独身の貴族(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

独身の貴族(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『独身の貴族(花嫁失踪事件)』。この物語は、結婚式直後に失踪した花嫁の行方を追う、『シャーロック・ホームズの冒険』に収録されている短編小説です。

そこでこのページでは、『独身の貴族(花嫁失踪事件)』の結末などの解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

登場人物

『独身の貴族』の登場人物は以下です。

登場人物名 説明
シャーロック・ホームズ 私立探偵
ジョン・H・ワトスン 医師
ロバート・セントサイモン バルモーラル公爵の次男
ハティ・ドーラン ロバート・セントサイモンの妻
アロイシャス・ドーラン ハティ・ドーランの父
フローラ・ミラー 踊り子
アリス ハティ・ドーランの女中
レストレード スコットランドヤードの警部

あらすじ

ワトスンが新聞に埋もれて過ごしていたある日、ホームズのもとにセントサイモン卿からの手紙が届く。セントサイモン卿の妻となったハティが、結婚式後の披露宴で失踪していたのだ。

ハティは式の途中まで明るく元気だったものの、花束を落とし紳士に拾ってもらったあたりから様子が激変。お気に入りの女中と話をした後すぐ、慌てて外出したきり戻ってこなかったという。

解説と考察

それでは本物語の解説と考察に移ります。

花嫁の行方

失踪したハティは、亡くなったと思っていた夫のフランシス・ヘイ・モウトンのところにいました。フランシスの貧乏が原因でハティの父に関係を引き裂かれてしまったものの、二人は内緒で結婚。その後フランシスはお金持ちになって帰ってくると約束し、一人旅立って行きました。

ところが行った先で原住民に襲われ、フランシスが落命したとの報道が出ます。一年あまり何も連絡がなかったため報道が真実だと思い、ハティはセントサイモン卿との結婚を決断。フランシスと同じように愛せないかもしれないけど、しっかりと妻としての役目を果たそうと誓います。未来のことばかり口にしていたのは、誓いを実現しようとしていたことの表われでしょう。

そして迎えた結婚式当日、ハティは教会にいるフランシスを発見。わざと花束を落として伝言を受け取り、披露宴が始まってすぐに駆け落ちします。ホームズはセントサイモン卿からの話と過去の同様のケースから起こっている事態を推理し、レストレードが見つけてきた手紙から居場所を特定。なんとか間を取り持とうとしますが、セントサイモン卿は怒って帰ってしまいます。

ややこしい事態を招いた原因

世間をも騒がせた事態を招いてしまった原因は、反対されていたとはいえ内緒で結婚したことにあると思います。内緒であるがゆえにセントサイモン卿にフランシスの存在を言えなかった。当人同士は良くても、結果はセントサイモン卿を傷つけただけです。

では二人はどうすればよかったのか。父の言うことは絶対だったのかもしれませんが、それでも認めてもらうまで粘り強く話し合うのがいちばんの方法だったのだと思います。もし公認であれば、ハティはフランシスと結婚して未亡人となった経緯をセントサイモン卿に話せた。この事実をセントサイモン卿が知っていれば、ハティが突然現れたフランシスの方に行ってもまだ納得できたような気がします。

秘密の結婚とか駆け落ちとか、響きは美しいです。しかし結局秘密を守るために秘密を重ねなければならないので、結ばれた本人同士も心が休まらないのではないでしょうか。

ドラマについて

ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1993年に『未婚の貴族』というタイトルで本物語を放送しました。以下は原作との違いの中で比較的大きな点です。

原作との相違点
  • ホームズが悪夢に悩まされている
  • 黒いヴェールの女性が登場
  • ワトスンがセントサイモン卿訪問の対応をする
  • 湯治に行ったレストレード警部の代わりにモンゴメリー警部が出てくる
  • 手紙のイニシャルが「F.M.」になっている
  • ホームズとワトスンが逮捕されたフローラに会いに行く
  • フローラが消される
  • セントサイモン卿が極悪人

原作の物語は、ドラマでは一部のような扱いになっています。相談しに来たセントサイモン卿が極悪人で、いずれも遺産目当てでした二度の結婚歴がありました。一人目の妻はグラーヴン城の使用人として働いているトーマス・フルティエという男に亡き者にしてもらい、二人目は精神異常者として監禁。三人目の妻として狙われたのが、アメリカで父が成功して大金持ちになったハティという設定でした。

一方でホームズは、モリアーティと対決したときなどの悪夢にうなされています。その夢の中に出てきたのが黒いヴェールの女性。なんとこの女性が現実にも登場し、ホームズが見た夢は予知夢となってセントサイモン卿の悪行につながっていきます(女性の正体はセントサイモン卿の二番目の妻の妹アグネス・ノースコート)。ちなみに黒いヴェールの女性の元ネタは、本シリーズでは映像化されなかった『覆面の下宿人』です。

レストレードが休暇で湯治に行っちゃってるっていう、ちょっとしたお笑い要素もありました。その会話の際、レストレードには妻がいることがワトスンから明かされます。

感想

セントサイモン卿がとにかく可哀想。いったいなんのための結婚式だったのか。セントサイモン卿がことを荒だてなかったのは、さすが高貴なお方だというところでしょうか。気持ちの問題や世間を騒がせちゃってるため難しいかもしれませんが、フローラとの関係が戻ればいいなと思います。

ハティがフローラといるところを目撃されたのは、ハイドパークでセントサイモン卿の過去を吹き込まれた一瞬の出来事でした。気になるのはその後の足取り。ハイドパークから隠れ家のゴードンスクエアまでそこそこ距離があるので、目撃情報がなかったのは奇跡的です。しかも恰好は花嫁衣裳のうえに外套、かつ新聞で存在は有名だったにもかかわらず。

面白かったのがワトスンの会話術。

以上で花嫁の失踪するまでに出た記事の要はつくしている。

出典元:新潮文庫『シャーロック・ホームズの冒険(花嫁失踪事件)』コナン・ドイル/延原謙訳

いつも話の順序だてをダメだしされるワトスンですが、このときばかりはホームズも「何になるまでだって?」と一気に引き込まれていますね。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。

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