4階の部屋(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アガサ・クリスティーのポアロシリーズ『4階の部屋(四階のフラット)』。この物語は、ポアロの住むマンションで女性の遺体が発見される、『愛の探偵たち』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、結末など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『4階の部屋』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
エルキュール・ポアロ | 私立探偵 |
パトリシア・ガーネット | フライヤーズ・マンションの住人 |
ジミー・フォークナー | パトリシアの友人 |
ドノヴァン・ベイリー | パトリシアの友人 |
ミルドレッド・ホープ | パトリシアの友人 |
アーネスティン・グラント夫人 | パトリシアの部屋の下の住人 |
ライス | 警部 |
あらすじ
パトリシアの家の鍵がどこかへ行ってしまったので、友人のジミーとドノヴァンが石炭リフトに乗っての侵入を試みる。ところが階数を間違えて下の部屋に入ってしまったので、二人は慌てて退散した。
今度は無事にパトリシアの部屋に入り冒険談を話している最中、ドノヴァンの手に血が付着しているのを発見。下の部屋で付いたに違いないと思いふたたび入ってみると、住人のアーネスティン・グラント夫人がカーテンの陰に隠れて息絶えていた。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
黒幕と動機
アーネスティン・グラント夫人を亡き者にしたのはドノヴァン・ベイリーでした。動機はパトリシアといっしょになること。そのために妻のグラント夫人を排除し、結婚証明書を手に入れることが部屋に忍び込んだ理由でした。
ドノヴァンの行動を追うと次のようになります。
- アーネスティン・グラント夫人の命を奪う
- 結婚証明書は夜の配達だと気づく
- 遺体をカーテンの陰に隠す
- パトリシアたちと遊びに行く
- パトリシアのバッグから部屋の鍵を抜いておく
- リフトを使って部屋に入るよう誘導する
- ジミーとリフトに乗り階数を間違えたふりをして下の部屋に入る
- 届いていた結婚証明書を確保
- パトリシアの部屋に行き談笑
アーネスティン・グラント夫人の遺体をカーテンの陰に隠したのは、メイドに気づかれないようにするため。ただこの行動には少し疑問が残ります。なぜならメイドが郵便物を置いてすぐに自室に行くという行動を知っている必要があるからです。確かに部屋が暗くてシーンとしていたらそっとしておくかもしれませんが、電気を付けなかったり居間の奥まで行かなかったり血がつかなかったりしたのは、運が良かっただけのような気がします。
階数の数え方
本作の邦題は『4階の部屋』ですが、原題は『The Third Floor Flat』です。なぜ「Third(=三番目)」なのに4階なのか。これは日本とイギリスで階数の数え方に違いがあるからです。
図にすると次のようになります。
石炭リフトは1階にあった可能性もありますが、図では地下1階としました。パトリシアの部屋の階から「4つの階段を降りた」という記述があることが理由。1階にリフトがあると思ったのは、当時のイギリス建築は住居スペースは2階からという建物が多いからです。
ドノヴァンは数え間違えてアーネスティン・グラント夫人の部屋に入ってしまったと説明しました。ちょうどいい理由があって一応話としては納得できますが、もしジミーが数えていたら口論してでも入るつもりだったのでしょう。
ドラマについて
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1989年に本物語を放送しました。以下は原作との相違点です。
- 名前がホワイトヘブン・マンション
- ポアロが風邪をひいている
- ポアロとヘイスティングスも観に行った芝居の帰りに起こった出来事になっている
- 最初の侵入で遺体を発見する
- ジャップが捜査の担当
- ドノヴァンが逃亡を図る
本筋はほぼ原作通りですが、前後に物語が付け足されています。序盤はポアロが風邪をひいている中、ヘイスティングスとお芝居を観て推理勝負をするというストーリー。なんとポアロが推理した執事ではなく、ヘイスティングスが怪しいと口にしたサドラー夫人が黒幕でした。そしてこの芝居をパットたちも観に来ており、石炭用リフトの使用につながっていきます。
終盤に付け足されているのはドノヴァンの逃亡劇。うまいことエレベーターを使ったりして外まで出ますが、最終的にヘイスティングスの車を激突させてぶっ壊してしまいます。ヘイスティングスは落胆し、ドノヴァンより車を心配する始末でした。
レモンにやらされた惨めな治療法でも一向に良くならなかったポアロの風邪は、謎に遭遇してあっさり完治。謎が探偵にとっていちばんの治療法であることの表われです。
感想
間違えて入った部屋の中に遺体があったという、いかにも偶然的な要素が面白かったです。ただドノヴァンの計画はどうしても安易だったとしか思えません。なぜならこの一件は新聞に載るでしょうし、結婚証明書を送った弁護士が現れたら間違いなくいちばんの容疑者になってしまうからです。メイドが見つける朝までしか猶予がなかったので、慌ててしまったのだと思います。
ポアロも指摘していましたが、もう一つ迂闊だなと思ったのは電気が付かないと言ったこと。すぐにバレてしまうような嘘ですし、警察もおそらく疑問の目を向けるでしょう。もしかしたら最大のミスは、結婚証明書を手に入れるときに手に血が付着してその夜に発見される事態に陥ってしまったことかもしれません。
ポアロのオムレツ好きも印象的でした。個人的な感覚ですが、捜査に協力するとはいえオムレツをご馳走になるなんてちょっと図々しい。ただこのオムレツの話には、パトリシアやミルドレッドを悲惨な現場から遠ざける意味もあったのだと思います。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
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