戦勝舞踏会事件(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

戦勝舞踏会事件(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

アガサ・クリスティーのポアロシリーズ『戦勝記念舞踏会事件』。この物語は、戦勝を記念する舞踏会で貴族が亡くなりその婚約者も命を落とす、『教会で死んだ男』に収録されている短編小説です。

そこでこのページでは、真相など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

登場人物

本物語の登場人物は以下です。

登場人物名 説明
エルキュール・ポアロ 私立探偵
アーサー・ヘイスティングス ポアロの友人
クロンショー卿 クロンショー家の五代目当主
ココ・コートニー クロンショー卿の婚約者
ユースタス・ベルテイン クロンショー卿の伯父
ミセス・マラビー アメリカの未亡人
クリス・デイビッドソン 若い俳優
デイビッドソン夫人 クリスの妻
ディグビー 大尉
ジェームス・ジャップ スコットランドヤードの主任警部

あらすじ

ロンドンで開催された仮装を楽しむ戦勝記念舞踏会で、子爵のクロンショー卿が命を奪われる。偶然の一致なのか、同日に婚約者のココ・コートニーも帰宅してすぐに命を落としていた。

クロンショー卿はコートニーと激しく口論したためか夕食後ずっと姿を見せなかったが、舞踏会が終わりになる頃に目撃されその10分後に遺体で発見。手には小さな玉ふさが握られており、なぜか四肢に硬直が見られたという。

解説と考察

それでは本物語の解説と考察に移ります。

黒幕とトリック

クロンショー卿の命を奪ったのはクリス・デイビッドソンでした。動機は白い粉を売っていることがバレてしまったから。ココ・コートニーをも亡き者にしたのは、クロンショー卿の命を奪ったのが自分だと結び付けられてしまうがゆえの口封じでしょう。

デイビッドソンは舞踏会の夜、次の行動をとっていました。

  1. 夕食後にクロンショー卿の命を奪う
  2. 遺体を食堂のカーテンの陰に隠す
  3. ココをアパートまで送り届ける
  4. 自宅に帰ったふりをして会場に戻る
  5. クロンショー卿の仮装姿(アルルカン)で目撃される
  6. 隠しておいた遺体を出して帰宅する

これでクロンショー卿は目撃されたときまで生きていることになり、自身は家にいたという鉄壁のアリバイを手にしたわけです。ところが命を奪ってから遺体を登場させるまでに、どうしても差が出てしまいます。その時間差によって現れたのが四肢の硬直でした。

また、クロンショー卿が握っていた玉ふさはピエロの衣裳のもの。おそらくデイビッドソンともみ合った際にもぎ取ったのでしょう。玉ふさがないことに気づいたデイビッドソン夫人は、自分が着ていたピエロットの衣裳から切断。あっさり切り口でポアロに見破られてしまいますが、デイビッドソン夫人も協力者だったことの証です。

コンメディア・デッラルテ

クロンショー卿たち六人は、コンメディア・デッラルテの衣裳で戦勝舞踏会に出席しました。コンメディア・デッラルテとは、イタリア発祥の即興舞台の形態の一つ。特徴的な仮面や服を身に着けた登場人物(ストック・キャラクターと呼ぶ)で演じられるのが特徴です。

六人は次のストック・キャラクターに仮装しました(括弧内は別名です)。

  • クロンショー卿:アルルカン(アルレッキーノ、ハーレクイン)
  • ユースタス・ベルテイン:パンチネロ
  • ミセス・マラビー:プルチネッラ
  • クリス・デイビッドソン:ピエロ
  • デイビッドソン夫人:ピエレット
  • ココ・コートニー:コロンビーナ

デイビッドソンはピエロの下に着こんでいたアルルカンに早変わり。アルルカンの衣裳を見てもらえれば、上に何かを着てもほとんど膨らみが出ないことがわかると思います。

ちなみに舞踏会では劇は関係なく、ベルテインのコレクションであったキャラクターに仮装したに過ぎません。ただしデイビッドソンだけはある意味、一人二役の凶行を演じたことになるでしょう。

ドラマについて

デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1991年に『戦勝舞踏会事件』というタイトルで本物語を放送しました。以下は原作との主な相違点です。

原作との相違点
  • 連続推理ドラマにココが出演している
  • ポワロとヘイスティングスも舞踏会に参加
  • マラビー夫人がクロンショー卿(実際はクリス)に声をかける
  • ロウイストフトと書かれたメモが見つかる
  • デイビッドソン夫人が衣裳を洗濯に出したと噓をつく
  • ポワロがラジオで真相を語る

物語は原作に則っているものの、いくつか変更・追加点があります。大きいところでは、ポワロとヘイスティングスが舞踏会に参加していること。そしてその場にいたにもかかわらず悲劇を未然に防げなかったため、しくじったと大々的に報道されてしまいます。

名誉を挽回するため、ポワロはラジオ番組に出演。仮装を用いたトリックを語り、ロウイストフトと書いたときの利き手を証拠に見事クリスの逮捕に成功します。しかし鮮やかな手法で賛辞が送られるかと思いきや、ひっきりなしに鳴ったラジオ局の電話は英語の訛りがひどいという苦情でした。

ヘイスティングスが仮装したのはナポレオンで、ポワロも恐れ入ると言ったほど。舞踏会ではダンスの名人とポワロに持ちあげられマラビー夫人と踊るところまでこぎ着けますが、あっさりフラれてしまいます。

感想

衣裳の特徴と急所を突き刺す力により黒幕を一本に絞れる様が面白かったです。しかしなぜベルテインが持っていたコレクションがあの六体だったのか。ほかにも様々なストック・キャラクターがいる中で、なぜ脇役っぽいピエロとピエレットをチョイスしていたのかは少し謎です。

デイビッドソンはココの命を奪ってしまいましたが、言いくるめる方法もあったのではないかと思います。なぜなら明らかに金づるですし、取り上げれば激怒するほどの執着ぶりだったからです。さすがに婚約までしていた男の命を奪ったら、逆にゆすられる恐れもあり口止めするのは大変だとでも考えたのでしょうか。

ポアロがショーを開いたのは、翌週の火曜日だと書かれています。つまりジャップが相談に来たのが遅くとも土曜日だとして、少なくとも三日後の開催だったということです。逃げる心配はないと踏んでのことでしょうが、少し悠長な気がしなくもありません。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。