六つのナポレオン(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『六つのナポレオン』。この物語は、ナポレオン像が立て続けに破壊された理由を探る、『シャーロック・ホームズの帰還』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、本作品の結末などの解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『六つのナポレオン』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
シャーロック・ホームズ | 私立探偵 |
ジョン・H・ワトスン | 医師 |
モース・ハドスン | 画商 |
バーニコット | 開業医、ナポレオン像の購入者 |
ホレス・ハーカー | 「セントラル・プレス通信社」の記者、ナポレオン像の購入者 |
ベッポ | イタリア人のならず者 |
ハーディング | 「ハーディング・ブラザーズ商会」の支配人 |
ジョサイア・ブラウン | 「ラバーナム荘」の住人、ナポレオン像の購入者 |
サンドフォード | レディングの住人、ナポレオン像の購入者 |
ピエトロ・ヴェヌッチ | ロンドンの悪人 |
ルクレディア・ヴェヌッチ | 公妃のメイド |
レストレード | スコットランドヤードの警部 |
あらすじ
「ナポレオン像を片っ端から破壊する、などといういかれた輩がいるらしい」。
もはや日課になったと言ってもいい訪問で、レストレードはホームズとワトスンに報告を始めた。
四日前に絵画や彫刻を扱うモース・ハドスンの店で一つ目、昨夜にバーニコットが経営する病院で二つ目と三つ目の破壊が発生。そんな報告を聞いた翌日、まったく同じナポレオン像がある家で、身元不明の息絶えた男性が発見されたのである。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
ナポレオン像を破壊した人物と動機
ナポレオン像を次々に破壊していった人物は、ベッポというイタリア人の前科者でした。動機はナポレオン嫌いではもちろんなく、逮捕される前に胸像に隠したボルジア家の黒真珠を回収するため。ホームズも「絶好の隠し場所」というほど、うまい手段でした。
では、なぜピエトロ・ヴェヌッチを亡き者にしてしまったのか。ピエトロとベッポは一年前に黒真珠を盗んだ際の協力者。ところがベッポに黒真珠を独り占めされると思ったピエトロが、迫った際に刺されて命を落としてしまったというのが顛末です。
少しわかりづらいのが六つのナポレオン像がたどった経路だと思うので、以下の図にまとめておきます。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。
結局、黒真珠が隠されていたナポレオン像は最後の一つ。確率にして約0.14%。ベッポの運が悪過ぎとしか言いようがありませんが、「悪事を働くとこういうことになるよ」という観点では必然だったのかもしれません。
バターとパセリ
本編とはあまり関係ありませんが、レストレードの話を聞いているときホームズがこんな発言をしていました。
あれも暑い日にパセリがバターに沈んでいることを僕が目に留めたことから始まった
出典元:角川文庫『シャーロック・ホームズの帰還(六つのナポレオン像)』コナン・ドイル/駒月雅子訳
この状況から何を特定できたのか、考えてみたいと思います。
◆ 凶行に及んだ時刻の推定
バターが溶ける温度は約30度。また、イギリスは最高気温で30度を超えることがあまりありません。したがって何かしらの凶行は、30度を超えていた時間帯に行われたのだと推定できます。
ただし問題が一つあります。それは凶行とバターを出した時刻に差異がある場合です。仮にバターを出したのが30度を超える時間帯ではなかったとしましょう。その後、別のことをし始めてしまったなどの理由でバターを放置してしまい凶行に及ばれてしまった。そしてそのまま30度を超える時間帯を挟めば、放置されているバターは溶けてしまうのです。
よって時刻が推定できるという仮定は、凶行とバターを出したタイミングが同じである場合に限り成り立ちます。
※ちなみに近年、温暖化によりイギリスでも30度を超える日が連続して問題になっています。
◆ 凶器の特定
気温ではなく、部屋の温度が上がっていたからバターが溶けたとも考えられます。状況的にそれが起こるのは火を使っている調理中。何者かに襲われたタイミングとも考えられますが、バターやパセリを口にしてしまったから命を落としたという可能性もあります。
この場合気になるのは、明らかな証拠であること。警察でも特定できそうな証拠を、わざわざホームズが誇らしげに言う理由がわかりません。強引に理由を作るならば、「溶けてわからなくなっていた凶器をホームズが特定した」などでしょうか。また、「暑い日」というのがほとんど無関係になるのも、この仮定を違うと思わせる要素です。
◆ 証拠の隠滅
上の二つは、30度を超えた環境が自然に起こった場合を想定したものでした。しかし凶行に及んだ人物が敢えてバターを溶かしたとも考えられます。ではなぜバターを溶かさなければならなかったのか。もみ合った際にべっとり付着した指紋の消去、などの証拠隠滅がいちばんありそうな理由です。
ほかにも動機の線から考えてみましたが、「バターとパセリがきっかけに起こる凶行って何ぞや」と思い断念しました(「バターとパセリを使った料理作ってんじゃねぇよ」とか?)。個人的にいちばんありそうだと思う仮定は一つ目。ただしお気に入りは三つ目です。
ドラマについて
ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1986年に本物語を放送しました。以下は原作との相違点です。
- 些細なことエピソード(バターとパセリ)をワトスンが話す
- ハーカー宅へ行くときにワトスンがホームズを急かす
- ホームズとワトスンが遺体を見に行く
- モース・ハドスンがナポレオン像を六つ仕入れており顧客名を教える
- レストレードが待つのをいら立ってないフリをする(ホームズとワトスンにはお見通し)
- チジックでワトスンがレストレードとともに寒がりキャンディを食べる
- ワトスンが髭を剃っている最中にホームズがヴェヌッチ父と接触
- ホームズがテーブルクロス引きをする
- ベッポが処刑される
大まかには原作通りですが、ところどころに変更が施されています。いちばんはナポレオン像を売ったモース・ハドスンの役割。原作では半分の三つに関わるだけでしたが、ドラマでは六つすべてを仕入れ顧客の名前までホームズに教えています。
それに伴い、ハーディング・ブラザーズ商会の存在はカット。おそらく物語をシンプルにするため(尺の問題もあるかもしれません)、登場するお店を一つ減らしたのだと思います。
レストレードが頻繁に登場しますが、そのたびにお笑い要素があるのも印象的。また、六つ目のナポレオン像を破壊するときにホームズがさりげなく行ったテーブルクロス引き、鮮やかでした。
感想
「ナポレオン像が次々に破壊されていく?なにその変てこりんな謎」。最初の二ページを読んで思ったことで、どんな真相が隠れているのかと引き込まれてしまいました。一見すると変な謎も、ベッポ側からすれば筋道の通ったもの。物事の一面を見るだけではすべてを判別できないという、教訓にもなる作品だと思います。
また、ホームズが珍しく照れるのも印象的。さすがに黒真珠発見の鮮やかさは、ホームズ自身もしてやったりだったのでしょう。もちろん、気を許しているワトスンとレストレードの前だからこそ見せた顔だと思います。
上でも取り上げましたが、ホームズが解決したというアバーネッティ家の謎とは何だったのか。暑い日にパセリがバターに沈んでいる…。そのあたりも想像してみると面白いかもしれません。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のホームズ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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