高名な依頼人(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

高名な依頼人(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『高名な依頼人』。この物語は、ホームズが名誉ある謎の人物からの依頼で極悪人から令嬢を救う、『シャーロック・ホームズの事件簿』に収録されている短編小説です。

そこでこのページでは、本作品の結末や依頼人の正体などの解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

登場人物

『高名な依頼人』の登場人物は以下です。

登場人物名 説明
シャーロック・ホームズ 私立探偵
ジョン・H・ワトスン 医師
ジェームズ・デマリー 大佐
アデルバート・グルーナー 男爵
ド・メルヴィル 将軍
ヴァイオレット・ド・メルヴィル ド・メルヴィル将軍の娘
シンウェル・ジョンソン ホームズの助手
キティ・ウィンター アデルバート・グルーナーの元愛人
レスリー・オークショット 外科医

あらすじ

トルコ風呂でワトスンとリラックスしていたホームズが、ジェームズ・デマリーからの手紙を取り出す。記された時間の通りベイカー街のアパートに来たジェームズの用件は、ド・メルヴィル将軍の娘・ヴァイオレットを救ってほしいということだった。

ヴァイオレットは極悪人として有名なグルーナーと結婚しようとしており、ほだされて周りの言うことを聞かない始末。依頼人はメルヴィルの親友でヴァイオレットを小さい頃から可愛がってきた人だが、名は明かせないという。

解説と考察

それでは本物語の解説と考察に移ります。

ホームズとグルーナーの攻防

本作品は謎解きというよりも、グルーナーのことを信じ切っているヴァイオレットの目をいかにして覚まさせるかでした。問題は好意で目が曇り、どんな風評もすべて誤解だと吹き込まれていること。ホームズはそんなヴァイオレットを救うため、以下の攻防をグルーナーと繰り広げました。

攻撃者 内容 結果
ホームズ グルーナーを直に訪ねて宣戦布告 ものともせず
ホームズ キティを連れてヴァイオレットを訪問 聞く耳もたれず
グルーナー ホームズ襲撃 負傷
ホームズ グルーナーのもとにワトスンを派遣 日記を盗み出すことに成功

グルーナーに直に会うもあしらわれ、ヴァイオレットに結婚の危険を説くもまったく取り合ってもらえない始末。そして目障りだと感じたグルーナーは、二人組の男にホームズを襲撃させます。しかし負傷を自分にとって有利な手に変えるのがホームズ。重傷であると思わせ、グルーナーを油断させることに成功します。

ホームズはワトスンをヒル・バートンという陶器の収集家としてグルーナー宅に派遣。ワトスンが陶器の話をし引きつけている間に、グルーナーの日記を盗み出します。ところがこのときにキティが出現。硫酸をグルーナーに浴びせ、美しい顔は焼けただれてしまいます。

結果としてさすがのヴァイオレットも日記を見て目を覚まし婚約は解消。人の噂など信ぴょう性が低い話よりも、動かぬ証拠がいちばん効果的ということでしょうか。

依頼人の正体

本作品最大の謎とされている高名な依頼人の正体は、当時のイギリス国王・エドワード7世だと言われています。根拠はワトスンが見た自家用馬車の紋章。金色のライオンや白いユニコーンが描かれた、イギリスの国章が見えたのだと思います。

エドワード7世の在位期間は1901年から1910年。ホームズとワトスンがトルコ風呂に入っていたのが1902年9月3日のことなので、エドワード7世の在位期間に当てはまります。

ほかの王族である可能性ですが、ド・メルヴィル将軍の親友ということで女性ではないでしょう。1902年の時点で亡くなっているエドワード7世の兄弟や子を除くと、残るは息子の次期国王ジョージ5世と弟のアーサー。当時ジョージ5世は37歳なので、ド・メルヴィル将軍がよぼよぼの老人という年齢を考えると除去。アーサーである可能性はゼロではありませんが、軍関係にいたためやはりエドワード7世である説が妥当だと思います。

ドラマについて

ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1991年に『高名の依頼人』というタイトルで本物語を放送しました。以下は原作との相違点です。

原作との相違点
  • ホームズがハドスン夫人に肉屋の息子(ジョンソン)への連絡を頼む
  • ワトスンが依頼人の正体を調べようとしてホームズに注意される
  • ジョンソンとキティが襲われる
  • キティがグルーナーに浴びせられた硫酸によりできた痕をヴァイオレットに見せる
  • ホームズがキティから女性の収集本についての話を聞くのが馬車の中
  • ワトスンがグルーナーの陶磁器クイズに少し正解する
  • グルーナーが硫酸を浴びてからホームズが女性の収集本を奪う
  • オークショット医師が出てこない

細かい変更点はあるものの、おおむね原作通り。ただ、ドラマではヴァイオレットとグルーナーがいっしょにいるシーンが多くなっています。また、キティに硫酸でやけどした痕がありました。おそらく、キティのグルーナーに対する恨みをより深いものにするための追加要素でしょう。

ワトスンが時間稼ぎでグルーナーが住んでいるヴァーノン・ロッジに訪れた際、陶磁器のクイズに二問正解します。結局正体はバレてしまいますが、「勉強の成果が発揮されて良かったなぁ」と微笑ましく思いました。

感想

自分にとって都合の悪いことは聞く耳を持たず信じたいものだけを信じる。人間が陥りがちな心理状態を、ホームズがどう解決していくのか楽しみに読み進めていました。結果としてはグルーナーの日記により状況を打開。つまり信じている相手に疑念を抱かせることが、一つのカギなのだと思います。

陶器の勉強むなしく、ワトスンが質問に答えられなかったのは可哀想だけど笑いました。やはり一日の勉強ではどうにもならない世界ということでしょう。ただ24時間勉強したおかげでホームズのための数分間を作ることに成功し、ヴァイオレットを救えました。いつもながら時間のつり合いがおかしいですが、ワトスンの献身的な働きがあってこそです。

正倉院や聖武天皇が、グルーナーがワトスンにした質問の中で登場します。イギリスではまだ有名でない知識をドイルが盛り込めたのは、友人のウィリアム・K・バートンから聞いた説が有力だとのこと。海外の作品に日本の文化などが登場するのは、やはり嬉しく感じます。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。

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