第三の女(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・相関図・感想
アガサ・クリスティのミステリー小説『第三の女』。この物語は、ポアロが突然の訪問により知ったあったかもしれない凶行を追う、ポアロシリーズの長編小説第三十作目です。
そこでこのページでは、「人物相関図」や「物語のポイント」を確認しながら、本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説の前に、最終的な人物相関図とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
最終的な人物相関図
以下は、本作品の登場人物の最終的な相関図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。
あらすじ
◆ したかもしれない凶行
まだ朝食の時刻、若い婦人がポアロの事務所を訪ねてくる。自分が人の命を奪ったかもしれないと相談に来たのだが、ポアロが年寄りすぎると言って帰ってしまった。
その日の午後、若い婦人に名探偵の話をしたのはオリヴァ夫人で、名前はノーマ・レスタリックだとポアロは教えてもらう。ポアロは気がかりだったため、オリヴァ夫人は好奇心で、ノーマの身辺を調査することにした。
◆ オリヴァ夫人の尾行
ロンドンで住んでいるボロディン・マンションにも実家にもおらず、ノーマは行方不明になっていた。ところが数日後に偶然にも、カフェで恋人のデイビッド・ベイカーといるノーマをオリヴァ夫人が発見する。
カフェに残ったノーマはポアロに任せてオリヴァ夫人はデイビッドを尾行したが、狭い路地に入ったところで見つかってしまう。適当に話を繕ってその場を凌いだ帰り道、恐怖の予感が的中し背後から襲われてしまった。
◆ 見つかった遺体
オリヴァ夫人はお見舞いに来たポアロに、50歳くらいの女性がボロディン・マンションから落ちて亡くなったことを口にする。ポアロはようやく探し求めていた遺体、すべてを結びつける鍵を見つけたのである。
ボロディン・マンションの門番や管理人の話で、亡くなったのはルイーズ・シャルパンティエという名前だったことを知る。ポアロはルイーズという名前を、最近どこかで聞いたような気がした。
◆ デイビッドの絶命
すでに読んだ膨大な資料の前で、ポアロはいまだ適合しないパターンを見つけるため思考に耽る。そしてようやく断片が合わさった矢先、精神科医のスティリングフリートに預けていたノーマが施設を抜け出したと連絡が入った。
時遅く、ボロディン・マンションでノーマが血まみれのナイフを持った状態でデイビッドが絶命。関係者が集まった現場で、ポアロは協力を仰ぎながらことの真相を明かし始める。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
犯人と動機
ルイーズ・シャルパンティエとデイビッド・ベイカーの命を奪ったのは、フランシス・キャリイとアンドリュウ・レスタリックでした。実は本物のアンドリュウは亡くなっており、いたのはロバート・オウエルという悪党のなりすまし。そしてフランシスとメアリ・レスタリックは同一人物で、どこかに出かけているというアリバイ確保のため二重生活を送っていたのです。
フランシスとアンドリュウの目的はレスタリック家にある莫大な財産。ルイーズを亡き者にした動機は、本物のアンドリュウを知っており計画を阻まれる危険があったからでした。さらにデイビッドは肖像画を描いたことでアンドリュウの正体を知っており、ゆすったために命を奪われてしまったのです。
ノーマの記憶障害は様々な興奮剤や鎮静剤などを飲まされていたため。自分は気が狂っていると思わせ、人の命を奪ったと信じ込ませていたのです。しかしノーマ自身にやった記憶はないので、冒頭のポアロ訪問時に「したかもしれない」なんていう表現になったのでした。
第三の女の意味
本作のタイトル「第三の女(Third Girl)」の意味は、ポアロとお茶をしているときにオリヴァ夫人が次のように説明しています。
主になる娘がまず家具つきのマンションを借りて、それから何人かの仲間で家賃を分担する。
出典元:ハヤカワ文庫『第三の女』アガサ・クリスティー/小尾芙佐訳
場合によっては知らない人も一緒に住みますが、ルームシェアのようなイメージでしょう。キッチンなどは共用。家賃も分担できるため、駅近などの立地の良くて広いマンションに住むには1つの良い方法だと個人的には思います。
物語の中では第一の女がクローディア、第二の女がフランシス、第三の女がノーマでした。ただしこれは表向きの意味。ポアロにとって第三の女は常にそこにいない人物、フランシスのことを指していたのです。
ドラマ「名探偵ポワロ」について
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、2008年に本物語を放送しました。以下はキャストと、原作との主な相違点です。
キャスト
登場人物名 | 役者名 |
---|---|
エルキュール・ポワロ | デヴィッド・スーシェ |
アリアドニ・オリヴァ夫人 | ゾーイ・ワナメイカー |
アンドリュー・レスタリック | ジェームズ・ウェルビー |
ノーマ・レスタリック | ジェミマ・ルーパー |
クローディア・リース・ホランド | クレメンシー・バートン=ヒル |
フランシス・キャリイ | マチルダ・スタリッジ |
デビッド・ベイカー | トム・マイソン |
ロデリック・ホースフィールド | ピーター・ボウルズ |
ソニア・ベンソン | ルーシー・リーマン |
ネルソン | ジョン・ウォーナビー |
原作との主な違い
- 隠れていた人間関係が異なる
- ノーマが最初からオリヴァ夫人の紹介だと言ってポワロを訪問
- オリヴァ夫人もノーマたちと同じマンションに住んでいる
- ポワロがオリヴァ夫人とお茶をしているときに遺体が見つかる
- オリヴァ夫人が最初に尾行したのがノーマ
- ポワロがノーマを匿う
- ロデリックがポワロに依頼したのがデビッドの調査
- オリヴァ夫人がシーグラムの手紙を見つけ奪われる
- ノーマが逮捕される
- オリヴァ夫人もポワロと一緒に学校を訪れる
- ポワロが真相を話すのがクロスヘッジ
- ノーマが命を絶ったフリをする
- デビッドが命を奪われない
- フランシスの変装がない
- ノーマの母の名前がメアリ
- ポワロが最大の謎の愛とノーマの笑顔を見て涙を流す
黒幕はフランシスとアンドリューで同じですが、背景に潜んだ人間関係が大きく異なります。前提としてドラマでの凶行の動機は、ノーマが母から相続した莫大な財産だということ。そのためにアンドリューの本当の顔を知る、レスタリック家で乳母をしていたシーグラムが口封じで命を奪われました。口封じという点は原作と同じですが、乳母とシーグラムという名はドラマのために作られた要素です。
そしてフランシスの変装はありません。潜んでいた最大の人間関係は、ノーマとフランシスが異母姉妹だということ。フランシスは正妻の子であるノーマを憎み、莫大な財産を手に入れてやろうと復讐を企て、偽のアンドリューを計画に加担させていたのです。
ロデリックが住んでいたクロスヘッジのロケ地は、ルータム・パーク (Wrotham Park)というカントリーハウスです(Googleマップ)。原作ではマンションが真相を明らかにする場でしたが、ドラマではクロスヘッジに変更となっています。
感想
裏の裏をかいて本当にというパターンもありますが、ノーマは実際にやってないんだろうなと思いながら読み進めました。ただそれがどんな意図・方法でなされたのか。ポアロの言うパターンが幾つもありながらもなかなか見えてこなかったですし、鬘というヒントはあってもフランシスとメアリが同一人物だとは思いもしませんでした(アンドリュウは肖像画の件で別人かなとは思っていました)。
前半でハラハラさせられたのはオリヴァ夫人の尾行。ポアロの忠告が予兆になっていて、本当に命を奪われてしまうのではないかと思ってしまいました。襲われたこともあってか、今回はオリヴァ夫人の直感も的外れ。孔雀ことデイビッドにとらわれすぎたからかもしれません。
ポアロがお年寄り扱いされたことを結構根に持っているのが面白かったです。それから本作は読み解くと1965年が舞台。ビートルズの名前が出てきており、ポアロはそんな時代まで生きているんだなと思ったりしました。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のポアロ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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