エッジウェア卿の死(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・相関図

エッジウェア卿の死(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・相関図

アガサ・クリスティのミステリー小説『エッジウェア卿の死』。この物語は、エッジウェア卿の命を奪ったと疑われた妻が同じ時間に別の場所でも目撃される、ポアロシリーズの長編小説第七作目です。

そこでこのページでは、「人物相関図」や「物語のポイント」を確認しながら、本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説の前に、最終的な人物相関図あらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

最終的な人物相関図

以下は、本作品の登場人物の最終的な相関図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

相関図

あらすじ

◆ ジェーン・ウィルキンスンの依頼

カーロッタ・アダムズの演劇を見終わった後、ヘイスティングスと食事をしていたポアロのもとに元女優のジェーン・ウィルキンスンが相談に来る。マートン侯爵と結婚するため、別れてくれない今の夫のエッジウェア卿と話をつけてくれというのだ。

数日後、ブライアン・マーチンから尾行の相談を受けた日の昼に、ポアロとヘイスティングスは急きょエッジウェア卿と会見。なんと離婚には承諾しているというまさかの返答だったが、エッジウェア卿に潜む残忍性を見て取った。

◆ エッジウェア卿の落命

翌日、ポアロとヘイスティングスはエッジウェア卿が命を奪われたという話をジャップの訪問で知る。しかも命を奪ったのはジェーンで、邸に姿を隠しもせず現れたのだから間違いないというのだ。

ところがエッジウェア卿が命を落とした時間、ジェーンはモンターギュ・コーナー卿のパーティーに出席していたことが判明。二つの異なった場所で同じ人物が目撃されるという、おかしな状況が起こっていた。

◆ 第二の悲劇

ジェーンの仕業だと見せかけるために利用されたカーロッタが用済みになり亡き者にされる。持ち物からはエッジウェア卿の邸に現れたジェーンと同じ服、加えてDから送られた小箱や使わないはずの鼻眼鏡が見つかった。

友人のジェニー・ドライヴァーの話によると、カーロッタはずっと仕事と妹にかかりきりだったが、最近何かに心を奪われて興奮している様子だったという。その後、カーロッタが現場近くにいたこと、そして誰かを待って飲食店にいたことも明らかになった。

◆ ヘイスティングスと男女の会話

オペラを観ていたというアリバイが崩れ、ロナルド・マーシュがエッジウェア卿の命を奪ったとして逮捕される。カーロッタが妹に宛てた手紙が決め手の一つとなったが、ポアロが原本を徹底的に調べ一枚引き裂かれていることが判明した。

小箱を受け取ったのが鼻眼鏡の女性だと連絡があった翌日、「パリ」という言葉で何かを思いついたドナルド・ロスが絶命。ポアロはいまだ腑に落ちないことがあったが、ヘイスティングスと通りがかりの男女の会話ですべての謎が氷解する。

解説と考察

それでは本物語の解説と考察に移ります。

黒幕と動機

3人もの命を奪った黒幕はジェーン・ウィルキンスンでした。動機はマートン侯爵と結婚し、高い地位を手に入れるため。マートン侯爵は前夫が生きている女性と結婚しないことから、エッジウェア卿には命を落としてもらう必要があったのです。

エッジウェア卿を亡き者する際に利用したのがカーロッタ・アダムズ。自分の変装でモンターギュ・コーナー卿のパーティーに参加してもらい、13人もの証言がある鉄ぺきのアリバイを確保しました(トリックは後述します)。役目を終えて用済みになったカーロッタは、ヴェロナールを飲まされ絶命。多少の申し訳なさはあったようですが、ジェーンは自分の真似をしてショーに出ることを許せないと思っていました。

ドナルド・ロスが命を奪われたのは、モンターギュ卿のパーティーと後の午餐会にいるジェーンが別人だと気づいたから。モンターギュ卿のパーティーで会ったジェーンは、「パリスの審判」について無知をさらけ出すようなことはしない人物だったのです。誰かに話されてはアリバイが崩れると思い、ジェーンはロスを口封じのために処理しました。

アリバイトリック

ジェーンがエッジウェア卿の命を奪う際、アリバイを手に入れるために行なったのが、カーロッタとの入れ替わりトリックです。以下のジェーンとカーロッタがとった行動の図をご覧ください。

ジェーンとカーロッタの行動

ジェーンはヴァン・デューセン夫人(カーロッタのこと)と会い服などを交換。カーロッタにはパーティーに参加してもらい、自分のアリバイを確保します。自分は変装を解き、堂々とエッジウェア卿を訪問して命を奪う。2つの場所で目撃されたことになりますが、パーティーにいた見ず知らずの13人による証言の方がアリバイ的に強いのは明らかでした。

凶行を終えパーティーが終わるまでの間に、ジェーンはカーロッタが妹に書いた手紙を発見。送られたら致命的でしたが、巧みに引き裂いてピンチをチャンスに変えます。「she」を「he」に変えロナルドの、引き裂いたことがわかっても男の仕業だと見せかけようとしたのです。

「D」からの金の小箱をバッグに忍ばせたのもこのとき。目的は捜査の混乱および、カーロッタがヴェロナールの常用者だと思わせるためでした。

五つの疑問

物語の中で、ポアロは五つの暗示的な疑問を列挙しました。以下はその疑問に解答を加えた表です。

番号 疑問点 解答
1 なぜエッジウェア卿は離婚に承諾したか ジェーンにゆすられたから
2 エッジウェア卿が送った手紙はどこへいったのか ジェーンが受け取ってないとウソをついた
3 なぜエッジウェア卿は恐ろしい顔を見せたのか ゆすりに屈したから
4 なぜカーロッタのバッグから鼻眼鏡が見つかったか ジェーンが回収し忘れた
5 ジェーンに電話をかけた人物と目的は何か 計画の状況確認のため

エッジウェア卿は人を傷つけて楽しむという悪趣味を持っていました。ジェーンはそれをネタに、「離婚に応じろ」とゆすっていたのです。これがエッジウェア卿が離婚に承諾した理由(1)、そして恐ろしい顔は渋々認めざるを得なかったために出た憤怒の形相でした(3)。

エッジウェア卿が出した手紙の行方は、ジェーンが受け取っていたにもかかわらずとぼけていただけだと思います(2)。なぜなら離婚に承諾されてしまうと、ポアロに相談できなくなってしまうからです。ポアロはジェーンにとって、動機がないと証言してくれる貴重な人物。相談する口実のために、手紙は握りつぶしておく必要があったのです。

電話の件は、受け取ったのが変装したカーロッタでかけたのがジェーン本人。目的はカーロッタの変装が誰にもバレていないことを確認するためでした(5)。鼻眼鏡はジェーンがおかした数少ないミス。エリスから拝借しヴァン・デューセン夫人の変装に使ったもので、回収し忘れたためにカーロッタのバッグから見つかるというおかしな状況に陥ってしまいます(4)。

その他の目論見

ジェーンの凶行には直接関係ないところで、別の2つの計画(正確には3つ)が進行していました。それがロナルドの金銭問題の解決と、ブライアンの金歯の男の話です。

ロナルドからお金に困っているという話を聞き、ジェラルディンは母の真珠を渡すと提案。偶然一緒になったオペラの劇場をこっそり抜け出し、エッジウェア卿の邸に取りに行きました。ちなみにこのときロナルドが見た男はブライアンそっくりのアルトン。彼はエッジウェア卿の部屋から100ポンドを盗み、仲間に渡した帰りでした。

金歯の男の話は完全なるでっち上げ。ブライアンはかつてジェーンと結婚する気でいましたが、捨てられたために恨みを持っていました。その恨みから、ジェーンを破滅させてやろうと計画。金歯の男の話はポアロを訪問するために口実が欲しかっただけで、ジェーンがエッジウェア卿の命を奪ってもおかしくないと、先入観を植え付けることが本当の目的だったのです。

ドラマについて

デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、2000年に本物語を放送しました。以下はキャストと、原作との主な相違点です。

登場人物名 役者名
エルキュール・ポワロ デヴィッド・スーシェ
ジェームス・ジャップ フィリップ・ジャクソン
アーサー・ヘイスティングス ヒュー・フレイザー
ミス・レモン ポーリーン・モラン
ジェーン・ウィルキンソン ヘレン・グレース
エッジウェア卿 ジョン・キャッスル
ブライアン・マーチン ドミニク・ガード
カーロッタ・アダムス フィオナ・アレン
ペニー・ドライヴァー デボラ・コーネリアス
ジェラルディン・マーシュ ハンナ・イェランド
ロナルド・マーシュ ティム・スティード
アルトン クリストファー・ガード
エリス フェネラ・ウーネガー
キャロル レスリー・ナイチンゲール
ドナルド・ロス イアン・フレイザー
ルシー・アダムス アリザ・ジェームス
原作との相違点
  • エッジウェア卿がジェーンの劇をジャマするところから始まる
  • ポワロが挙げる五つの疑問のうち二つが違う
  • マートン侯爵夫人が出てこない
  • ドライヴァーの名前がペニー
  • カーロッタがポワロのモノマネもする
  • ヘイスティングスが泊まっていたホテルにヴァン・デューセン夫人が来る
  • ブライアンが金歯の男の話をするのがエッジウェア卿の落命後
  • ルシーがアメリカからロンドンに来る
  • 金の小箱の名前が「P」になっている
  • ジャップがポワロのアドバイスなしにロナルドのアリバイを崩す
  • アルトンが逃走の末に命を落とす
  • レモンが金の小箱の購入者を突き止める
  • ポワロが劇場で真相を明かす
  • ジェーンがペニーからブライアンを奪った過去があった
  • ポワロたちが食事してすぐに遺体が現れる
  • ヘイスティングスが鉄道すら通っていない鉄道会社に投資して全財産を失う
  • ヘイスティングスがマートン侯爵からの報酬を受け取る

黒幕やトリックなどは原作と同じですが、ところどころ違いがあります。まずは登場人物。息子とジェーンの結婚に大反対していたマートン侯爵夫人が出てきません。そしてドライヴァーの名前がペニーになっており、合わせて疑いが持たれるよう金の小箱を送った人物のイニシャルが「P」になっています。

いちばん大きな変更点は、ポワロが挙げた五つの疑問。エッジウェア卿が離婚に承諾した理由と見せた恐ろしい形相が削られており、代わりにカーロッタが妹に書いた手紙と「P」は誰かが加わっています。確かに証拠としてはドラマで付加した二つの方が重いので、原作から変更を施したのでしょう。

ヘイスティングスがアルゼンチンからロンドンに来た理由が、投資に失敗して全財産を失ったからでした。最後にイジリとも取れる投資話をポワロたちからされますが、しっかりと銀行に貯金するという道を選びます。

感想

ジェーンはアドリブにも強く本当に狡猾な女性だと感じました。特にカーロッタが妹に書いた手紙の細工がそうで、まさか引き裂かなければならなかったなんて誰が思うでしょう。シンプルだけど一つの真実のさらに奥に本当の意味がある。それをあの土壇場で閃いたのだから、ある意味ゾーンに入っていたといえるのではないでしょうか。

見事なのはカーロッタの変装です。ほぼ初対面で薄暗かったとはいえ、参加者全員を欺いたのですから。容姿、仕草、喋り方などなど、完ぺきにコピーしていたのでしょう。ただドナルドとの会話で知識があることを話してしまったので、教養の面までは生き届かなかったといえます。

笑ってしまう場面も多々ありました。ポアロを自分の思うままに動かすなら髭のことを言う、ジャップが電話でポアロのことを第一と第五で「大したものだ」と話す。おまけにポアロはバスにひかれそうになったのに問題ないなんて言いました。真相に近づいていたのはポアロだけだったので、命を落としたら闇に葬られて大問題だったのに。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。

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