赤い輪(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『赤い輪』。この物語は、まったく姿を現さない下宿人の謎を追う、『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、『赤い輪』の結末などの解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『赤い輪』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
シャーロック・ホームズ | 私立探偵 |
ジョン・H・ワトスン | 医師 |
ウォレン夫人 | 下宿の女主人 |
レバートン | ピンカートン探偵社の探偵 |
ジュゼッペ・ゴルジアーノ | 赤い輪の一員 |
エミリア・ルッカ | ジェンナロ・ルッカの妻 |
ジェンナロ・ルッカ | エミリア・ルッカの夫 |
トバイアス・グレグスン | スコットランドヤードの警部 |
あらすじ
あざといウォレン夫人のおだてと人情に負け、ホームズは仕方なく相談に乗ることにした。十日前に入った下宿人が朝から夜まで動き回る音が聞こえるのに、まったく姿を見せないというのである。
下宿人は代金を割り増しで払う代わりに、部屋にはどんな理由があろうとも立ち入るなという条件を提示。それから最初の晩に外出し夜中に帰って来たきり、やり取りも紙切れでしているということだった。
解説と考察
それでは『赤い輪』の解説と考察に移ります。
下宿人の正体と姿を現さなかった理由
下宿の代金を支払ったのはジェンナロ・ルッカでしたが、最初の晩に入れ替わりずっと部屋に籠っていたのは妻のエミリア・ルッカでした。姿を現さなかったのは、秘密結社「赤い輪」のゴルジアーノに狙われていたから。人と関わらないことで目撃情報などをなくし、居場所を悟られないようにするためでした。
ルッカ夫妻の連絡手段として用いられたのが、デイリー・ガゼット紙(新聞)の私事広告欄。下宿でのメモを活字にしたのは、筆跡で正体だけでなく入れ替わっていることを知られないようにするためです。広告に関しては誰の目にも触れられるので、ゴルジアーノらも一つの情報源にしていたと思います。
ジェンナロがやさぐれていた時期に「赤い輪」と関わってしまったのがすべての始まり。断ち切れない関係にずっと怯えていましたが、ついに組織の命令に背き二人でロンドンに逃げてきました。最終的に追って来たゴルジアーノはジェンナロともみ合った末に絶命。警察にもおとがめなしとされ、晴れてルッカ夫妻は幸せな生活を手に入れます。
蝋燭の点滅の暗号
ルッカ夫妻はあらかじめ蝋燭の点滅で連絡する取り決めをしていました。以下はその暗号の対応表です。
イタリア語のアルファベットは、「K」「W」「X」「Y」の四文字が基本使用されません(外国から来た言葉のときは使用される)。現在は「J」も使われていませんが、廃止されたのが19世紀後半から20世紀初頭。ルッカ夫妻の年齢ならば使われていた時期に当たると思います。
ここで実際にジェンナロが送った信号に着目すると、20回の点滅は「T」ではなく「U」になるはず。慌てていたため1回多くなった可能性もありますが、3回も送った単語で同じミスをするとは考えられません(同じ理由でホームズとワトスンのカウントミスもないでしょう)。したがってこの矛盾は、作者コナン・ドイルの誤記だと考えられます。
ドラマについて
ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1994年に本物語を放送しました。以下は原作との違いです。
- ウォレン夫人の相談にハドスン夫人が同席
- エンリコ・フィルマーニが登場
- ワトスンが単独で調査する
- ホーキンズ警部が登場
- 鏡で下宿人の姿を見るアイディアはホームズが思い付く
- ホームズが天井から現れてエミリアに会う
- レバートンがゴルジアーノの確保に失敗しケガをする
- エミリアがジェンナロの危険を察知して自ら駆けつける
- ルッカ夫妻が一時逮捕される
- 下宿の代金が12シリングで支払った金額が3ポンドになっている
- 新聞がデイリー・クロニクル紙になっている
細かい変更点や追加点はあるものの、おおよそは原作通り。いちばんの違いは、エンリコ・フィルマーニというオペラ座の照明係が登場することでしょう。原作では名前しか出てこないフェアデール・ホッブスに該当する人物。ドラマでフィルマーニは下宿の紹介をしたがゆえにゴルジアーノに命を奪われてしまう、前半部分の大きな役目を担っています。
ゴルジアーノがジェンナロともみ合って命を落とす結末は同じです。しかし原作ではジェンナロが現場から立ち去りますし、エミリアはホームズに呼ばれてやってきます。最終的に放免される部分は同じですが、一時的に逮捕されるのはドラマだけです。
また、グレグスン警部の代わりにホーキンズ警部が登場。役割としては同じですが、ホーキンズ警部は原作にはいっさい登場しないドラマだけのオリジナルキャラクターです。
感想
もちろん経験はありませんが、泊まりに来た人が十日間もまったく姿を現さなかったら不気味だと思います。ホームズは「そんなことしょっちゅうある」と言っていますが、考えてみれば最初にベーカー街のアパートに入ったのはワトスンもいっしょでした。だからこそ問題なかったのであって、もし一人だったらハドスン夫人も気味悪がったかもしれません。
肩に手を置いたら不安をやわらげるホームズの特殊能力。ワトスンは催眠術のようだと書いていますが、ホームズはそれだけで安心感を与えることができる存在だということでしょう。一方で新聞の私事広告欄を見ているとき、失神したご婦人に対して「興味ない」と発言。いくらなんでも冷たすぎるような…。
グレグスン警部のマウント取ってくる発言にも笑いました。
今回はわれわれ警察のほうが一枚上手だったわけですね、ホームズさん。潔く敗北を認めてもらいますよ
出典元:角川文庫『シャーロック・ホームズ最後の挨拶(赤い輪)』コナン・ドイル/駒月雅子訳
「これ以上心強い味方はいない」と言った直後の発言。ホームズはもはや呆れているのか無視しています(切羽詰まった状況だったからかも)。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のホームズ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
-
前の記事
瀕死の探偵(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想 2022.04.27
-
次の記事
ボール箱(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想 2022.05.10
コメントを書く