スズメバチの巣(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アガサ・クリスティーのポアロシリーズ『スズメ蜂の巣』。この物語は、ポアロがまだ起こっていない悲劇を未然に防ごうと知り合いの家を訪れる、『教会で死んだ男』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、結末など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『スズメ蜂の巣』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
エルキュール・ポアロ | 私立探偵 |
ジョン・ハリソン | ポアロの知り合い |
モリー・ディーン | ハリソンの婚約者 |
クロード・ラングトン | モリーの元婚約者 |
あらすじ
ジョン・ハリソンが大好きな庭を眺めていると、突然ポアロが訪ねてくる。これから起こるであろう悲劇を未然に防ぐため、ハリソンに協力を求めに来たのだった。
クロード・ラングトンがスズメバチの巣を撤去するために青酸カリを購入したのが、ポアロが悲劇が起こると思ったきっかけ。ラングトンはハリソンの婚約者のモリー・ディーンに捨てられた過去があり、人間はいざというときまで憎悪を心の中に隠しておけるという。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
結末
ポアロが止めようとしていたのは、ラングトンではなくハリソンの凶行でした。以下は、ハリソンが考えていた計画です。
- ラングトンにスズメバチの巣の撤去を頼む
- 青酸カリを買わせる
- いっしょにいるときに青酸カリで命を落とす
- ハリソンの命を奪ったとしてラングトンは絞首刑となる
ラングトンが婚約者のモリーと陰で復縁していたのが動機。そして命を張ってまで貶めようと思ったのは、生きられる時間があと二ヵ月だと言い渡されたからでした。最期に自分の命を使い、愛する人を奪った憎悪をぶつけようとしたわけです。
ポアロはラングトンの青酸カリの購入と病院から出てくるハリソンの深刻な顔を見て、何かよからぬことが起ころうとしていると悟ります。かまをかけた結果、噓をついているハリソンの凶行だと推理。ハリソンの右ポケットに入っていた青酸カリを洗濯ソーダとすり替え、悲劇を未然に防ぎます。
洗濯ソーダ
洗濯ソーダは、化学的に言うと炭酸ナトリウム(別名「炭酸ソーダ」)の結晶中に10個の水分子を含んだもの。アルカリ性なので、酸性の汚れ(油や皮脂の汚れなど)に効果的です。ただし皮膚の油分も落としてしまうため、使用する際にはゴム手袋などで肌を守らなければなりません。
見た目は白い粉末状。厳密には洗濯ソーダと違いますが、炭酸ナトリウムとしては中華麺のかん水やこんにゃくの凝固剤などの食品添加物に利用されています。炭酸ナトリウムを口にすると、のどや胃の痛み、気分が悪くなることもあるようです。
これらを踏まえると、パッと見では白い粉末状の青酸カリと洗濯ソーダは見分けがつかないと思います。ましてやすり替えなどされているとは知らず精神状態も不安定なので、まず事前や凶行の最中の発覚はないでしょう。ただポアロも気にしているように気分が悪くなることもあるため、健康に良いものを使用してほしかったとは思います(時間がなかったのでしょう)。
ドラマについて
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1991年に『スズメバチの巣』というタイトルで本物語を放送しました。以下は原作との主な相違点です。
- ハリソンが凶行に走る前のエピソードが加わっている
- ポアロが薬局に行くことになった理由がハリソン宅でスズメバチに刺されたから
- ポアロとヘイスティングスがモリーのファッションショーに招待される
- ヘイスティングスに洗濯ソーダを買いに行かせる
- 洗濯ソーダをポアロがすり替えたのがアトリエ
- スズメバチ退治の時間が異なる
- ハリソンの主治医が出てくる
- ヘイスティングスが新しいカメラというオモチャを与えられている
- ジャップがひどい腹痛に襲われている
- ポアロの運動不足が深刻
原作部分は終わりの15分くらいで、それまではハリソンが凶行に走るきっかけとなったエピソードが付け加えられています。始まりは屋外バザー。ポアロが紅茶占いをして、カップに付いたモリーの口紅の色の違いに気づいてから危機が迫っていることを予想します。
その後、モリーはラングトンと一緒に時間を過ごすためわざと車を衝突。ファッションショーではポアロがモリーとラングトンの関係を見抜くドレスを見つけます。そしてポアロはアトリエで青酸カリと洗濯ソーダをすり替え。未然に悲劇を防ぐ、原作の内容へとつながっていきます。
ジャップの妻が迎えに来ない、ジャップがクラブ・サンドで食当たり、ポアロがタクシーに無視される、ヘイスティングスが新しいカメラではしゃいでいるなど、本エピソードはネタがてんこ盛り。ヘイスティングスは現像をするため部屋中を散らかし、浴室には「バビロンの吊り庭」を形成してしまう始末でした。ところがこのヘイスティングスが撮った写真が、後々役に立ったりするのも面白いところです。
感想
異色な作品で、最後のハリソンの感謝の言葉が印象に残りました。大切な人を奪われ、そのうえ自分の命が短いと知ったら、変な考えを起こすこともあるでしょう。ハリソンの感謝は、人生が憎悪で終わらなくて本当に良かったと、後悔からにじみ出た言葉だと思います。
もっと穏やかに解決できたのではという見方もできますが、個人的にはポアロが取った行動がいちばんだと考えています。なぜなら最初に誰とは言わずも心当たりのある説得を試みていますし、ハリソンは聞く耳を持ちませんでした。であれば計画を失敗に終わらせて諦めさせることが、本人に間違いを自覚させる最良の手段だと思うからです。
ポアロのすり替えのスキルもなかなか。トランプタワーのこともありますし、ポアロはもともと手先が器用なのでしょう。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
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