五匹の子豚(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・相関図・感想
アガサ・クリスティのミステリー小説『五匹の子豚』。この物語は、16年前に起きすでに解決済みの悲劇の再捜査をポアロが依頼される、ポアロシリーズの長編小説第二十一作目です。
そこでこのページでは、「人物相関図」や「物語のポイント」を確認しながら、本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説の前に、最終的な人物相関図とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
最終的な人物相関図
以下は、本作品の登場人物の最終的な相関図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。
あらすじ
◆ 16年前の悲劇の調査
用件を書かずに手紙を寄こしていたカーラ・ルマンションが、ポアロを訪ね重い口を開く。母のカロリン・クレイルが父であるアミアス・クレイルの命を奪ったとされる16年前に起きた悲劇の、再捜査をしてほしいというのだ。
ウソをつくような人ではなかった母が、21歳になった自分に無実だと綴った手紙を残していたのが捜査を依頼した理由。大変上手なお世辞を言われたポアロは、16年前の真実を明らかにするという難行に挑むことにする。
◆ 弁護士、検事、元警視の話
ポアロはまずカロリンを担当した弁護士、告訴した検事などに話を聞き始める。関係者に持っている印象はそれぞれ違っていたが、カロリンがアミアスの命を奪ったことだけは全員一致の見解だった。
続いてヘイル元警視を訪ね、悲劇が起きたときの状況、コニインという凶器、カロリンとアミアスの間に口論があったことを聞く。まったくもって疑問の余地はなかったが、それでもポアロは現場にいた5人の男女に話を聞くことにする。
◆ 5人の関係者の話
はじめにフィリップ・ブレイクに会い、コニインが盗まれたときのこと、カロリンが妹に負わせた傷の話などを聞く。次に兄のメレディス・ブレイクを訪ね、当時の話とともに実際に現場となった場所も案内してもらった。
続いてエルサ・ディティシャム、セシリア・ウィリアムズ、アンジェラ・ウォレンと会い、さまざまな切り口で話を引き出す。そして16年前の悲劇に関する説明を、関係者全員に書いてもらうよう頼んだ。
◆ 5人の関係者の物語
関係者の手記はそれぞれ角度こそ異なっていたが、アンジェラを除きカロリンがアミアスの命を奪ったことで一致していた。カーラも手記を読ませてもらい、母がやったと思わざるを得なかったのである。
ところがポアロは反対に、実際に起こったことの見通しがつき始めていた。もう一度関係者を訪ねて些細な質問をし、全員を集めて16年前の真相を再建する。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
黒幕と動機
アミアスの命を奪った本当の黒幕はエルサでした。動機は愛情から転じた憎悪。エルサは心からアミアスを愛し結婚できると思っていました。ところがアミアスは絵の完成後、過去に関係を持った女性同様エルサとは別れるつもりでいたのです。
1つの原因は、エルサがそれまで欲しいものをすべて手にしてきたこと。したがってアミアスの愛を手にしていないと知ったときの衝撃は、慣れない心には耐えがたい傷だったのです。エルサにとって未経験の、純粋だったがゆえに湧き起こった憎悪といえます。
一方のアミアスはエルサの傷も何とかなるだろうと考えており楽天的でした。念のため「妻を愛しているから頭に入れておいてくれ」と忠告もしましたが、エルサにとってはそのときの感情がすべてで無意味だったのです。
悲劇の前日と当日の出来事
ここからは、アミアスの命が奪われた前日からの実際に起こった出来事や真意を追っていきます。
前日の昼:カロリンとエルサの口論
悲劇の前日の昼、エルサがアミアスと結婚すると言い出しカロリンとの口論に発展。アミアスも入ってきて修羅場になり、「今はこれ以上話したくない」と言って出て行ってしまいます。
このときの3人の心情は以下です。
- エルサ:アミアスと結婚するからカロリンはジャマ
- カロリン:エルサにアミアスを取られてしまう
- アミアス:もうすぐ絵が完成するのにエルサは余計なことを
この騒動で大事なのは、口論でショックを受けたカロリンが命を絶とうと考えたこと。それまでもアミアスの女性問題はありましたが、今回はもしやと思ってしまったのです。当のアミアスは変わらず絵がすべて。あと少しで絵が描きあがるにもかかわらず揉めごとが起き、面倒だと考えていました。
前日の午後:メレディス家の訪問
悲劇の前日の午後、セシリアを除いた一同はメレディスの家を訪問。先の口論で命を絶とうと考えていたカロリンは、メレディスの自慢話を聞きコニインを盗みます。コニインを入れるのに使ったのが、ジャスミンの香水瓶でした。
盗んだタイミングはメレディスの家を出るとき。ところが最初に出たエルサが、メレディスの肩越しにその行動を目撃していました。ただしこのときは、カロリンが命を絶つのだろうと思いむしろ好都合だと考えていたのです。
帰りにはアミアスとアンジェラが口論。ケンカは夜まで続き、最終的にアンジェラが文鎮を投げつけて終わります。アンジェラはそれでも怒りが収まらず、翌日に仕返ししてやろうと画策していました。
当日の朝食後から昼食
悲劇当日の朝食後から昼食までの出来事は少し複雑なので、関係者それぞれの行動を以下の図にまとめました。
もっとも重要な出来事は、朝食後すぐに起こったカロリンとアミアスの口論。すぐ外ですべてを聞いていたエルサが、アミアスは自分を愛していないと知ってしまったからです。裏切りにより愛情が憎悪に変わり、アミアスの命を奪う決心をしてしまいます。
前日にカロリンがメレディスの家で盗むのを見ていたので、凶器はコニインを使うことにしました。アミアスにコニインを盛ったのは、絵を描きに行ったすぐ後。その後は絵のモデルとして普通に過ごし、昼食前にコップに残りのコニインを入れておきます。
当日の昼食後:アミアス絶命
昼食後、カロリンはアミアスが息絶えているのを発見。このとき誰がやったのかと考え、アンジェラの仕業だと勘違いしてしまいます。なぜなら午前中にアンジェラが貯蔵所にいて、後ろめたい顔をしていたのを思い出したからです。
カロリンはアンジェラを何としてでも守りたいと考え、瓶を拭いてからアミアスの指紋を付着させました。この様子をセシリアが目撃。そしてカロリンはアミアスが自ら命を絶ったと主張しますが、結果的に自分が逮捕され、アンジェラを庇うため裁判では無理に抗いませんでした。
しかしアンジェラは実際に何もしていません。前日の口論の仕返しとして瓶にまたたびを仕込もうとしたのですが、やろうとしたときにカロリンとセシリアに見つかってしまったのです。
伏線
細かいものも合わせるとたくさんの伏線が張られている本作ですが、個人的には次のカロリンとアミアスの人間性や心情を考えることが重要だと思います。
- アミアスは絵が第一
- カロリンとアミアスは愛し合っていた
- カロリンはアンジェラのケガに責任を感じていた
感情の面なので、もちろん移ろいやすく決定的な証拠にはなりません。しかしほとんどの人が口にしていることが真実だったことの表れ。そしてこの3点を軸に置くと、ほとんどの行動や言動に説明がつくのです。
例えばカロリンの裁判での態度や指紋の偽装工作はアンジェラを想っていたから。それからアミアスの「すべてうまくいく」発言の真意や、悲劇当日のアミアスとカロリンの口論も別のとらえ方ができます。
この考えをもとにすると浮き彫りになってくるのが、1人だけずれたエルサの発言です。そう思い込んでいた可能性も否定はできませんが、周りとは違う印象に違和感を覚え、プルオーバーを2度取りに行くなどのおかしな行動にも目を向けられるのではないかと思います。
マザーグースとの関連
本作はマザーグースの数え唄「五匹の子豚」から着想を得た物語になっています。以下は歌詞と章のタイトルを比較した表です。
マザーグースの歌詞 | 章のタイトル |
---|---|
1. この豚さんは市場行き | この子豚はマーケットへ行った |
2. この豚さんはおるす番 | この子豚は家にいた |
3. この豚さんは肉を一切れもらい | この子豚はロースト・ビーフを食べた |
4. この豚さんはなんにもない | この子豚は何も持っていなかった |
5. この豚さんはウィー、ウィー、迷子になっちゃった | この子豚は”ウィー、ウィー、ウィー”と鳴く |
見立てて何かが起こるというわけではなく、登場人物を歌詞になぞらえています。1はフィリップ、2はメレディス、3はエルサ、4はセシリア、5はアンジェラ。ディプリーチから話を聞いているときに、ポアロの頭に一節が浮かんでいました。
ドラマについて
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、2003年に本物語を放送しました。以下はキャストと、原作との主な相違点です。
登場人物名 | 役者名 |
---|---|
エルキュール・ポワロ | デヴィッド・スーシェ |
キャロライン・クレイル | レイチェル・スターリング |
アミアス・クレイル | エイダン・ギレン |
エルサ・グリヤー | ジュリー・コックス |
フィリップ・ブレイク | トビー・スティーブンス |
ルーシー・クレイル | エイミー・マランス |
ウィリアムズ | ジェンマ・ジョーンズ |
メレディス・ブレイク | マーク・ウォーレン |
アンジェラ・ウォレン | ソフィー・ウィンザー |
ディプリーチ弁護士 | パトリック・マラハイド |
- カーラの名前がルーシー
- 悲劇が起きたのが14年前
- ポワロがルーシーの依頼を受けたのがレストラン
- ポワロが関係者を訪ねる前に話を聞くのがディプリーチ弁護士だけ
- エルサとメレディスの話を聞く順番が逆
- ルーシーが婚約していない
- 関係者に手記を書いてもらわない
- ルーシーがエルサを撃とうとする
14年前という点を除き、過去に起こったことは原作に忠実です。異なるのは現在におけるポワロの行動。まず悲劇の関係者を訪ねる前に話を聞いたのが、キャロラインを弁護したディプリーチだけになっています。
原作ともっとも異なる点は、関係者に当時の出来事や印象を手記にしてもらわないことでしょう。その要素はまとめてポワロの訪問で語られるよう変更となっています。ひとりひとりの手紙を読むという演出は、ドラマだと退屈に映ってしまうからかもしれません。
最後にルーシーがエルサを撃とうとしました。大切な家族、幸せな時間を奪われた憎悪から生まれた行動です。一方エルサからしてみれば、14年前に命を落としたも同然でした。むしろ落命を望んでおり、そしてルーシーに撃たせることでクレイル家へのさらなる復讐を果たしたかったのだと思います。
感想
だれかを傷つけてでも素晴らしい芸術の創造に努めるか、人の気持ち・思いやりか。相反するとまでは言いませんが、正直この2つに関しての考えは人それぞれだと思います。ただし人は物ではなく感情があるので、本作のように悲劇が起こる可能性を秘めているということです。
いわゆる芸術がもたらした悲劇で、ある意味エルサも犠牲者といえます。傲慢なところはありましたが、若く純粋な気持ちを傷つけられてしまったからです。もしかしたら1人でもエルサの理解者がいれば、違った結末もあったかもしれません。
また、カロリンにとっては不運が重なってしまいました。アンジェラがいたずらしようとしたその日に、エルサが凶行に及んでしまったからです。クリスティ作品によくある傾向ですが、登場人物の行動の複雑な絡み合いに面白さがあると思います。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のポアロ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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