緋色の研究(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

緋色の研究(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

アーサー・コナン・ドイルの長編小説『緋色の研究』。この物語は、ホームズがワトスンと出会い、初めて大きな謎を解明した、シャーロックホームズシリーズの第一弾です。

そこでこのページでは、「人物相関図」と「現場検証からわかったこと」を確認しながら、本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説の前に、最終的な人物相関図あらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

最終的な人物相関図

以下は、『緋色の研究』の最終的な人物相関図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

相関図

あらすじ

◆ ワトスン、ホームズと出会う

戦地でケガと腸チフスに罹ったワトスンは、医局の命令によりアフガニスタンから帰還しロンドンに滞在。無為怠惰な暮らしを送っていたが、脱却するために生活の改善を思い立つ。

手始めに下宿先を探していると、昔助手をしてくれていたスタンフォードから、タイミングよく同居人を必要としていたシャーロック・ホームズを紹介してもらう。こうしてホームズとワトスンの、運命的ともいえる共同生活が始まったのである。

◆ ロウリストン・ガーデン事件

ワトスンがホームズの分析力に大いに感心していると、「ロウリストン・ガーデンで息絶えた紳士が発見された」という手紙が届く。名前はイナック・J・ドレッバーといい、恐ろしく苦悶の表情を浮かべて最期を迎えていた。

独特な捜査と聞き込みにより、ホームズは黒幕が現場近くにいた馭者だと断定。ドレッバーの秘書であるジョゼフ・スタンガスンも命を奪われてしまうが、浮浪児の少年の協力でジェファスン・ホープをおびき寄せ逮捕してみせる。

◆ ファリア親子

なぜジェファスン・ホープはドレッバーとスタンガスンを亡き者にしたのか。理由は過去に遡らなければならない。

北アメリカ中部の砂漠の中、飢えと渇きで生を諦めようとしていたジョン・ファリアと5歳のルーシイは、偶然通りかかった大集団に命を救われる。彼らが信仰する、モルモン教の信徒となることを条件として。

永住の地で得た農場でジョンは成功し、娘同然に育ったルーシイも美しい女性に成長。愛する男性もできていたが、その相手こそ、当時カリフォルニアの地方開発に着手していたジェファスン・ホープだったのである。

◆ 命がけの逃亡

二人は相思相愛でジョンも仲を認めていたが、異教徒との結婚はモルモン教の掟に背くことだった。意を決した三人は逃亡を図るも、ジェファスン・ホープが目を離した隙にジョンは亡き者にされルーシイは捕らえられてしまう。

長老の息子・ドレッバーと強制的に結婚させられたルーシイは、衰弱してそのまま落命。こうしてドレッバーとジョンの命を奪ったスタンガスンに、ジェファスン・ホープは復讐を誓ったのである。

解説と考察

それでは、本物語の解説と考察に移ります。

現場検証からわかったこと

ホームズは「徹底した現場検証」と「過去の事例をもとにした知識」により、すべてを解き明かしてしまいました。これは「アブダクション(abduction)」と呼ばれ、ホームズが得意とする推理法です。

現場検証で判明したこととその根拠を一覧にすると以下の表のようになります。

1フィート=30.48メートル

判明したこと 根拠
身長6フィート以上の男 残っていた足跡の歩幅
壮年 4フィート半の水たまりを乗り越えていた
足が小さく先の角ばった靴を履いている 泥濘と室内に残っていた足跡
右の前脚だけ新しい辻馬車で来た 車輪の跡
インド産のトリチノポリ葉巻を吸う 床に落ちていた灰
赤ら顔 大量の鼻血
右手の爪が長い 壁土に残る引っ掻いた痕
息絶えた原因 臭い

特筆すべきは足跡でしょう。ホームズ自身も「足跡の研究くらい大切なものはない」と言っているほど、多くのことを指し示しています。

次の式は、歩幅と身長の関係(目安)です。

歩幅と身長の関係

歩幅 = 身長 × 0.45

ホームズが示した身長は6フィート以上。これをおおよそ180センチメートルとして式に当てはめると、歩幅は約80センチメートルだったことになります。

葉巻や息絶えた原因については豊富な知識から導き出されたもので、辻馬車の跡や爪の長さは現場を見れば明らか。赤ら顔については「いささか大胆だった」と振り返っていますが、鼻血の量から多血質であるとしっかりと理論づけられたものでした。

「緋色の研究」の意味

まず、ホームズが「緋色の研究」についてした発言を以下に記載いたします。

人生という無色の糸桛には、殺人というまっ赤な糸がまざって巻きこまれている。それを解きほぐして分離し、端から端まで一インチきざみに明るみへさらけだして見せるのが、僕らの任務なんだ。

出典元:新潮文庫『緋色の研究(第四章:ジョン・ランスの証言)』コナン・ドイル/延原謙訳

この文章から、「緋色の研究」は「事件の調査」と解釈して良いでしょう。ではなぜこんな表現をしたのか。個人的な解釈ですが、「ホームズにとって謎は芸術と等価」だからだと思います。ほかの人はそうとは限らないのに人生を無色と決めつけちゃっているあたりは、ホームズらしいと言わざるを得ません。

なお、原題に入っている「study」は、美術の世界で「研究」ではなく「習作」と訳されるのが一般的だそうです。きっかけは延原謙さんがいちばん最初に「研究」と訳したこと。その後議論が交わされましたが、日本で定着していること、探偵小説の題名として「習作」よりも優れていることなどから、今でも「緋色の研究」で通っています。

感想

数々の名言を残しているホームズですが、本作では次の考えが印象的でした。

データがない。証拠材料がすっかり集まらないうちから、推理を始めるのはたいへんな間違いだよ。判断がかたよるからね

出典元:新潮文庫『緋色の研究(第三章:ロウリストン・ガーデン事件)』コナン・ドイル/延原謙訳

先入観は真実を見極めるうえでジャマになる。捜査をするうえで真っ白な状態から始めることがいかに大事かを表しています。

この考えは推理だけに当てはまることではありません。例えば、ほかの人の意見に左右されたり、想像を巡らせたがために大事なものを見失ってしまうことがあるのではないでしょうか(良い場合もありますけどね)。真実を知るための一つの引き出しとして、先入観を捨て去る方法もあると知っておくことは大事だと思います。

また、ホームズの推理だけではなく、ジェファスン・ホープが復讐するに至った経緯にページの約半分を割いているのも面白くしている要因だと感じました。「なぜこんなことをしたのか」。この人間的なストーリーがしっかりしていることで感情移入ができ、作品により深みを与えていると思います。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。

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