ジョニーウェイバリー誘拐事件(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アガサ・クリスティーのポアロシリーズ『ジョニー・ウェイバリー誘拐事件(ジョニー・ウェイバリーの冒険)』。この物語は、警察が監視していたにもかかわらずジョニー・ウェイバリーがさらわれてしまった謎を追う、『愛の探偵たち』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、結末や動機など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
本物語の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
エルキュール・ポアロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポアロの友人 |
マーカス・ウェイバリー | イングランド屈指の旧家の主 |
エイダ・ウェイバリー | マーカスの妻 |
ジョニー・ウェイバリー | マーカスとエイダの息子 |
ミス・コリンズ | エイダの秘書 |
トレッドウェル | マーカスの執事 |
ジェシー・ウィザーズ | ジョニーの保母 |
マクニール | 警部 |
あらすじ
ポアロは「母親の気持ちは…」と妻が連呼するウェイバリー夫婦の相談を受けていた。警察が監視していたにもかかわらず、ウェイバリー夫婦の息子のジョニーがさらわれてしまったのである。
ジョニーをさらわれたくなければ金を支払えという内容の手紙が三度届き、邸内にいる誰かが関わっていると判断したため使用人全員を解雇。予告されていた時刻に怪しげな男を捕らえたが、その騒動の隙にジョニーがさらわれてしまったというのが経緯だった。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
黒幕と動機
ジョニーをさらった首謀者は、なんと父親のマーカスでした。トレッドウェルともう一人友人を協力者にして実行。実質土地などすべての財産は妻のものなので、自分のお金がない不安に駆られたことが原因でした。
マーカスの計画は以下の通りです。
- ジョニーをさらう旨の手紙を書く
- 実行日の朝にエイダが体調不良を起こすようにする
- 「12時に」と書いたメモを見つけたフリをして使用人を全員排除
- 大時計の針を10分進めておく
- トレッドウェルが用意しておいた浮浪者を警察に捕まえさせる
- 騒ぎが起きている間にジョニーを隠れ家に入れる
- 協力者の友人がジョニーと似た子供を車に乗せ目立ちながら逃げ去る
- 警察が帰ったところでジョニーを乳母のところに連れていく
実行に移した三人が最終的に疑われずに済むのがうまいところ。マーカスは実の父親ですし、トレッドウェルはマーカスがアリバイを証明、友人はただ子どもを車に乗せていただけなので特に追及されません。
少し気になったのはジョニーがずっと隠れ家で大人しくしていたこと。トイレなどの問題もありますし、三歳の子どもが玩具一つでずっと静かにしていたとは思えません。警察がどれくらい邸にいたのかはわかりませんが、いなくなってすぐに行動したら目立つのでそれなりの時間は隠れ家に入れていたはず。ポアロが根は良い父親と言っていることからクロロホルムなどで眠らせたとも考えづらいので、騒がれなかったのは運が良かっただけのような気がします。
謎解きのヒント
さらわれた子どもの親を疑えるか。前提条件としてこの既成概念を取り払わなければ謎を解くのは難しいでしょう。ただしそう思わせるいつくものヒントが、文中に散りばめられていました。
まずはジョニーがさらわれる前から送り付けられてきた手紙。それでお金が得られるはずがないので、なるべく実行に移したくないという思いがうかがえます。次に内部にいる者にしかできない数々の状況証拠。エイダに体調不良を起こさせたこと、12時の予告状、大時計の針を進めておくことなどがそれに当たります。ただしここまでの要素では内部の者とまでしか容疑者を絞れません。
続いて隠し部屋の存在と状態。滅多に入らないにもかかわらずきれいだったことは、存在を知る者が使用した、もしくは使用する予定だったことがうかがえます。決定打はジョニーがさらわれたタイミング。大時計が鳴り警察が出て行ったときにジョニーといっしょにいたのはマーカスしかいません。それにいくら外で黒幕が捕まったとはいえ、大事な子どもから目を離すことはしないように思います。
ドラマについて
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1989年に本物語を放送しました。以下は原作との相違点です。
- ポアロに相談に来た時点でジョニーがまださらわれていない
- レモンが資料を5通りに分類している最中
- ポアロに相談に来るのがマーカス一人
- エイダが夜中にけいれんを起こす
- ポアロが浮浪者に話を聞く
- 抜け道を通って連れ去っている
- 乳母がトレッドウェルの姪
- ジャップが登場する
- ヘイスティングスの車好きが過ぎる
基本は原作に則っているものの、いくつか変更・追加要素があります。いちばん大きい点は、ポアロに話が入った時点でまだジョニーがさらわれていないことでしょう。そのためポアロとヘイスティングスはウェイバリー家に行き、護衛をする予定でした。
ところがウェイバリー家の修繕工事をしている業者に話を聞きに行った帰り、ヘイスティングスのポンコツ車が故障(細工されていたのですが)。通りがかりの車にも助けてもらえず、ポアロは予告されていた12時に間に合いませんでした。
お笑い要素はレモンの資料整理と熱狂的な車好きのヘイスティングス。ル・マン24時間レースの出場も決まりますが、故障もあったりして本当に大丈夫なのかと思わせるよう描かれています。ポアロも嫌気が差して、ヘイスティングスの車よりも電車を選ぶというオチでした。
感想
さらう前の予告だけでお金を取ろうとした点が面白かったです。ただエイダの性格を読んであり得ないと踏んでいたのだと思いますが、万が一応じたらどうするつもりだったのでしょう。手紙に現金の受け渡し方法が書かれていたのか、それに応じたことをどうやって知るつもりだったのか。
要求額は徐々に上げていきましたが、確実にお金を得たいのなら逆に減らすのもアリだったのではないかと思います。なぜなら「この金額で事態が収拾するなら」と思わせるのも一つの手だからです。結果的に見てなんとなく情けなくなってしまいますけどね。
ヘイスティングスはいつもポアロに騙されているため用心していましたが、犬の件でまんまとしてやられてしまいます。ポアロはヘイスティングスが用心していたことを見越して、おちょくっていたのかもしれません。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
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