一年半待て(松本清張の小説)のあらすじ・ネタバレ結末・感想
松本清張の小説『一年半待て』。この物語は、一事不再理という刑法の条文からヒントを得た短編小説です。
そこでこのページでは、結末やタイトルの意味など本作品のネタバレ解説を行いました。一部ネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
登場人物
『一年半待て』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
須村さと子 | 生命保険会社の勧誘員 |
須村要吉 | さと子の夫 |
脇田静代 | さと子の友人、要吉の女 |
高森たき子 | 婦人評論家 |
岡島久男 | ダム建設工事場の技手 |
藤井 | さと子の同僚 |
あらすじ
女専を出て教養のある須村さと子が、夫・要吉の命を奪ったとして自首する。事情はこうである。
社員の人員整理に伴い解雇となった要吉の代わりに、さと子が生命保険会社の勧誘員となり外で働き始める。ダムの工事現場に目をつけ収入が増えたが、要吉はそれに合わせて怠惰になっていった。
外に女を作り、生活が困窮するほど浪費が激しくなり、さと子や2人の子供を傷つける。ある2月の夜、さと子はいつものように荒れ狂う要吉に樫の棒を打ち下ろし命を奪った。
世間はさと子に大いに同情し、なかでも評論家の高森たき子は多くの発言をした。高森は減刑嘆願書を提出し、特別弁護人にまでなった。
判決は「3年の懲役、2年間の執行猶予」。さと子は一審で服する。ところが岡島久男なる男が高森を訪ね、真実が違った様相を帯びてくる。
ネタバレ
それでは、本作品の結末およびタイトルの意味を解説いたします。
結末
結論から言ってしまうと、さと子が要吉の命を奪い、情状酌量で執行猶予となったのはすべて計画のうちでした。目的は未亡人となり、ダムの工事現場で知り合った岡島久男と一緒になるためです。
計画は次のように進められました。
- 最初の半年:夫婦の営みをせず要吉を飢餓状態に追い込む
- 次の半年:要吉に静代を求めさせて情状酌量の条件を作り命を奪う
- 最後の半年:裁判で執行猶予となる
計画はうまく運び晴れて執行猶予となったさと子でしたが、1つだけ誤算がありました。それは未亡人だと聞いていた岡島がさと子から逃げたこと。岡島はさと子の計画を確信。しかし一事不再理という条文から本人の不利になる再審は認められていないため、さと子の執行猶予は変わりませんでした。
一年半待ての意味
さと子が本当に未亡人になるまで岡島に待ってもらう期間。これが「一年半待て」というタイトルの意味です。
経済的に依存されていたさと子が自由になる唯一の方法は、要吉の命を奪うことのみ。そして執行猶予に必要な情状酌量の条件を整え裁判が終わるまでに一年半必要だと、さと子は考えたわけです。
感想・考察
嫌な気持ちで終わる話で恐ろしさを感じました。悲劇のヒロイン的なストーリーでも、見えているのは表面だけ。なんでもそうだと思いますが、心の底は本人だけにしかわからないものだと考えさせられます。
要吉という人間を熟知していたからこそ、さと子の計画は成功したと言えるでしょう。したがってさと子は、問題の一年半以前は要吉を本当に好きだったのではないかと思います。だからこそ要吉の性格を考えて操れた。ただ腹黒さを考えると、職に就いていた要吉に安定を求めた可能性もあります。
ゾッとしたのが、さと子が静代に抗議しなかったことと未亡人だと言っていたこと。ただしこの2点については、高森や岡島がそれぞれ理由をつけています。しかしこの理由もこじつけかもしれず、本当のところはわからないわけです。前者はともかく、後者はもしかしたら最初から別の男を狙ってのことかもしれません。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
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