三破風館(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『三破風館』。この物語は、屋敷だけじゃなく家具や身の回りものもすべてを買おうとした謎の人物を追う、『シャーロック・ホームズの事件簿』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、『三破風館』の結末などの解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『三破風館』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
シャーロック・ホームズ | 私立探偵 |
ジョン・H・ワトスン | 医師 |
メアリー・メイバリー | 三破風館の主 |
モーティマー・メイバリー | メアリー・メイバリーの亡き夫 |
ダグラス・メイバリー | メアリー・メイバリーの息子 |
スティーヴ・ディキシー | 懸賞ボクサー |
バーニー・ストックデール | スティーヴ・ディキシーの兄貴分 |
スーザン | 三破風館の女中 |
ヘインズ・ジョンソン | 家屋の仲介業者 |
スートロ | メアリー・メイバリーの顧問弁護士 |
ラングデール・パイク | 社交界の生き字引 |
イザドラ・クライン | ドイツの砂糖王の未亡人 |
あらすじ
ワトスンが久しぶりにホームズを訪ね談笑していると、気の狂った牡牛のような男が飛び込んでくる。男はスティーヴ・ディキシーというボクサーで、ハーロウ・ウィールドの件を調べていたホームズをおどかしに来たのである。
発端は三破風館に住むメアリー・メイバリーからの手紙で、突然屋敷だけでなく家具や身の回りのものまですべて買いたいという人物が現れたという。どうやら屋敷にある何かを回収することが目的で、裏にはお金に糸目をつけない大物が潜んでいるようだった。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
裏に潜んでいた人物と動機
三破風館をまるごと買い上げようとしていた人物は、絶世の美女でお金持ちのイザドラ・クラインでした。イザドラは美貌とお金にまかせて多くの愛人をこさえていた女性。ダグラスも愛人の一人でしたが、ローモンド公爵との婚約を機に切り捨てられていました。
イザドラとの関係が本物だと信じていたダグラスは復讐を決意。愛人を作り遊んでいた事実を記した小説を執筆し、イザドラを恐怖に怯えさせます。そのタイミングでダグラスは落命しますが、イザドラは小説が存在している限り気が休まりません。三破風館を買おうとしたのは、その小説を遺品から回収するためでした。
ダグラスが書いた小説の中にある「わが」という表現についてホームズは感情の昂ぶりが理由だと話しましたが、読者にわかるようわざとの可能性もあります。その可能性を否定する要素としては、イザドラが「誰にだってわかる」と発言していることでしょうか。どのくらいイザドラが有名だったのかわかりませんが(ワトスンはたいして知っていなかった様子)、あからさまならば誇張する必要もないので。とはいえそもそも出版が目的ならば、間違いは校正されちゃうと思いますけどね。
三破風館の意味
「破風」とは、家の妻側の屋根の部分のことなのですが、言葉よりも実物を見たほうが早いので以下の写真をご覧ください。
役割は強風からの耐性を強くすることと雨漏りを防ぐこと。神社仏閣では装飾を施すなど、建造物をおしゃれに見せる一要素にもなっています。
つまり三破風館とは、三つの破風を持つ家のこと(言葉の意味さえわかればそのまんまです)。ただしワトスンは「二階の窓の上に申しわけばかりについている出っ張り」と言っているので、そんなに豪壮なものではないのでしょう。
破風の位置として考えられるのは、一つの妻側(側面)に三つ連なっている、もしくはT字型の家で別々にある構造。個人的な印象ですが、ワトスンが「みすぼらしい」と表現していることから前者なのではないかと思っています。
ドラマについて
ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1994年に本物語を放送しました。以下は原作との違いです。
- ワトスンが帰宅したときにディキシーがホームズを締め上げている
- 差別的な表現がなくなっている
- ダグラスがメアリーの孫でワトスンのラグビーチームの後輩
- ワトスンが三破風館に泊まる
- ホームズがダグラスのペンダントを見つける
- ホームズとパイクがイザドラのいる仮装パーティーに参加する
- ホームズがディキシーのところに怒鳴り込みに行く
- ホームズが一人でイザドラの家に乗り込む
- 破風がちゃんとあってオシャレ
物語は原作に則っていますが、追加・変更点がいくつかあります。いちばん大きいのはワトスンが護衛として三破風館に宿泊すること。夜に侵入したディキシーにボコボコにされ、窓を突き破り大ケガを負ってしまいます。
結末も若干異なっていて、ホームズはワトスンを置いて一人でイザドラの屋敷に突入。世界一周旅行の費用5000ポンドだけではなく、ローモンド公爵との婚約破棄も要求します。理由はおそらく、仮装パーティーで接触したローモンド公爵の母の希望をかなえるためでしょう。
本シリーズではワトスンがベーカー街のアパートにずっと住んでいる設定です。なのでディキシーがいたのは、ワトスンの帰宅時となっています。ホームズを締め上げるほどの腕力を持つディキシーをハドスン夫人がポカポカと追い出す姿。たくまし過ぎますね。
感想
館だけじゃなく家具や身の回りのものすべてを買い取る奇妙さは面白かったですが、それよりもダグラスとイザドラの心情が印象に残っています。ダグラスの方は、本当に愛しているならば相手の幸せを考えることもできたはず。しかしひどい仕打ちをされ、愛が憎悪に変わり復讐するに至ったのは悲しく空しく映りました。
一方のイザドラの方は、愛人を作って用済みになったら捨てるという行動を繰り返していたのだから恨まれても仕方ありません。興味深かったのは、一連の行動を正当化しようとしたこと。幸せを守るためとはいえそんな主張は通らないと思うのですが…きっと理屈じゃないんでしょうね。
ダグラスが執筆した少なくとも245ページある小説には何が書いてあったのか。馴れ初めから始まり、幸せな日々、そして無残に捨てられた事実などでしょうか。この大作に込めたダグラスの気持ちがどんなだったのか、ちょっと読んでみたい気もします。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のホームズ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
-
前の記事
独身の貴族(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想 2022.04.06
-
次の記事
瀕死の探偵(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想 2022.04.27
コメントを書く