ボヘミアの醜聞(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『ボヘミアの醜聞』。この物語は、ボヘミア国王から若気の至りで撮ってしまった写真を手に入れるよう頼まれる、『シャーロック・ホームズの冒険』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、結末など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『ボヘミアの醜聞』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
シャーロック・ホームズ | 私立探偵 |
ジョン・H・ワトスン | 医師 |
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・ジギスモンド・フォン・オルムシュタイン | ボヘミア国王 |
アイリーン・アドラー | 元オペラ歌手 |
ゴドフリー・ノートン | 弁護士 |
あらすじ
ワトスンが結婚後久しぶりにホームズに会いに行くと、ヘラクレスのような体躯の大男が訪ねてくる。高価だとわかる手紙を前もって送ってきていたこの人物は、なんと現ボヘミア国王だった。
若気の至りでアイリーン・アドラーと撮ってしまった写真を手に入れて欲しいというのがボヘミア国王の用件。アイリーンは写真をボヘミア国王の婚約者に送り付け、結婚を破滅させようとしているのだ。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
解決の手法と結末
ボヘミア国王から相談を受けたホームズは、得意の変装(失業した馬丁)をして調査を開始。アイリーンの家の近所にある厩舎で話を聞き、ゴドフリー・ノートンという親密そうな男の存在を聞きだします。その直後に二人が聖モニカ教会へバラバラに急ぎだしたので、ホームズも追跡。なんと教会で声をかけられ、二人の結婚の証人になってしまう始末でした。
ホームズが写真の隠し場所をあぶり出すために取った方法は偽の火事騒動。理由はホームズいわく、女性は自宅が火事だと知るといちばん大切なもののところへ飛んでいく本能があるからでした。今度は牧師に扮してやじ馬たちを雇い、ケガを装ってまんまとアイリーンの家に侵入。ワトスンに煙花火を投げてもらい、写真の隠し場所を知ることに成功します。
ところが翌朝、アイリーンの家を訪ねると中はもぬけの殻でした。アイリーンはホームズの変装や企みを見抜き、ゴドフリーとロンドンを発ってしまったのです。写真を隠していた場所にあったのはホームズ宛ての手紙とアイリーンの単身像。ホームズはまんまと出し抜かれ、それ以降女性の知恵を見下すことはなくなったといいます。
アイリーンアドラーの写真
ホームズは最後にアイリーン・アドラーの写真をボヘミア国王からもらいました。理由は諸説あるようですが、個人的には自戒の意味が強いのではないかと思っています。ただしその中には、ホームズ自身も気づいていない恋愛感情に近いものがあったのではとも想像しています。
自戒かつ恋愛感情だと思う根拠は以下の理由からです。
- 写真を高価な指輪よりも貴重だと語っている
- 「あの女性」と呼ぶようになった
- ホームズは自分と同等以上の知恵を持つ人物に強く魅かれる傾向がある
ホームズにとって何より貴重なのが好奇心をそそる物事や人物。マイクロフトは兄だからかもしれませんが、モリアーティには異様ともいえる執着を見せました。おそらくアイリーンにも自分を出し抜いた人物として、強く魅かれるものを感じたのだと思います。そしてその執着は、ある意味恋愛感情に近いものなのではないでしょうか。
また、ホームズは「女性を愛したことがない」と別作品で語っていますが、正確には愛がわかっていない可能性もあります。なぜなら愛したことがないのに、愛するとは何かがわかるはずがないからです。ただ、ホームズもワトスンがピンチになると、復讐もいとわないような取り乱し様を見せます。それはアイリーンなどに持つ感情とは違った、別の形の愛ゆえでしょう。
ドラマについて
ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1984年に本物語を放送しました。以下は原作との主な相違点です。
- ホームズとワトスンが同居している
- ハドスン夫人が登場
- ワトスンが多額の報酬をもらいロマノスで食事できると喜ぶ
- 火事だと叫ぶのがホームズ
- アイリーンがホームズの牧師の変装を見抜いて質問をいくつかする
- アイリーンがボヘミア国王との写真を海に捨てる
- ホームズが最後にバイオリンを弾く
細かな変更・追加点はあるものの、おおよそ原作に忠実。ドラマではワトスンが結婚していないため、ホームズと同居している点がいちばん大きな変更箇所でしょうか。
原作ではベーカー街221Bの家主は、この時点でターナー夫人となっていました。しかしドラマではハドスン夫人が登場。ターナー夫人の存在はコナン・ドイルの誤記だったそうなので、ドラマはそのあたりをしっかりと反映させたのでしょう。
感想
あのホームズがまんまとしてやられるという言わば敗北を喫した面白い作品でした。ただこの経験があったから、後年の活躍につながったのだと思います。「女性というものは」と決めてかかっていた価値観が、大きく変わったのでしょうから。
ボヘミア国王のモデルには諸説あるようです。在位期間を考えるとフランツ・ヨーゼフ1世、年齢が1888年で30歳ということを考えるとルドルフ大公など(ただしこの一件が1888年に起こった説も怪しい部分がある)。言えるのは、スキャンダルが題材なので本作のボヘミア国王は架空の人物だということ。とはいえ二年経過しているからワトスンは問題ないと踏んだのだと思いますが、一国の王の失態を記録に残しちゃって大丈夫だったのでしょうか。
ホームズがワトスンに階段が何段あるか聞く場面があります。何気なく見ているものでも、それを知識に落とし込むには観察が必要。あっさり書かれていますが、かなり大事なことだと思います。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
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