したのが冬学期
- ホールダネスの妻がベニスに住んでいる
- ハドスン夫人が抜群のタイミングで食事を用意
- ソルタイアの隣の部屋にいる子供に聞き込みする
- ホームズがホールダネスに手紙を書いたことを聞かない
- 教師からハイデッカーが乗っていた自転車の型などを聞く
- ワトスンがヘイズの切り傷に気付く
- 息絶えたハイデッカーが発見されるのが物語の後半
- ワイルダーがソルタイアを連れて洞窟に逃げる
- ワイルダーがソルタイアをさらった動機がホールダネスを圧迫することの愉悦
細かい点を挙げればたくさんありますが、いちばん大きな違いは結末です。原作ではソルタイアは宿屋に監禁された状態で助けられるのに対し、ドラマでは連れ去られた洞窟で保護。さらに追い詰められたワイルダーが転落して命を落としてしまいます。
プライオリ・スクールのロケ地として使われたのは、ハードン・ホール(Googleマップ)というマナーハウス。お城のような外観や美しい庭園などがある、憧れてしまうような場所でした。
感想
上記でも触れましたが、馬の足跡を牛のものに偽装するトリックは面白かったです。足跡の研究はホームズの得意としている分野の一つ。それで裏をかかれたわけなので、ホームズ自身トリックを称賛しながらも「情けない」と漏らすほどでした。
自転車の車輪跡も興味深いところ。前後の車輪が作った跡で来た方向を特定していますが、研究者の間でも議論の的になっているようです。確かにサドルは自転車の後ろよりについているので、人間の体重は後輪の方に多くかかるとは思いますが…。その他の部品や道のコンディション(平坦や傾斜)なども関わってくるため、なかなか結論づけるのは難しいかもしれません。いつか実験してみたくはあります。
個人的な最大の謎は、ホームズが最後に報酬を受け取ったこと。「お金に興味がないはずのホームズがなぜ?」という疑問が残りました。いまだに解釈できていませんが、おちゃらけて言っていることからホームズなりの冗談、ついでにホールダネスがした過ちの代償という意味を込めて受け取ったのかもしれません。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のホームズ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
-
前の記事
マスグレーヴ家の儀式(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想 2021.11.17
-
次の記事
第二の汚点(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想 2021.11.28
コメントを書く