ノーウッドの建築業者(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『ノーウッドの建築業者』(『ノーウッドの建築家』『ノーウッドの建築師』と訳されているものもある)。この物語は、その名の通りノーウッドに住んでいる建築業者が命を落とした謎を追う、『シャーロック・ホームズの帰還』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、本作品の真相などの解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『ノーウッドの建築業者』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
シャーロック・ホームズ | 私立探偵 |
ジョン・H・ワトスン | 医師 |
ヴァーナ | 医師、ホームズの遠い親戚 |
ジョン・ヘクター・マクファーレン | 弁護士 |
ジョナス・オールデイカー | 建築業者 |
レキシントン夫人 | オールデイカーの家政婦 |
レストレード | スコットランドヤードの警部 |
あらすじ
モリアーティが命を落としてからホームズの周りは索漠としていた…わけではないが、突然ベーカー街のアパートに男が駆け込んでくる。名前はジョン・ヘクター・マクファーレンといい、建築業者のジョナス・オールデイカーを亡き者にした嫌疑で追われているというのだ。
現場の部屋には血痕の付いたマクファーレンのステッキが残され、オールデイカーは跡形もなく黒焦げとなって発見。奇妙なのは、オールデイカーが直接知らないマクファーレンに全財産を譲るという遺言書を作成していたことだった。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
真相と数々の状況証拠
一連の騒動の真相は、焼かれて命を落としたと思われていたオールデイカーの狂言でした。動機は取り立て屋から逃げることに加え、昔婚約を破棄されたマクファーレンの母親への復讐。自分のプライドを傷つけたかつての恋人に何とかして絶望を与えようという恐ろしい執念深さが、息子を陥れることに発展したものでした。
当初、レストレードはマクファーレンが手を下したと断定。その説は、次の状況証拠により裏付けられていました。
- 遺産がマクファーレンのものになるという書類を作った直後の出来事
- マクファーレンのステッキが落ちていた
- 焼け跡の中からオールデイカーのボタンを発見
- 現場の部屋には足跡が二組しかなかった
現場に行ったホームズでしたが、何も手掛かりがつかめずいら立ちます。ところが翌日、壁になかったはずの指紋が新たに発見されたことで、ホームズは勝利を確信。火事を偽装して隠れていたオールデイカーをおびき出し、黒幕の逮捕に至ります。
オールデイカーが余計なことをしなければ、危うくホームズは敗北するところでした。ホームズ自身は「芸術家の天稟に欠けていた」と言っていますが、しっかりと現場を隈なく調査したことの賜物でしょう。
焼け焦げた遺体について
オールデイカーは自分の焼け焦げた遺体を、動物を使って偽装しました。しかしこれには無理があります。なぜなら、焼けた後でも骨は少なからず残っているはずだからです(動物質も残っていましたしね)。
骨の研究が当時どこまで進んでいたかはわかりませんが、少なくとも人間の骨を見分けるくらいは出来たはず。マクファーレンだと思ったうえに、捜査開始時でそこまで目を向けてなかったのか。ホームズともあろう人がその点に気付かなかったのは謎です。
余談ですが、ホームズはノーウッドへ行く前にマクファーレンの母親に話を聞きに行きます。そこで聞いた「鳥小屋の中に猫を放した」という話は、もしかしたら伏線だったのかもしれません。
ドラマについて
ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1985年に本物語を放送しました。以下は原作との相違点です。
- ホームズが平和なロンドンを街中で嘆きながら帰るとマクファーレンがいた
- 遺言書のおかしな特徴をワトスンにだけ話す
- ブラックヒースなどの初期調査にワトスンもついていく
- ホームズが荒らされた現場に文句を言う
- 書類や通帳をワトスンが調べる
- 隠れ家が偽の暖炉の奥になっていて結構広い
- 焼け焦げた遺体が元船乗りのホームレスになっている
いちばん大きな違いは、焼け焦げた遺体の偽装でしょう。原作ではウサギや犬などの動物を使ったと結論付けますが、ドラマでは元船乗りのホームレスという人間を使用。それに伴い謎の合図を見て怪しいと踏んだホームズが、ホームレスに扮して話を聞きだすシーンも追加されています。
また、落ち込んだホームズが「今日は君の存在が心強いよ」と弱音を吐きました。しっかりとしたシーンはありませんでしたが、その際にワトスンに促されて朝食を食べてから出かけたようなに感じになっています。自身の理論を曲げて口にしたのかどうか。気になる点の一つです。
感想
本作品で印象に残ったのは、ホームズが捜査し始めるときに語った次の言葉です。
第一の出来ごとのほうを一応明らかにしておくのが、事件全体を究明する上において、理論的に正しいと思う。
出典元:新潮文庫『シャーロック・ホームズの叡智(ノーウッドの建築師)』コナン・ドイル/延原謙訳
全体を把握すれば見えなかったものが見えてくることもある。広い視野で物事を見ることがいかに重要かを指し示している言葉だと思います。
また、6フィート(約1.8メートル)だけ短い廊下に気付いたホームズの観察眼が凄い。もちろん新たに発見された指紋でオールデイカーが屋敷内にいると確信したことも、観察を鋭くさせた要因でしょう。自分だったらもし気付いても、「そういう設計なのかもな」と流してしまいそうです。
ホームズとレストレードの嘲笑の応酬も面白いポイント。二人の器の小さな面が遺憾なく発揮されています。そんなホームズでしたが、最後にはレストレードに手柄をすべて渡す優しさを見せます。もともと手柄には興味ないんですけどね。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のホームズ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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