マースドン荘の惨劇(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アガサ・クリスティーのポアロシリーズ『マースドン荘の惨劇(マースドン荘の悲劇)』。この物語は、マースドン荘で亡くなった男の命を落とした原因を追究する、『ポアロ登場』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、結末など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『マースドン荘の惨劇』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
エルキュール・ポアロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポアロの友人 |
マルトラヴァーズ | マースドン荘の主 |
マルトラヴァーズ夫人 | マルトラヴァーズの妻 |
アルフレッド・ライト | 北部連合保険会社の役員 |
ラルフ・バーナード | マースドン・リーの医者 |
ブラック | 大尉 |
エヴェレット | 役者 |
あらすじ
ヘイスティングスがロンドンに帰ってくると、ポアロがちょうど出かける準備をしているところだった。マルトラヴァーズという男が亡くなった原因について、保険会社から調査を依頼されたのである。
健康状態は良好だったにもかかわらず、マルトラヴァーズはカラス撃ちの最中に内出血で落命。破産寸前の状態にあったことから、高額な保険料を受け取るため自ら命を絶ったのではないかとも考えられた。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
真相
マルトラヴァーズは病気でも自ら命を絶ったのでもなく、妻に亡き者にされていました。動機は保険金。そもそもが金銭目的の結婚だったため、マルトラヴァーズの経済状態が破綻したことを知り凶行に及んでいました。
命を奪った方法は、ブラック大尉から聞いた話をそのまま実行。ライフルを口にくわえる真似をさせ、マルトラヴァーズ夫人は本当に引き金を引きました。周りの人間にはマルトラヴァーズがカラス撃ちをしていると思われているので、音がしても大して気にも留めません。
決定的な証拠がない状況だったので、ポアロは降霊術を実行。役者のエヴェレットに亡くなったマルトラヴァーズの変装をさせ、夫人を自白に追い込みました。おそらく人間心理に長けたポアロは夫人の性格を見抜き、少しおどかせば自白すると確信していたのでしょう。
言葉の連想
ポアロはブラック大尉の意識下の記憶を探るため、言葉の連想ゲームのようなことをしました。以下は二人の言葉に、連想から読み取れることを書き加えたリストです。
ポアロの言葉 | ブラックの言葉 | 読み取れること |
---|---|---|
昼 | 夜 | 普通の連想 |
名前 | 場所 | 普通の連想 |
バーナード | ショウ | 医者のバーナードには会っていない |
火曜日 | 夕食 | マースドン荘での夕食 |
旅 | 船 | 海外への旅の方が大事 |
国 | ウガンダ | 海外への旅の方が大事 |
話題 | ライオン | 夕食での話題 |
カラス撃ちのライフル | 農場 | 知っている人の行動 |
発砲 | 自殺 | 知っている人の行動 |
象 | 牙 | 普通の連想 |
マネー | 弁護士 | 普通の連想 |
まず、ブラックがスラスラと答えたので隠し事はないというのが大前提です。そしてリストの中でポアロが注目したのが、「カラス撃ちのライフル」に対する「農場」という答え。まったく関係なさそうな二つの言葉により、ブラックからある男が命を絶った特殊な方法を聞き出しました。
おそらくポアロは連想ゲームを始める時点で、マルトラヴァーズ夫人が黒幕だと考えていたのでしょう。なぜならすでに化粧などの違和感に気づいていたからです。しかし命を奪った方法がどうしても不明だった。そこで夕食での会話に何かヒントがあるのではと考え、ブラックと連想ゲームをしてみたのだと思います。
ドラマについて
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1991年に本物語を放送しました。以下は原作との主な相違点です。
- マルトラヴァーズが胃潰瘍の術後
- ポアロが小説の結末の相談だと気づかずにホテルに呼ばれる
- バーナードがマルトラヴァーズを検診している
- ポアロが警官に道を譲らなかったため捜査に関わることになる
- ローリンソンというマルトラヴァーズの秘書が出てくる
- ジャップが保険金のことを話す
- バーナードの病院からクロロホルムが消える
- ホテルのオーナーにマルトラヴァーズの変装をさせる
- 東アフリカの新聞で計画を思い付く
- 絵でアリバイ工作をしている
- 猟銃を隠す際にカラスの卵を落としている
- 怪奇現象はマルトラヴァーズを不安にさせるためにしたこと
- 蝋人形館に行く
物語は原作に則っているものの、ところどころ変更・追加点があります。まずはポアロが捜査に関わることになったきっかけ。ホテルのオーナーが執筆中の小説の結末をポアロに相談するなんていう、まったく関係のないところから物語が始まりました。
実質事業を任されかつてマルトラヴァーズと関係を持っていたローリンソンという秘書が、容疑者候補として追加されています。また、バーナードの病院からクロロホルムが盗まれ、防衛集会でガスマスクを着けたマルトラヴァーズ夫人が気絶。その場にいたブラックに疑いがかかりますが、これは夫人の自作自演でした。
ふざけているとしか思えなかった蝋人形も、ホテルのオーナーがマルトラヴァーズに変装する際に使用されます。そして最後、館に展示されている自身の蝋人形を、ポアロはヘイスティングスとジャップに紹介。二人は無視しチャップリンの蝋人形に感動したフリをして、ポアロをいじるオチでした。
感想
意識下の記憶を言葉の連想から探る調査が面白かったです。言葉そのものの意図だけではなく、即答しているため隠し事はないと断定したところも。ただ「マネー」に対する「弁護士」は、なんとなく恨みのようなものを感じます。ブラックは過去に何かあったのかもしれません。
ポアロは自白を引き出すため降霊術を行ないましたが、本当に証拠はなかったのでしょうか。例えば切手を買いに行ったときの足取りを追うとか、もう少し捜査しても良かったのではないかと思います。それに保険金が払われないうえに恐怖による自白をさせられ、マルトラヴァーズ夫人は二重のショックを受けたでしょう。自業自得ですが、ポアロも結構酷なことします。
ポアロはバーナードに会った後、ヘイスティングスに印象を聞き次の返しをしました。
きみの人物判断はいつも読みが深いからな
出典元:ハヤカワ文庫『ポアロ登場(マースドン荘の悲劇)』アガサ・クリスティー/真崎義博訳
最後にもちろん覆されて、「何も見ていないんだな」と言われる始末。ただ意識下では、マルトラヴァーズ夫人の化粧に気づいていたと思います。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
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