ヘラクレスの冒険(ポワロ)のネタバレ:あらすじ・神話との関連も解説

ヘラクレスの冒険(ポワロ)のネタバレ:あらすじ・神話との関連も解説

アガサ・クリスティのポアロシリーズ『ヘラクレスの冒険』。この物語は、ポアロが引退前にギリシャ神話『ヘラクレスの難業』にちなんだ12の謎を解決する短編小説です。

そこでこのページでは、「人物相関図」や「ギリシャ神話との関連」とともに、『ヘラクレスの冒険』に収録されている全作品を解説いたします。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

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あらすじとネタバレ解説

それでは『ヘラクレスの冒険』に収録されている作品を、あらすじ等含めてネタバレ解説いたします。

ことの起こり

◆ あらすじ

「きみの仕事はヘラクレスの難業ではない」。
バートン博士に自身のクリスチャンネームについて揶揄されたポアロは、秘書のレモンに頼み資料を集め、ヘラクレスについて調べてみる。

ポアロとは似ても似つかないヘラクレスだったが、ただ一つ、社会のために悪を駆逐しているという共通点があった。これを面白いと思ったポアロは、引退までに『ヘラクレスの難業』にちなんだ12の事件を引き受ける決意をする。

◆ 『ヘラクレスの難業』とは?

元ネタであるギリシャ神話の『ヘラクレスの難業』とは、簡単に言うと、ヘラクレスが狂気から解放されるために課せられた12の無理難題(最初は10だった)です。なぜ狂気に囚われていたのかというと、ヘラクレスの出生に秘密があります。

ヘラクレスは、神・ゼウスがアルクメネという人間の女性と浮気して生まれた半神半人です。当然ながら怒ったゼウスの妻・ヘラは、ヘラクレスを目の敵にし、神の力を使って狂気を扇動。自分を見失ったヘラクレスは災いを引き起こし、ついには我が子を手にかけてしまいます。

正気に戻ったヘラクレスは悩みました。そこで償いのために神殿へ行き、次のお告げを賜ります。

「ミュケナイの王・エウリュステウスに仕えて勤めを果たせ」

ことを任されたエウリュステウスでしたが、自身の地位を取られてしまうのではないかと内心ヘラクレスを恐れていました。なぜならミュケナイの王は、ヘラの妨げがなければ本来ヘラクレスがなっていた地位だったからです。

王の座を奪われないようにするため、エウリュステウスは到底クリアできないような無理難題をヘラクレスに課します。ところが予想に反してヘラクレスは次々と任務を完遂。エウリュステウスの目論見は外れ、結果的に12もの悪を退治した非常に良い行いとなりました。

これがヘラクレスの行った12の難業(功業)です。まったく似ているところがないヘラクレスでしたが、ポアロは「悪を退治した」という点を気に入り、難業にちなんで人々のためになる行動を開始します。

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ネメアの谷のライオン

◆ あらすじ

ヘラクレスの難業にふさわしいとは思えない一件の依頼がポアロのもとに舞い込む。内容はペットのペキニーズ犬が単に連れ去られただけで、今まで経験したような大きなものでも何でもなかった。

ところがレモンの予想通り運悪く心に引っかかるものがあったため、ポアロは依頼主のジョーゼフ・ホギンを訪問。要求通り大金を払ってペキニーズ犬は戻って来ていたが、同じ手口で知り合いもやられたと言うのだ。

◆ 最終的な人物相関図

『ネメアの谷のライオン』の最終的な人物相関図をまとめると次のようになります。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

ネメアの谷のライオンの人物相関図

◆ 解説

ペットを連れ去って金銭を要求していたのは富豪夫人の相手役たち。すべての計画はエイミ・カーナビが企て、同じ方法で計16回も実行に移しすべて成功していました。動機は将来への不安と富豪夫人に対する怒り。お金遣いが荒く自分たちに対して横柄な夫人たちから少し巻き上げ、仕事がなくなるであろう老後に備えるためでした。

実際にペットを連れ去った手順は以下の通りです。

ペット連れ去りの手順
  1. 雇い主の犬を散歩に連れ出す
  2. カーナビ家に雇い主の犬を置いて代わりにオーガスタスを連れて出る
  3. 赤ちゃんに気を取られているフリをして紐を切る
  4. 訓練されているオーガスタスはカーナビ家へ戻る
  5. 犬がいなくなったと騒ぐ
  6. 金銭を要求する手紙を送る
  7. 預かった手紙に入っているお金を紙束とすり替えて投函する

知ってる人でなければペキニーズ犬は同じに見えることを巧みに利用しています。謎を解くヒントとしては、エイミ・カーナビもホギン夫人とサムエルソン夫人のペットと同じペキニーズ犬を譲り受けていたことに着目できるかどうかです。

◆ ギリシャ神話との関連

ギリシャ神話の『ネメアの谷のライオン』は、ヘラクレスに退治されてしまいます。したがって、関連としてはペキニーズ犬がライオンに似ていることだけ。ちなみにネメアの谷のライオンは、ヘラクレスに退治された後「しし座」になったと言われています。

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レルネーのヒドラ

◆ あらすじ

見るからに憔悴しきっている医師のチャールズ・オールドフィールドがポアロを訪ねてくる。用件は自分が妻を亡き者にしたという噂を、なんとか収束させてほしいとのことだった。

同じ病院で働くジーン・モンクリーフと一緒になるために妻を手にかけたのではないかという女性問題が、一向に静まらない噂の原因。話を聞いたポアロは、一つ切れば二つの首が生えてくるレルネーのヒドラのような噂の出どころを調査する。

◆ 最終的な人物相関図

『レルネーのヒドラ』の最終的な人物相関図をまとめると次のようになります。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

レルネーのヒドラの人物相関図

◆ 解説

噂の根源でありオールドフィールド夫人を手にかけたのは、ハリソンでした。動機は恐ろしいほどの嫉妬。夫人亡き後自分に向けられると思っていた好意がジーン・モンクリーフへと行ってしまったため、心の中から憎悪が沸き上がり二人を貶めようとしました。

ポアロが語っていたように、謎解きのヒントはハリソンが証言したチャールズとジーンの会話が行われた場所。看護師や女中も行き交う食堂で、二人が危険な会話をするはずがありません。また、ベアトリス・キングがチャールズとジーンの会話を盗み聞きしたことについて否定し、ハリソンが瓶の中身やお茶を入れ替えていたという証言もヒントになると思います。信じられる材料はありませんでしたが…。

◆ ギリシャ神話との関連

本作では静まらない噂を、切っても切っても生えてくるヒドラの首に例えています。しかもヒドラは触れた者を絶命させる能力を持っていた存在。広まり続けてチャールズとジーンを苦しめた噂は、ヒドラのように怖い存在と言えるでしょう。ちなみにヒドラは、ヘラクレスに倒された後に「うみへび座」となっています。

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アルカディアの鹿

◆ あらすじ

車が雪で故障し仕方なく立ち寄った宿屋の部屋に、自動車修理所のテッド・ウィリアムソンが意味ありげな表情で入ってくる。想いを寄せていたある女性が急に失踪し、ポアロに相談を持ち掛けようとしていたのだ。

行方不明になったのはニータというロシア人バレリーナの付き添い女中で、金髪の両側が翼のようにカールしている美人。二度目に会う約束に現れなかったため新しい女中に事情を聞くと、ニータは急に暇を出されたという。

◆ 最終的な人物相関図

『アルカディアの鹿』の最終的な人物相関図をまとめると次のようになります。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

アルカディアの鹿の人物相関図

◆ 解説

ニータの正体は、バレリーナのカトリーナ・サムシェンカでした。正体を隠してテッドの応対をしたのは、自身が病気だったから。ところがテッドの美しさと天真爛漫な性格に一目惚れし、その日限りのデートを楽しんだというのが経緯です。

ニータがヴァレッタではなくサムシェンカだと結び付けるには、ポアロが頑張って聞きまわった一人一人の証言を見ていくのがいちばんでしょう。

証言者 証言した内容 わかること
テッド・ウィリアムソン ニータは金髪のフランス人で足取りが軽い ニータの国籍と身体的特徴
テッドが調べた住所にいた女性 ヴァレッタはイタリア人で癇癪持ち ヴァレッタの国籍と性格
アンブローズ・ヴァンデル サムシェンカはフランス人のスパイだと疑われた サムシェンカはフランス人っぽい外見
ジョージ・サンダーフィールド サムシェンカは女中を連れてきていない ニータ・ヴァレッタは存在しない
マリー・ヘリン 前の女中は病気で辞めサムシェンカは気分屋 ヴァレッタが辞めた理由、サムシェンカの性格
アレックシス・パヴロヴィッチ サムシェンカは病気でスイスに行きヴァレッタはイタリア人 サムシェンカの居場所とヴァレッタの国籍
ヴァレッタの家族 ビアンカは亡くなった ヴァレッタの名前

着目すべきは国籍です。テッドはニータ・ヴァレッタをフランス人、次の女性はイタリア人と国籍が食い違っています。さらにロシア人のサムシェンカはフランス人っぽい外見だとアンブローズが証言。これにより、テッドが会っていたニータは、サムシェンカだと考えることができます。

混乱を招く要因としては、怒りっぽい性格や病気という共通点。病気はサムシェンカが正体を隠した理由にもなっていますが、いかにもニータ・ヴァレッタという人物がいたかのような錯覚を起こさせます。

◆ ギリシャ神話との関連

ギリシャ神話に出てくる『アルカディアの鹿』の特徴は、黄金の角と矢よりも早い脚の速さ。これをサムシェンカが持つ美しい金髪と、軽快な動きで人々を魅了したバレリーナとしての活躍に関連付けています。

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エルマントスのイノシシ

◆ あらすじ

スイスの雪山にうんざりしているときに乗ったケーブルカーで、ポアロは車掌に突然手紙を握らされる。
「逃亡中のマラスコードが仲間とロシェ・ネージュで会合するらしい」。

ロシェ・ネージュは標高一万フィートの場所にあり会合するには適していなかったが、手紙の主はスイスの警視・ルマントゥーイュで信頼できる人物。これ以上の高地になど行きたくなかったが、マラスコードがイノシシだと聞き仕方なくポアロは協力する。

◆ 最終的な人物相関図

『エルマントスのイノシシ』の最終的な人物相関図をまとめると次のようになります。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

エルマントスのイノシシの人物相関図

◆ 解説

マラスコードの正体は前給仕のロバートではなく、現給仕のガスタヴでした。わざわざ会合に適さない高地のホテルを選んだのは、ルッツに極秘で整形手術をしてもらうため。顔を変えたマラスコードは監禁しておいたドルエを亡き者にし、自分の身代わりとして葬ろうと企んでいました。

ポアロがガスタヴの正体を見抜けたのは経験則。さすがとしか言いようがないですがそれだけだと面白くないので、ポアロとガスタヴの最初のやり取りで気になる点をピックアップします。

  • ガスタヴがマラスコードをイノシシと表現
  • ガスタヴはマラスコードの大ざっぱな特徴しか知らなかった
  • 支配人の話を出したときガスタヴはドキッとした

一つ目はルマントゥーイュがポアロに宛てた手紙の内容。警察内のコードネームとして通っていた可能性もありますが、そうでない場合マラスコードをイノシシと表現したことはあまりにも偶然が過ぎます。また、マラスコードは別件でも容疑をかけられているよく知られた人物。警察のドルエが大ざっぱな特徴しか知らないなどあり得ません。三つ目は当然、ポアロに支配人の買収を知られてはいけないと焦ってのことでしょう。

ポアロはガスタヴの正体にすぐ気づいたようですが、最初に彼からドルエと明かされたときこんな発言をしています。

どうもそうじゃないかと思っていたんだ

出典元:ハヤカワ文庫『ヘラクレスの冒険(エルマントスのイノシシ)』アガサ・クリスティー/高橋豊訳

とんだタヌキですね。

◆ ギリシャ神話との関連

マラスコードをイノシシと例えたことはもちろん、雪に関連する場所で捕らえたという共通点もあります(本作は雪山、ギリシャ神話は雪原)。ただしヘラクレスは追い回した末にイノシシを捕獲。ポアロがマラスコードを捕まえたクールな方法とは異なっています。

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アウゲイアス王の大牛舎

◆ あらすじ

首相のエドワード・フェリアと内務大臣のジョージ・コンウェイが、週刊紙に載る予定のスキャンダルについて相談がありポアロのもとを訪れる。フェリアの義父で前首相であるジョン・ハメットが、汚職と横領を繰り返し国民を騙していたという内容が掲載するらしかった。

謂れのないデマかと思いきや、記事はすべて真実だという。フェリアとジョージは記事をもみ消すため、ポアロに最後の望みを託しに来たのだった。

◆ 最終的な人物相関図

『アウゲイアス王の大牛舎』の最終的な人物相関図をまとめると次のようになります。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

アウゲイアス王の大牛舎の人物相関図

◆ 解説

ポアロがスキャンダルをもみ消した方法は、政治よりも国民の興味を引く男女関係のネタをパーシーの手で記事にさせることでした。そしてそのネタが事実ではないと公の場で明らかにする。結果、パーシーが発行するX線ニュース紙を信じる者はいなくなり、失墜させる算段でした。

具体的にポアロが実行した手順は次の通りです。

ポアロがスキャンダルをもみ消した手順
  1. ダグマーと前もって打ち合わせ
  2. エヴァリットに協力を要請
  3. エヴァリットがダグマーのそっくりさんを見つけてスカウト
  4. スキャンダラスな写真を撮りパーシーに送り付ける
  5. パーシーが写真を使って記事を出す
  6. 記事が嘘だという証拠を突き付けパーシーを失墜させる
  7. 国民はパーシーの記事を信用しなくなる

男女に関する問題が政治のスキャンダルをもみ消すほどの力を持っているかは微妙ですが、一度失墜させれば誰も信じないのは確かでしょう。加えてダグマーは謂れのない噂で貶められたという、同情心も買うことができます。

◆ ギリシャ神話との関連

牛舎に溜まった30年分の汚物をヘラクレスが川の流れを変えて一気に掃除した、というのがギリシャ神話に出てくるエピソードです。本作に当てはめて考えると、「汚物=スキャンダル」「川=人々の関心」。ポアロは見事洗い流すことに成功しますが、実はギリシャ神話ではノーカウントにされてしまう難業の一つです。

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ステュムパロスの鳥

◆ あらすじ

閑静な湖畔で休暇を過ごしていた政治家のハロルド・ウォーリングは、ホテルに向かって歩いてくる女性二人を目撃する。無表情な彼女らは奇妙なほどよく似ており、鼻やマントがまるで鳥のような印象を抱かせた。

森の中で泣いていたエルジー・クレイトンを慰めているところを例の女性に見られた夜、悩みの種である夫が怒り狂って襲ってくる。ところが逆にエルジーが投げつけた文鎮が頭に当たり夫は気絶。夫はそのまま命を落としたと聞かされたハロルドは、ライス夫人の助言で事実の隠ぺいを決断する。

◆ 最終的な人物相関図

『ステュムパロスの鳥』の最終的な人物相関図をまとめると次のようになります。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

ステュムパロスの鳥の人物相関図

◆ 解説

悪人だったのは双子のポーランド人女性ではなくライス夫人とエルジーの親子で、ハロルド・ウォーリングからお金を巻き上げることが目的でした。語学が堪能ではないハロルドに目を付け、エルジーは可哀想な妻を演じる。そこにライス夫人扮するエルジーの夫が絶命したと見せかけ、いっしょに居合わせたハロルドに隠ぺい工作させるよう仕向けてお金を搾り取ろうとしました。

ポアロが正体を見破れたのは、警察がわいろを受け取らないと確信していたから。ただそれだけでは弱いので、ライス夫人の交渉を聞いていた、もしくはそもそも二人の正体を知っていた可能性もあります。

◆ ギリシャ神話との関連

ギリシャ神話に登場する『ステュムパロスの鳥』は、集団で行動し人間を襲う生き物として恐れられていました。したがって関連としては、複数(二人)で人間に災厄をもたらすこと。ただし外見だけは、双子のポーランド人女性のほうが濃い鳥要素を持っていました。

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クレタ島の雄牛

◆ あらすじ

気違いになるからという妙な理由で婚約破棄されたダイアナ・メイバリーが、ポアロに泣きついてくる。家系による遺伝子がそう言わせているようで、父に海軍を辞めさせられたのと羊が咽喉を切られた時期が同じという暗示もあった。

すっかり瘦せ衰えてしまった相手方の父は、婚約解消についてこう言っているという。
「あの子は正しいことをしようとしているのだ。あの子のできる唯一のことを」。

◆ 最終的な人物相関図

『クレタ島の雄牛』の最終的な人物相関図をまとめると次のようになります。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

クレタ島の雄牛の人物相関図

◆ 解説

ヒューを気違いにさせていたのは、父親のチャールズでした。動機はヒューがフロビッシャーの息子だということを知ったから。次第に恨みが増幅したチャールズはまず妻のキャロラインを亡き者にし、さらにヒューにダチュラ(気違いにさせる物質)を服用させ自ら命を絶たせようとしました。

ポアロが真相を明らかに出来たのは、ダチュラによる症状(吹き出物、幻覚、咽喉の渇きなど)を見てとったからです。知識がなければ解明は難しいですが、動機の線は共通の癖や三角関係からたどることができると思います。

◆ ギリシャ神話との関連

気性が激しく血の気が多いこと。ギリシャ神話との関連は、チャールズの性格に尽きます。ちなみにクレタ島の雄牛は、牛頭人身の怪物・ミノタウロスの父親に当たる存在です。

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ディオメーデスの馬

◆ あらすじ

大好きなマイケル・ストダード医師から電話があり、ポアロは指定された住所に足を運ぶ。行われたパーティーでペイシェンス・グレイスがアントニー・ホーカーと口論し、挙句の果てに銃を乱射して浮浪者にケガを負わせたというのだ。

パーティーの参加者は白い粉を吸っていたため、警察も関わる大事になるのは間違いなし。ストダードの依頼はパーティーに参加していた少女のシーラ・グラントが、明るみに出ないよう取り計らって欲しいということだった。

◆ 最終的な人物相関図

『ディオメーデスの馬』の最終的な人物相関図をまとめると次のようになります。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

ディオメーデスの馬の人物相関図

◆ 解説

白い粉を配っていたのはシーラでしたが、根源は父を名乗るグラント将軍でした。以下は、ぼろ儲けするためにグラント将軍が立てた計画です。

グラント将軍のぼろ儲け計画
  1. 感化院から目ぼしい少女を見つけ娘として迎える
  2. 娘たちに粉を配らせる
  3. 深みにハマった人が次々に増えてぼろ儲け

※感化院:非行に走った少年・少女を保護し教育する施設

あくどいのは、配る人に少女を選んでいることです。純真無垢な少女たちが現場に居合わせてしまっても、世間からは同情の目で見られるだけ。万が一バレてしまっても、トカゲのしっぽを切ればよいだけです。

ポアロはグラント将軍が抱えていたという「痛風」の一言から、黒幕であると特定できました。19歳の娘を持つ父親の病気ではないということでしたが、現代では若い人でもなるので、今ならもっと解決に時間がかかったかもしれません。

◆ ギリシャ神話との関連

『ディオメーデスの馬』は、人を喰らう怪物で四匹いました。したがって、人を食い物にするために動いていたシーラたち四人の娘が、ディオメーデスの馬です。ただしギリシャ神話のヘラクレスが亡き者にしたのは飼い主の王様だけ。四匹のディオメーデスの馬は生かしておいたことにも、共通点があります。

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ヒッポリュトスの帯

◆ あらすじ

失業者が起こしたデモに紛れて、アレクサンダー・シンプソンが所持するルーベンスの絵が盗まれる。トリックはとても面白かったが、自分には何もできることがないとポアロは感じていた。

渋々捜査を引き受けた後、パリに行くと聞きつけたジャップが来てついでに調べて欲しいことがあるという。一人の女生徒が美術で有名な学院に入学するためにパリへ行く途中、電車の中で蒸発したとのことだった。

◆ 最終的な人物相関図

『ヒッポリュトスの帯』の最終的な人物相関図をまとめると次のようになります。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

ヒッポリュトスの帯の人物相関図

◆ 解説

行方不明になるまでのウィニーは、途中からエリオット夫人の変装でした。目的は、盗んだルーベンスの絵を無検査でパリへ運ぶこと。途中で変装を解いたのは、本物のウィニーを知っているラヴィユア・ポープに会わないようにするためでした。

実際に使われたトリックを図解すると以下のようになります。

ヒッポリュトスの帯のトリック

あとはウィニーがさらわれたことにかこつけて、警官に扮して回収するだけ。ミス・ポープ学院という有名校の名を利用した、巧妙なトリックでした。

◆ ギリシャ神話との関連

「変装」という点が、ギリシャ神話との関連です。ヘラクレスはアマゾーンという部族の女王ヒッポリュトスから、帯を譲り受ける約束をしていました。ところがヘラ(ヘラクレスの実の父親の妻)がアマゾーンに変装し、ヘラクレスが女王を襲うと吹聴。怒ったアマゾーンは、ヘラクレスを襲おうとします。

騙されたと感じたヘラクレスは、返り討ちにしてヒッポリュトスをも処理。結末はまったく違いますが、変装して人を騙したことに共通点があります。

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ゲリュオンの牛たち

◆ あらすじ

退屈な日々に刺激を求めていたエイミ・カーナビが、ポアロに悩みを打ち明ける。友人のエメリン・グレッグが怪しい教団にハマり、夫の残した遺産を寄贈する遺言書を作ったというのだ。

心配の種は過去同じように遺言を書き孤独を抱えていた三人が、不審な点は無いながらも命を落としたこと。事情を聞いたポアロは、カーナビの演技力を買って教団への潜入をお願いする。

◆ 最終的な人物相関図

『ゲリュオンの牛たち』の最終的な人物相関図をまとめると次のようになります。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

ゲリュオンの牛たちの人物相関図

◆ 解説

人を操り遺言書を作らせ、自然に命を落としたように見せかけて処理する。アンダースンたち「羊飼いの信徒」は、この非道な方法で多額のお金を手にしていました。

計画の具体的な流れは以下です。

アンダースンたちの計画
  1. 集まってきた信者に注射を打って快楽を与える
  2. 狂信し始めた人物に「羊飼いの信徒への寄付」を記した遺言書を作らせる
  3. 病気を加速させるバクテリアを注入する
  4. 信者が命を落としてお金が手に入る

それぞれの持病が悪化しただけなので、見た目は自然に亡くなっただけ。何人もの信者が遺贈して命を落とすという不審さはありますが、医者も警察も手の出しようがありません。まさに科学を悪用した、卑劣極まる方法です。

しかしアンダースンたちの計画も、潜入したカーナビにより打ち破られます。本当に狂信してしまったのではと騙されたほどの名演技でした。

◆ ギリシャ神話との関連

ギリシャ神話に登場するゲリュオンは、海に囲まれた島に住み牛を飼っていました。したがって、「隔絶された空間=教団、牛=信者」。これがギリシャ神話との関連です。また、牛たちを守るものとしてオルトロスという存在がいたのですが、本作でそれに当たるのがリップスコムだと思います。

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ヘスペリスたちのりんご

◆ あらすじ

「ボルジアの酒盃を取り戻してもらいたい」。
エマリー・パワーが買った直後に盗まれてから、ボルジアの酒盃は十年間も行方がわからなくなっていた。

盗んだ一味は誰も所持しておらず、見当をつけていたルービン・ローゼンサルも手にしたことはないと断言。十年間の捜査が無駄に終わったエマリーは、再スタートを切るためにポアロを引っ張り出したのである。

◆ 最終的な人物相関図

『ヘスペリスたちのりんご』の最終的な人物相関図をまとめると次のようになります。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

ヘスペリスたちのりんごの人物相関図

◆ 解説

ボルジアの酒盃があった場所は、イニッシーゴーランの修道院でした。持って行ったのは盗んだパトリック・ケーシーの娘・ケイトで、父の形見として受け取り、償いの意味を込めて神に進呈。修道女たちは価値を知らなかったためずっと日の目を見なかった、というのがことの顛末でした。

最後、ポアロはエマリー・パワーに酒盃を修道院に返すことを提案します。お金やプライドのために他人を貶めて来たエマリーに、少しでも人間らしい幸せを取り戻してもらいたい一心で。

◆ ギリシャ神話との関連

ボルジアの酒盃のデザインが、ギリシャ神話に登場するヘスペリスが面倒を見ていた「りんごの木」に例えられています。巻き付いている蛇のデザインは、ラドンという木を守っていた竜のこと。ヘラクレスはさまざまな場所を旅した末にラドンを倒してりんごを手に入れますが、元の場所に戻されるというオチにも共通点があります(ギリシャ神話では、ヘラクレスではなく別の神が元の場所に戻しています)。

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ケルベロスの捕獲

◆ あらすじ

混雑にうんざりしながら乗った駅のエスカレーターで、ポアロはロサコフ伯爵夫人とすれ違う。20年経っても変わらぬ魅力を持っていたロサコフ伯爵夫人は、こう言い残して姿を消した。
「地獄に来て!」。

地獄とはどこなのか考えを巡らしレモンに質問すると、最近流行りのナイトクラブだとあっさり判明。さっそく赴いたポアロはロサコフ伯爵夫人と再会するとともに、店がブツの取引現場として疑われていることを知る。

◆ 最終的な人物相関図

『ケルベロスの捕獲』の最終的な人物相関図をまとめると次のようになります。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

ケルベロスの捕獲の人物相関図

◆ 解説

組織の親玉はアリス・カニンガムでした。はいていたスカートの大きなポケットにブツを入れておき、ダンスの際に受け渡す。アリスが身なりを気にしていなかったのは、取引に最適だからという意図がありました。

隠れ蓑として選ばれたのがロサコフ伯爵夫人です。アリスがいざというときのブツの隠し場所にしていたのは、よくしつけられたドゥドゥ(ケルベロス)の口の中。ドゥドゥはロサコフ伯爵夫人の飼い犬ですし、前科があることも相まって自分への疑いを逸らすにはうってつけの存在でした。

しかしポアロはアリスたちの企みを見破り、ヘラクレスの難業を完遂させます。ロサコフ伯爵夫人の、熱い抱擁付きで。

◆ ギリシャ神話との関連

ギリシャ神話に登場するケルベロスは三つの頭を持つ獰猛な怪物で、「地獄の番犬」として恐れられていました。三つの頭はもちろん関係ありませんが、ドゥドゥがケルベロスのように獰猛であり、「地獄」という店の番犬だったことがギリシャ神話との関連です。また、ケルベロスを地上に連れ出し、元の場所に返したことにも共通点があります。

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海外ドラマ『ヘラクレスの難業』について

デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、2013年に『ヘラクレスの難業』というタイトルで本物語を放送しました。ストーリーは、ポアロがヘラクレスの難業シリーズの絵画『ヒュドラの退治』とルシンダという女性の護衛に失敗。三か月後、償いの意味も込めてテッド・ウィリアムズの恋人探しを手伝うことにし、訪れた雪山のホテルで『アルカディアの鹿』『エルマントスのイノシシ』『ステュムパロスの鳥』『ケルベロスの捕獲』をもとにした謎に遭遇する内容となっています。

以下は本ドラマの最終的な人物相関図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください(結末を反映しての内容なので、未視聴の方はご注意ください)。

ドラマ『ヘラクレスの難業』の人物相関図

四つの物語を統合しているので、ホテルに集まったほとんどの人間が何かしらの悪事を働いていました。中でもいちばんの悪党は、冒頭でポアロの監視をかいくぐりルシンダの命を奪って絵を盗んだアリス・カニンガムです。ドラマでのアリスは、『ケルベロスの捕獲』に出てくる同名のキャラクターに、『エルマントスのイノシシ』に登場するマラスコーを組み合わせた人物となっています(原作の『ケルベロスの捕獲』では、アリスはロサコフ伯爵夫人の娘ではなく息子の婚約者)。

なんといっても結末が切ないです。命を落としたルシンダに対して少しでも償うため、ポアロは自身の能力を最大限使ってすべてを明らかにしました。しかしその結果、アリスにはとんだ自己満足と指摘され、愛するロサコフ伯爵夫人までもが自分のもとを去っていった。人々を幸せにするという意味においては「難業なんて何ひとつこなせない」とアリスに言われたとおりで、ポアロ自身にも何一つ残らなかったわけです。

それでも最後、ポアロの行動により結ばれた愛がありました。ウィリアムズとサムシェンカが抱き合う姿は、ポアロにとって唯一の救いだったことでしょう。ロサコフ伯爵夫人にもらったカフスを見て、満たされない気持ちを抱えながらも。

最後に、本ドラマで使用されたロケ地をご参考までに記載いたします(「Googleマップ」をクリックすると、新しいタブで地図が開きます)。

ロケ地 説明 地図
ハルトン・ハウス オリンポス・ホテル Googleマップ
サイオン・ハウス ウィリアムズとサムシェンカが最後に会った場所 Googleマップ
ブロケット・ホール 『ヒュドラの退治』が奪われたパーティ会場 Googleマップ

※「ハルトン・ハウス」は雪山にあるわけではありません。ご注意ください。

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感想

一部ではあるものの、今まで触れたことのなかったギリシャ神話を知るいい機会になりました。神話に関連する事柄の例え方も、いろいろなバリエーションがあって面白いです。ただ、ポアロ自身、引退前の仕事がこんな小さなもので納得できたのかという疑問は残りました(それまでが大きすぎるといえるかもしれませんが)。

個人的にいちばん良かったと思う作品は、一つ目の難業である『ネメアの谷のライオン』です。トリックは人間の心理的な盲点を突いていますし、お金持ちに対するメッセージ性もある。何よりカーナビというキャラがいい味を出していて、『ゲリュオンの牛たち』では演技力を存分に披露しました。

ヘラクレスは12の難業のほかにも、たくさんの偉業を成し遂げています。ポアロがその後も奇妙な謎に遭遇し解決していくのは、ヘラクレスの名を持つ者の宿命といえるでしょう。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。