ウィステリア荘(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『ウィステリア荘』。この物語は、ウィステリア荘にいた全員が突然姿を消した謎を追う、『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、真相など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『ウィステリア荘』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
シャーロック・ホームズ | 私立探偵 |
ジョン・H・ワトスン | 医師 |
ジョン・スコット・エクルズ | ポッパム荘の主 |
アロイシャス・ガルシア | ウィステリア荘の主 |
ヘンダースン | ハイ・ゲイブル荘の主 |
ルーカス | ヘンダースンの秘書 |
ミス・バーネット | ヘンダースンの子どもの家庭教師 |
ジョン・ウォーナー | ハイ・ゲイブル荘の元庭師 |
ベインズ | サリー州警察の警部 |
ウォルターズ | 巡査 |
トバイアス・グレグスン | スコットランドヤードの警部 |
ハドスン夫人 | ベーカー街のアパートの女主人 |
あらすじ
途方もなくグロテスクな体験の相談をするため、スコット・エクルズがベーカー街のアパートに駆け込んでくる。最近親しくなったアロイシャス・ガルシアが住むウィステリア荘に泊まった翌朝、家主含む全員が忽然と姿と消していたというのだ。
さらにガルシアはエクルズが話しかけられたと証言する夜中の1時頃に、砂袋のようなもので頭を割られ絶命。警察がウィステリア荘を調べると、差出人Dからの何かを合図する手紙が暖炉で燃えないまま発見された。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
真相
本作品の主な謎は次の三つです。
- ウィステリア荘の住人が姿を消した理由
- ガルシアを亡き者にした人物
- ウォルターズが見た人物の正体と目的
ひとつひとつ見ていきましょう。
◆ ウィステリア荘の住人が姿を消した理由
夜中の内にウィステリア荘に住む全員がいなくなった理由は、ヘンダースンことドン・ムリーリョの制裁に向かったからでした。「サン・ペドロの虎」の異名を持つムリーリョはかつて独裁者として国を統治しており、ガルシアもそこの住人。反乱をいち早く察したムリーリョは逃げて各国を転々としていましたが、ついに見つかり制裁を加えられようとしていました。
アリバイ工作に利用されたのがスコット・エクルズです。見るからに善良な市民であるエクルズは、アリバイの証明にはうってつけの人物。ガルシアはエクルズに噓の時間(1時)を伝え、復讐を遂げたときのアリバイを確保しようとしていました。
◆ ガルシアを亡き者にした人物
復讐に向かったガルシアですが、逆に先回りされムリーリョに命を奪われてしまいます。出し抜かれてしまったのは、指示役であったミス・バーネット(本名はシニョーラ・ヴィクトル・ドゥランド)の正体がバレてしまったため。計画通り指示の手紙でGOサインを出され、ガルシアがウィステリア荘へ向かっているところで襲われてしまいました。
ミス・バーネットが送った手紙の内容と意味は以下の通りです。
手紙の内容 | 意味 |
---|---|
われらが色、緑と白 | サン・ペドロの国旗 |
緑は開、白は閉 | 合図 |
中央階段、第一の廊下、右七番目、緑のべーズ布 | ムリーリョの居場所 |
居場所を教えたのは、警戒心の強いムリーリョが毎日寝床を変えていたため。
手紙の中の文章はバーネットの字でしたが、表書きは筆跡が違いました。加えて封止めの跡がカフスだということにガルシアが気付いていれば、命を奪われることはなかったかもしれません。
◆ ウォルターズが見た人物の正体と目的
ウォルターズが見た不気味な人物の正体は、ウィステリア荘の料理人でした。目的は台所にあった奇怪な動物を取り戻すこと。熱心なブードゥー教信者だった料理人が神の怒りに触れぬよう起こした、メインの謎とはまったくと言っていいほど関係ない個人的な行動でした。
ベインズ警部の捜査
ベインズ警部は彼ならではの流儀に従い、ホームズと同じ結論にたどり着きました。その手腕はホームズをも欺かせ、「きっと成功する」と言わせるほど。ホームズも使いますが、マスコミを利用した鮮やかな手法でムリーリョを逮捕しようとしていました。
ベインズ警部の手腕が最初に発揮されたのが、暖炉から発見した手紙についての次の見解です。
- 透かし模様がない
- どこにでもあるクリーム色の紙
- 大きさは四つ折り半
- 刃の短いはさみで二回切り離した跡
- 三つ折りにして封筒に入れた
- 紫色のロウを垂らした上に楕円形の平たい印璽を押しあてた
- 文面は女性の筆跡
- 細くとがったペンを使用
- 表書きは違うペンを使ったか別の人が書いた
ホームズが述べている探偵に必要な資質は「観察力」「推理力」「知識」の三つ。これらのうち観察力と推理力は、ベインズ警部の話から明らかに見て取れます。ホームズが指摘したカフスと爪切り用のはさみのような知識は、努力を怠らなければ見抜けるようになるでしょう。
したがってベインズ警部は、謎を解決に導く素質が十分備わっていると言えます。ちょっと気になるのは出世欲が強い傾向にあること。自分の実力でどうにかしようと考えているので大丈夫だと思いますが(ときにはあだになるかも)、障壁にならないことを祈るばかりです。
ドラマについて
ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1988年に本物語を放送しました。以下は原作との相違点です。
- エクルズの趣味が地図
- グレグスンとベインズがベーカー街のアパートに来ない
- ウィステリア荘にいた料理人が戻って来たときワトスンに目撃される
- ワトスンが単独でハイ・ゲイブル荘へ行き窓のところにいるバーネットを見つける
- ホームズとワトスンが見ている前で料理人が捕まる
- ホームズとワトスンが馬車に乗せられているバーネットを目撃する
- 法律の力を信じているのがベインズではなくワトスン
- ムリーリョらが撃たれるのが電車の中
- 料理人がウィステリア荘にわざわざ戻って来た理由が語られない
大筋は原作と同じですが、多くの部分で変更が加えられています。例えばグレグスンが登場しません。ベインズの登場はホームズたちがウィステリア荘を訪れたときとなり、ダウニングという巡査を連れてやってきます(巡査の名は原作ではウォルターズ)。
ワトスンが単独でハイ・ゲイブル荘へ行くのも大きな変更点の一つ。茂みに隠れているときバーネットを目撃しますが、ワトスンは子どもたちに捕まってしまいます。幸いホームズが居合わせてくれたため助かり、ヘンダースンと対面。バーネットの救助を含めホームズと元使用人のウォーナーで担われていた部分が、ワトスンがたぶんに絡む内容に変更となっています。
また、最後まで料理人(ヒギンズ)がウィステリア荘に戻って来た訳が語られませんでした。原作での理由は、ブードゥー教の儀式。「時代にそぐわない」というのがカットされた理由だそうですが、作品中もっともグロテスクな表現を避ける意味もあったのだと思います。
感想
いちばん印象に残っているのがベインズ警部のキャラです。ホームズも感嘆するほどの能力はもちろん、独自の道を進む姿は初々しささえ感じていました。正直捜査能力については、スコットランドヤードに所属するレストレードやグレグスンよりすでに上ではないでしょうか。
ガルシアが受け取った手紙の内容やアリバイ工作から、ホームズが目的地などを見抜いたのも鮮やかでした。大きな家で誰かと落ち合い、距離はウィステリア荘から1~2マイル程度。言われてみれば確かに納得ですが、手腕と言いページ数と言い鮮やか過ぎです。
最初に抜きんでた文才の持ち主・ワトスンに、ホームズはグロテスクの意味を尋ねています。文才部分を即否定するホームズの姿はいつもながら。しかし過去には「読者にはずいぶんと辛抱を強いてきた」なんて言われたらムッとしていたワトスンも、今となってはもはや動じません。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
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