猟人荘の怪事件(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アガサ・クリスティーのポアロシリーズ『狩人荘の怪事件(猟人荘の怪事件)』。この物語は、インフルエンザで寝込んでいるポアロの代わりにヘイスティングスが捜査する、『ポアロ登場』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、真相など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
本物語の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
エルキュール・ポアロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポアロの友人 |
ロジャー・ヘイヴァリング | 第五代ウィンザー男爵の次男 |
ゾーイ・ヘイヴァリング | ロジャーの妻 |
ハリントン・ペイス | ロジャーの叔父 |
ミセス・ミドルトン | 狩人荘の家政婦 |
ジェームス・ジャップ | スコットランドヤードの主任警部 |
あらすじ
ポアロが患ったインフルエンザも快方に向かい出したころ、ロジャー・ヘイヴァリングという紳士が訪ねてくる。大の親友でもある伯父のハリントン・ペイスが、ダービーシャーの狩人荘でむごたらしく命を奪われたというのだ。
家政婦とゾーイ・ヘイヴァリングの話によると、アメリカ人の男が訪ねてきて口論の末にハリントンを撃ち逃走。電報で詳細な報告とポアロから指示を受けることにし、ヘイスティングスが代わりに捜査を始める。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
黒幕とトリック
ハリントンの命を奪ったのはヘイヴァリング夫妻でした。動機はハリントンが亡くなったことで手に入る多額の遺産。破産寸前だったロジャーはその遺産を手に入れるため、ゾーイと協力して凶行に及んでいました。
直接手を下したのはゾーイの役割。使用した二挺セットの片方の銃は弾を込め直し壁に戻しておきます。そして女優だった経験を生かしてミドルトンという家政婦に変装。自身と家政婦の二人で警察に証言することにより、自分のアリバイを確実にし、かついもしない男の存在をでっち上げたわけです。
一方のロジャーは疑われないようにするため、まずロンドンのクラブへ行きアリバイを確保。すかさずクラブを抜け出して、一発どこかで撃っておいたもう片方の銃をイーリングに捨てます。これでゾーイがでっち上げた男が、イーリングまで逃げてきたと見せかけたのです。
本当に立証できなかったのか
結局ヘイヴァリング夫妻がやったという立証ができず、遺産は二人の手に渡ってしまいました。では本当に立証ができなかったのか。この点について考えてみたいと思います。
まずはロジャーのアリバイ。クラブからイーリングまでは片道20分とポアロが話しているので、少なくとも往復40分は空白の時間がありアリバイは崩れます。しかし仮に目撃情報などが出ても、イーリングにいたことが証明されるだけ。銃を捨てた行動は怪しいですが、狩人荘にいるハリントンを亡き者にすることは時間的に不可能です。
したがって凶行を立証するには、ゾーイとミドルトンが同一人物であることを証明しなければならないでしょう。ミドルトンを捕まえられればいちばん良かったのですが時すでに遅し。いなくなってしまった人物を、残ったものだけでゾーイだと証明しなければならなくなりました。
今ならDNA型鑑定で残った衣服などから証明できると思いますが、この時代はそんなものありません。よって二人が同一人物だと立証することは、やはり難しいのではないかと思います。強いて挙げれば、ミドルトンが三週間狩人荘にいたはずの痕跡がないことの証明でしょうか。
ドラマについて
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1991年に『猟人荘の怪事件』というタイトルで本物語を放送しました。以下は原作との主な相違点です。
- 登場人物が多い
- 偽装工作が複雑になっている
- ヘイスティングスが猟に参加する
- ポアロが風邪を引いているにもかかわらず結構動き回る
- 本物のミドルトンが現れる
- 結末
物語は原作に則っているものの、多くの追加・変更点があります。まずは登場人物。アーチー(ペイスの甥)や猟番のストッダード(実はペイスの腹違いの弟)などを新しく作り、ペイスに恨みを持つ人物を多く登場させました。
偽装工作も少し複雑化。原作では顎髭の人物はゾーイの証言の中だけでしたが、ドラマでは実際に第三者に目撃されるよう仕組まれています。その際に顎髭を付けたゾーイが盗んだのが駅員の自転車。ポアロは駅員に探すよう依頼され見つけはしますが、汚すぎてまったく感謝されませんでした。
結末もロジャーとゾーイの逮捕に変更となっています。原作では証拠があがらず放免となり、後日飛行機が落ちて二人は命を落とすという結末でした。逮捕に貢献したのがストッダードの犬。自転車や変装道具も発見しましたし、ゾーイを匂いで嗅ぎ当てる大活躍ぶりを見せました。
感想
複数の人間の話は、やはりアリバイや証言に真実味を出すんだなと思いました。ただ一人二役をする場合、ずっと演じなければならないこと、姿を消したら絶対に怪しまれるということが難点。だからもう一挺の銃をイーリングに捨て、一刻も早く警察の目を外に向けたかったのでしょう。
しかしなんでポアロに相談しちゃったのかがわかりません。警察の目(ついでにヘイスティングスも)は完全に自分たちの思惑通り外に向いていたのにです。思い付く理由としては、ポアロの頭脳を利用して早く計画線上に乗せたかったことくらいでしょうか。
何気にポアロの電報の小言が楽しい作品でもあります。インフルエンザで寝ていましたが、元気になってきた表れなのでしょう。さらにヘイスティングスがその小言を、捜査に参加できない妬みだと勘ぐっているのもまた笑えます。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のポアロ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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