魔術師(江戸川乱歩)のあらすじ・ネタバレ解説・感想

魔術師(江戸川乱歩)のあらすじ・ネタバレ解説・感想

江戸川乱歩の推理小説『魔術師』。この物語は、長年の復讐劇に明智小五郎の恋愛要素を絡めた、江戸川乱歩の「通俗もの」シリーズです。

そこでこのページでは、小説「魔術師」の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説する前に、最終的な人物相関図とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

最終的な人物相関図

最終的な人物相関図をまとめると次のようになります。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

相関図

あらすじ

◆ 謎の用紙

玉村宝石商社長である善太郎の弟・福田得二郎のもとに、毎日奇妙な用紙が届くようになる。用紙には最初に「十一月二十日」、以降は数字だけが書かれており、一日ずつ減っていった。

日に日に不安になっていった得二郎は、玉村家や警察に相談して厳戒態勢を敷く。しかしその甲斐虚しく、得二郎は密室の中、首なしの状態で発見された。

◆ 奇術団

玉村家の人々はその後も何度か命を狙われる。幸い命を落とさなかったのは、掃除人に扮した明智がギリギリのところで救ってくれたからだった。

二郎の婚約者・花園洋子が行方不明の中、玉村家を狙う賊が興行している奇術団を発見。賊の娘である文代の協力もあり追い詰めるが、妙子を人質に取られ逃げられてしまう。

◆ 黒幕の正体

一ヵ月間何事もない日々が続いていたが、ついに賊が始動。玉村家の四人を呼び出し、地下に監禁して水攻めしたのである。

賊の首領は奥村源造と言い、玉村家は亡き父の仇。ようやく使命を果たしたかと思いきや、文代から話を聞いた明智に救助され、復讐は失敗に終わる。

◆ もう一人の黒幕

明智に追い詰められて源造が自ら命を絶った二ヵ月後、得二郎と同じような手口で善太郎が絶命。手を下したのは、なんと娘であるはずの妙子だった。

妙子は源造の実の娘であり、生まれて間もなく文代と取り換えられていた。そして引き取った子供・進一に教育を施し、結託して亡き者にしたのである。

解説

それでは、解説に移ります。

黒幕と動機

玉村一家全員を亡き者にしようとした黒幕は、得意先として宝石商に接触していた奥村源造(牛原耕造)でした。動機は幸右衛門に生き埋めにされて命を落とした父・源次郎の復讐。源次郎の遺書によってすべてを知った源造が、父の意志を継ぎ計画を企てました。

実際に得二郎と善太郎の命を奪ったのは玉村妙子です。妙子は玉村家の本当の娘ではなく源造の子で、同じ時期に生まれた文代と入れ替えられていました。大きくなってから源造によって真実を教えられ、一家の復讐に手を貸したのです。

真相がわかってしまうと、妙子の予言も納得がいきます。

今にもわたくしたち一家の者が、何かの恐ろしい餌食になるような、そんな気持ですのよ

出典元:講談社『魔術師(美しき友)』江戸川乱歩

自分が実行しているのだから、的中するのは当たり前です。

密室の謎

得二郎と善太郎が手を下された方法はほぼ同じで、次のような状況でした。

  • 横笛の音が聞こえる
  • 花が撒いてある
  • 血の付いた大きな手型
  • ドアも窓も戸締りは完璧
  • 外で怪しい人物は目撃されていない

1つ目と2つ目は恐怖の演出。明智はこの演出を女性的な感傷と表現しました。3つ目は恐怖とともに、「密室から大男が出られるわけがない」という効果も持ち合わせているでしょう。

問題はどうやって密室の中を出入りしたか。方法は至って単純で、以下の手順で出入りが行われました。

密室を完成させた手順
  1. 妙子と進一が普通に部屋に入る
  2. 命を奪う
  3. 花を撒き笛を奏でる
  4. 妙子は進一に部屋のカギを渡して普通に部屋を出る
  5. 進一は部屋のカギを閉める
  6. ドアの上の回転窓から外に出る

つまり、皆が駆けつける直前まで部屋にいたことになります。真っ先に疑われるべき存在ですが、証言がないので誰にも見られないよう出入りしたのでしょう。得二郎と善太郎が部屋に入れたのも、「家族だから何の疑いもなかった」と明智は述べています。

回転窓の存在は最後まで触れられていません。したがって少しズルいかなという気もしますが、作中の時代でのお邸には当たり前だったのでしょうか。もし存在を知っていたら進一が疑われるのは間違いないので、敢えて伏せていた可能性もありますが…。

感想

前作同様、ミステリーというよりは冒険譚だと感じました。密室には興味を惹かれましたが真相は単純でしたし、早く遺体を発見させなくても良いので、笛を奏でる必要性もありません(むしろ危険が伴う)。「次にどんな攻防が繰り広げられるのか」と考えながら読んだ方が、楽しめるのではないかと思います。

「血のつながり」は今までの人生を覆すほどの力を持っているのでしょうか。妙子は玉村家での生活も何不自由なく暮らしていたことですし、恨みもまったくなかったはず。先祖のことを偲び狂気に駆られる可能性も否定はできませんが、自分だったら「そんなの急に言われても…」と思ってしまいそうです。

この作品で登場した文代が明智にどのような影響を与えていくのか。次作はこの部分が一つの楽しみです。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。