まだらの紐(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

まだらの紐(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『まだらの紐』。この物語は、ホームズに相談に来た女性の姉が「まだらの紐」という奇妙な言葉を残して息絶えた、『シャーロック・ホームズの冒険』に収録されている短編小説です。

そこでこのページでは、真相やトリックなど本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

登場人物

『まだらの紐』の登場人物は以下です。

登場人物名 説明
シャーロック・ホームズ 私立探偵
ジョン・H・ワトスン 医師
ヘレン・ストーナー グリムズビー・ロイロットの義理の娘
ジュリア・ストーナー ヘレン・ストーナーの双子の姉
グリムズビー・ロイロット ストーク・モーランのロイロット一門の末裔
パーシー・アーミテージ ヘレン・ストーナーの婚約者

あらすじ

グリムズビー・ロイロット博士の義理の娘であるヘレン・ストーナーが、ワトスンもまだ寝ているほどの早朝にホームズを訪ねてくる。ロイロット博士はインドから動物をはるばる取り寄せ、友人と呼べるものはジプシーだけという気難しい人物だとヘレンは前置きをした。

2年前に双子の姉・ジュリアが原因不明の痙攣で亡くなったのだが、話に聞いた口笛の音を耳にし怖ろしくなったというのがホームズを訪ねた理由。さらにジュリアは「まだらの紐よ!」と、息絶える間際に妙な言葉を叫んでいたという。

解説と考察

それでは本物語の解説と考察に移ります。

犯人とトリック

ジュリアを亡き者にしヘレンの命をも奪おうとしていたのは、義父のロイロット博士でした。動機はお金。亡き妻の遺産による収入が毎年あったのですが、娘が結婚することで自分の懐に入るお金が減ってしまうため阻止したかったのです。

ロイロットが命を奪うのに用いたのが、インドに生息し噛まれたら10秒以内に命を落とす蛇。舞台装置として用意したのが、ロイロットとジュリアの部屋をつなぐ通風孔、通風孔につながれた呼び鈴の紐、呼び鈴の真下に固定されたベッドです。蛇は通風孔に解き放たれ、呼び鈴の紐を伝い、寝ている人物を噛む。痕は検視官も普通は見逃してしまうと、ホームズは説明しています。

そして蛇は口笛と牛乳でロイロットの部屋に戻ってくるよう躾けられていました。ヘレンが聞いたガチャンという音は、蛇が通常飼われていた金庫が閉まる音。ジュリアが口にした「まだらの紐」とはそのような姿の蛇のことで、ロイロットの部屋の上の方を指差したのは通風孔を知らせたかったのでしょう。

矛盾・不合理

本作に登場する蛇は空想上の生き物ですが、現実に生息するものだとすると不合理な点が多くあります。具体的に指摘されている点は以下です。

  • 牛乳で餌付けされない
  • 音を認識できない
  • なめらかな紐を移動できない
  • 金庫で飼っていたら窒息する
  • 噛まれて10秒以内で絶命

少し補足すると、蛇には耳がありません。したがって音を認識できないと言われています(狭い範囲の音は認識できる)が、地面を伝わる振動には敏感に反応します。また、蛇が木に巻き付いているのを見たことがある人も多いと思います。あれは体を枝に引っかけて、バランスを保ちながら移動しているのです。

上記の矛盾点を合理的にできるとすれば、紐と金庫でしょうか。紐にはもしかしたら蛇が体を引っかけられるような部分があったのかもしれないですし、金庫にはごく小さな空気穴があったのかもしれません。ただそんな不自然な部分があれば、ホームズが調査で気づいたはずです。

ドラマについて

ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1984年に本物語を放送しました。以下はキャストと、原作との主な相違点です。

登場人物名 役者名
シャーロック・ホームズ ジェレミー・ブレット
ジョン・H・ワトスン デビッド・バーク
ドクター・グリムズビー・ロイロット ジェレミー・ケンプ
ヘレン・ストーナー ロザリン・ランドー
ジュリア・ストーナー デニス・アーモン
ハドスン夫人 ロザリー・ウィリアムズ
原作との相違点
  • ロイロットがファリントッシュ夫人からの手紙を読む
  • ヘレンとジュリアが双子じゃない
  • ワトスンがクームスにインド時代のロイロットのことを聞く
  • ワトスンがホームズに倣って足跡を調べる
  • ホームズとワトスンが待機するのが狩猟小屋
  • 一部のセリフの話し手が変わっている

おおよそ原作通りですが、少し変更・追加点があります。セリフの話し手について補足すると、ジュリアがマッチを持っていた理由、バンドが集団である可能性、建築技師として邸に来たことがワトスンのセリフに変更。そしてヘレンがお金でなだめたことを、御者がホームズらに話します。

ドラマの見どころの1つがトリックの再現方法でしょう。呼び鈴の紐はかなり太く、換気口も小さな孔ではなく最新式。主にエンディングで蛇が伝わる様子を映していますが、ズームしてうまく撮っているように思います。

原作にもある火かき棒のくだりは笑いました。ホームズも腕力を見せつけ真っすぐに戻しますが、中央付近はやや曲がったままです。

感想

不合理さはあるものの、密室を突破するアイディアはとても面白いと思いました。発想がユニークであり、想像できてしまうところがこの物語が魅力的な理由でしょう。ミステリー的には未知の凶器の部類なので、やや反則ではありますけどね。

謎だったのはヘレンの母がロイロットと結婚した理由です。かんしゃく持ちでお金を持っていたわけではなく、良いところが1つも描かれていません。父親という存在を欲していたのか、または世間から疎まれていたのに同情して結婚したのでしょうか。もしかしたらインドにいたときは魅力的だった可能性はあります。

本作の原題は「The Adventure of the Speckled Band」です。日本語では「まだらの紐」と訳されていますが、原文であれば「Band」の部分を「群れ(ジプシーのこと)」と「紐」の2パターンが考えられます。このミスリードにホームズも引っかかってしまうわけですが、次の言葉が印象的でした。

不十分な資料で推理するのが常に危険を伴うという好個の実例だよ

出典元:新潮文庫『シャーロック・ホームズの冒険(まだらの紐)』コナン・ドイル/延原謙訳

推理小説の中だけではなく、現実でもその情報が本当に正しいのかどうか見極める必要があると思います。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。

その他のホームズ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。