ビッグ4(アガサクリスティ)のあらすじ・ネタバレ解説・感想

ビッグ4(アガサクリスティ)のあらすじ・ネタバレ解説・感想

アガサ・クリスティのポアロシリーズ長編第四作となる『ビッグ4』。この物語は、アガサ・クリスティ史上最駄作という汚名を持ってしまった作品です。

そこでこのページでは、あらすじや感想のご紹介と、「物語のポイント」を確認しながらの解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

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物語について

解説する前に、主な登場人物あらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

主な登場人物

■ エルキュール・ポアロ

物語の主人公。私立探偵。

■ アーサー・ヘイスティングズ

ポアロの友人。南米で農場を経営している。

■ リー・チャン・エン

ビッグ4のナンバーワン。東洋を裏で支配している頭脳的存在。

■ エイブ・ライランド

ビッグ4のナンバーツー。全世界でいちばんの大富豪。

■ マダム・オリヴィエ

ビッグ4のナンバースリー。フランスの有名な女流科学者。

■ クロード・ダレル

ビッグ4のナンバーフォー。デストロイヤーと呼ばれる変装の名人。

■ ジョン・イングリズ

イギリス内で中国の地下組織にもっとも精通した人物。

■ ヴェラ・ロザコフ伯爵夫人

ロンドンを拠点に活躍していた元宝石泥棒。ビッグ4に仕えている。

■ ジェームズ・ジャップ

スコットランドヤードの警部。ポアロの友人。

あらすじ

◆ はじまり

ポアロは、南米から久しぶりにやってきたヘイスティングズと話に花を咲かせていた。すると突然思いがけぬ客がやってきて謎の組織「ビッグ4」について語り気絶。その後、精神病院の医者に扮した組織の一員ナンバーフォーによって亡き者にされてしまった。

ビッグ4に興味を持ったポアロは、中国に詳しいジョン・イングリズから話を聞く。さらにビッグ4について知っているイングリズの知り合い会おうとするが、時すでに遅く先回りされてしまっていた。

◆ ナンバーツーとナンバースリー

ジャップ警部から情報をもらい失踪者の捜索を始めたポアロとヘイスティングズは、フランスで有名な女流科学者のマダム・オリヴィエと会う。するとその屋敷でかつての仇敵ロザコフ伯爵夫人と再会。このことからポアロは、失踪者の居場所とナンバースリーの正体がマダム・オリヴィエであることを突き止める。

続いてポアロは、調査依頼を受けていたアメリカの大富豪エイブ・ライランドがナンバーツーではないかと睨んでいた。そこでヘイスティングズを囮にしつつ罠を仕掛け、正体を暴くことに成功する。

◆ ナンバーフォーの正体

その後もいくつかの事件に遭遇し、ナンバーフォーとの攻防を繰り広げるポアロたち。その中にはヘイスティングズの妻を人質にとった卑劣極まりないものまで存在した(実際は人質にとられていない)。

ポアロは、少しずつわかってきたナンバーフォーの特徴をもとに候補者のリストを作成。そして彼らの情報を得るため新聞に公告を掲載すると、一人の女性の話からナンバーフォーには「パン屑をいじるクセ」があることがわかる。しかしその女性はナンバーフォーの写真を家に撮りに行く途中、自動車にはねられてしまうのであった。

◆ 最後の勝負

依頼されたとある捜査から帰ってきたポアロは、ビッグ4によって仕掛けられた爆発物によって命を落とし、生き残ったヘイスティングズは復讐を誓う。しかしポアロの残した手紙の勧めで南米へ帰ることを決意。するとその途中で別の場所に連れていかれ、実は生きていたポアロと涙の再会を果たす。

亡きイングリズの奉公人から得たヒントをもとにビッグ4のアジトへ向かったポアロたちは、出し抜いたかに見えたナンバーフォーに捕らえられてしまう。しかしこれこそがポアロの本当の狙いで、アジトは完全包囲されていた。

ナンバーワンのリー・チャン・エンが亡くなったことにより、トップすべてを失ったビッグ4は壊滅。精魂尽き果てたポアロは引退を決意し、「カボチャでも作りますか」と笑うのだった。

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解説と考察

本物語は、「ポアロ対ビッグ4の攻防」と「ナンバーフォーの変装」がポイントです。そこで、ここではこの2つの点について解説と考察を行います。

ポアロ対ビッグ4の攻防

何回にもわたるポアロ対ビッグ4の攻防の勝敗を表にすると、以下のようになります(勝敗はビッグ4の企みを基準に付けています)。

ポアロ 勝負の内容 ビッグ4
メイアリングの命
ホェイリイの命
マダム・オリヴィエとの勝負
エイブ・ライランドとの勝負
ペインターの命
マダム・ゴスポーシャの遺産とウイルスンの命
ヘイスティングズの手紙によるポアロのつり出し
フロッシー・モンローの命
ビッグ4全体との勝負

肝心なところでは勝利を収めているものの、ポアロはビッグ4の企みを何度も阻止することができませんでした。しかし、「フロッシー・モンローの命」以外の敗北はすでに起こってしまったことを後日聞いたもの。したがって本当に敗北したと言えるのは一件のみかもしれません。

そして最後の勝負に勝利しビッグ4は壊滅。作中ではポアロが次の言葉を吐いていました。

おわりよければ、すべてよし

出典元:ハヤカワ文庫『ビッグ4(9 黄色いジャスミンの謎)』アガサ・クリスティー/田村隆一訳

とはいえ、ビッグ4によって多くの命が奪われたということを忘れてはならないと思いますが…。

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ナンバーフォーが変装した人物

物語の中で、ナンバーフォーは数多くの人物に変装しました。以下の表は、その人物と特徴をまとめたものです。

名前 職業/他の登場人物との関係 特徴
精神科医の男 ・赤ら顔
・いかつい大男
・濃い口髭
・しゃがれ声
・特徴のない耳と目
・義歯
サンダーズ 出所者救世会の親方/肉屋の男 ・黒いソフト
・眼鏡
・歯が1本ない
・気取った喋り方
ポアロに手を引くよう忠告に来た男 ・背が高い
・やせ型
・鉤鼻
・顔色が悪い
・顎のところまでオーバーのボタンをかけている
・ソフトを目深にかぶっている
ジェームズ エイブ・ライランドの下男
クエンティン ペインター氏を診た医者 ・頭のよさそうな男
・もったいぶった態度
・鼻眼鏡
サヴァロノフ 世界2位のチェス選手 ・背が高い
・やせ型
・ふさふさした眉毛
・純白の顎鬚
・やつれた容姿
・頭の形が高い
ミッキー テンプルトンの前妻の息子 ・丸顔
・持ちあがった眉毛
ポアロたちの泊まったホテルの食堂にいた男 ・肥満
・髭跡のきれいな顔
・土色の皮膚
・目の下にたるみ
・深いほうれい線

並べてみるとわかりますが、変装した人物との間にまったくつながりがない、そして誤魔化せそうな容姿ばかりです。ポアロは逆にこの特徴の無い容姿をもとにして、ナンバーフォーの候補者リストを作り上げます。

また、容姿だけではなく性格もさまざま。ポアロもまったく気づかなかったと認めているので、本当に一流の演技だったのでしょう。ただ、女性の変装ができないことを考慮すると、『名探偵コナン』の怪盗キッドや『金田一少年の事件簿』の怪盗紳士の方が実力は上かもしれないですね。

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感想

推理小説というよりは、アクション小説の方が正しい表現のように感じました。基本ナンバーフォーの変装を利用して何かをすることがメインなので、トリックらしいトリックと言えば電気の流れるチェステーブルくらい。謎解きを期待して読み進めていくと、落胆してしまうかもしれません。

「いいな」と思ったのは、ポアロとヘイスティングズの関係性。ヘイスティングズは、ポアロが爆発によって命を落としたと知った後こんなことを言っていました。

仇敵に一矢もむくいず、だれがおめおめと南米になどかえれるものか!

出典元:ハヤカワ文庫『ビッグ4(16 瀕死の中国人)』アガサ・クリスティー/田村隆一訳

情に厚いヘイスティングズらしい言葉です。自分のせいで命を落としてしまった責任も感じていると思いますが、愛する妻を差し置いてまでビッグ4に一矢報いてやろうとした。ヘイスティングズの中にあるポアロの存在が、それだけ大きかったということなのでしょう。

また、ポアロはヘイスティングズのことを想うあまり、次の言葉をかけています。

わたしは、自分の命が危険にさらされるのはなんとも思いませんが、あなたの生命までたえずおびやかされるのを見ているのが、なによりつらかったのですよ。

出典元:ハヤカワ文庫『ビッグ4(16 瀕死の中国人)』アガサ・クリスティー/田村隆一訳

お互い自分の命を顧みず相手を心配している。簡単にできることではありません。

『ビッグ4』は、アガサ・クリスティが失踪や引退を考えていたほどの情緒不安定な時期に書かれた作品です。したがってこれまでの作品のような勢いはなく、ペンが走っていないような印象を受けます。しかしその後に発表した数々の名作を書くことができたのは、このときの苦悩があったからこそかもしれません。そう考えると『ビッグ4』という作品は、かなり重要な意味を持っていると言えるでしょう。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。