二重の罪(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

二重の罪(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

アガサ・クリスティーのポアロシリーズ『二重の罪』。この物語は、バスツアー中に盗まれた細密画の行方を追う、『教会で死んだ男』に収録されている短編小説です。

そこでこのページでは、結末など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

登場人物

本物語の登場人物は以下です。

登場人物名 説明
エルキュール・ポアロ 私立探偵
アーサー・ヘイスティングス ポアロの友人
メアリー・デュラント エリザベス・ペンの姪
エリザベス・ペン 古美術品店の経営者
J・ベイカー・ウッド 細密画の鑑定家
ノートン・ケイン 観光バスの同乗者
ジョゼフ・アーロンズ 芸能プロダクションの経営者

あらすじ

節倹の精神、芸術家肌、好奇心の塊という性格のせいで、ポアロが過労の状態になってしまう。ヘイスティングスは休暇をとらせるためポアロを保養地に連れて行ったが、四日目に面倒ごとに巻き込まれた友人のもとに行くこととなった。

ポアロがまったく気乗りしない観光バスでの移動中、貴重な細密画を運んでいるというメアリー・デュラントと一緒になる。会ったばかりの自分らにそんな大事な話をしてポアロは不安に思ったが、案の定ホテルに着くと細密画が盗まれたと駆け込んできた。

解説と考察

それでは本物語の解説と考察に移ります。

細密画の行方

盗まれたというのは偽装で、メアリーは最初から細密画を持っていませんでした。すべてはエリザベスとメアリーの計画で、盗まれたことにしておけばベイカー・ウッドに売ってもいずれ自分たちのもとに戻ってきます。それをさらに売って、一つの細密画で二倍儲けようと目論んでのことでした。

以下は観光バスと列車の出発と到着時刻に出来事を書き足した図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

バスと列車の発着時刻

エリザベスは変装し、細密画を持って列車で移動。観光バスがチャーロック・ベイに着く前に、ベイカー・ウッドに細密画を売ります。そうすることでメアリーが持っていた細密画は、バスが昼食時に停まったモンカンプトンで盗まれたとみせかけられるわけです。

盗んだ人物に仕立て上げようとしたのがノートン・ケイン。バスの営業所でノートンが途中のモンカンプトンで降りることを知り、メアリーが目を付けたのでしょう。エリザベスもノートンに似せて、口ひげなどを付け変装しました。まさに責任をなすりつけるのにうってつけの人物と言えますが、ノートンからしたらまったく関係のないことに巻き込まれたのでたまったものじゃなかったでしょう。

こじ開けられたアタッシュケース

エリザベスとメアリーは、細密画が入っていたことにしたワニ皮のアタッシュケースを強引にこじ開けた状態にしておきました。これはメアリーがホテルに着いたときに気づいたよう装うため。つまりこじ開けられたのが、バスが休憩していたモンカンプトンであると絞らせたかったからです。

ただ、ポアロの指摘通りこじ開けた状態のアタッシュケースが残っているのは不自然。なぜなら誰かが他人のスーツケースを自分のものとして取り出せても、こじ開けているところを見られたらさすがに怪しまれるからです。ましてやモンカンプトンは大型バスが20台も停まっていたほど、人で溢れていました。

したがってアタッシュケースごと紛失していた方が自然です。それだけでもメアリーがホテルに着いたときに騒げば、モンカンプトンでなくなったと十分に思わせられます。こじ開けたのは盗まれたことを強調するためでしょうが、少しあからさま過ぎて逆に違和感となってしまいました。

ドラマについて

デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1990年に本物語を放送しました。以下は原作との主な相違点です。

原作との相違点
  • ポアロが引退すると言い出す
  • 旅先が異なる
  • ジャップが講演会で同じ地にいる
  • バス旅行をするのが友人に会うためではない
  • 細密画の価値が1500ポンド
  • ポアロが細密画探しをしないのでヘイスティングスが躍起になって動く
  • ヘイスティングスが強引に開けられたケースに疑問を持つ
  • 細密画が警察に押収される
  • ノートンとアマンダが駆け落ちしようとしたときにヘイスティングスらが追っかける
  • 魚料理で灰色の脳細胞が活性化したヘイスティングスがウッドを疑う
  • 解決の場がレストラン
  • レモンがカギを失くして焦っている

ストーリーは原作に則ってはいるものの、多くの追加・変更点があります。まず違うのが旅行先。原作では南海岸(エバーマス、モンカンプトン、チャーロック・ベイ)ですが、ドラマでは北部(ウィトコーム、レッドバーン、ウィンダミア)になっています。

なんとポアロの旅行の目的は、この地で開催されたジャップ主任警部講演会でした。ジャップは最初私立探偵をめちゃくちゃにけなしていたものの、例外としてポアロを大絶賛。夜な夜なこっそり聴きに来たポアロは感銘を受け、翌朝は大変ご機嫌でした。

解決の場もペンの古美術品店からレストランに変わっています。ペンが細密画が売りに来たこともウッドを呼ぶことにより判明。それまでとんちんかんな捜査をしていたヘイスティングスは、完全なるピエロでした。

感想

二つの移動手段を用いた、時刻表を使ったトリックで面白かったです。そのためか文中には時刻の表記がいつもより多く感じられました。少し気になったのは、計画通り細密画が戻って来たのはいいとして、ベイカー・ウッドは500ポンドも払って購入したのだから絶対揉めるだろうということです。

計画そのものもなかなかうまいものでしたが、何気に重要な要素だったのがメアリーの世間知らずなところ。メアリーがそういう振る舞いをしたからこそ、周りに自分が高価な品を持っていることを知らしめる効果がありました。しかし実際は計画を大胆にやってのけたのだから、したたかな女性だったのかもしれません。

ポアロとヘイスティングスの抜け作二人が網にかかったとき、メアリーは「しめた」と思ったでしょう。対するヘイスティングスはメアリーの美貌に惹かれ、ポアロが買おうとしていた座席を強引に変更しました。物語の中だからまだいいようなものの、実際にそんなことされたら怖いです。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。