ベールをかけた女(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

ベールをかけた女(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

アガサ・クリスティーのポアロシリーズ『ヴェールをかけた女』。この物語は、ヴェールをかけた美女から手紙を取り返すよう依頼される、『ポアロ登場』に収録されている短編小説です。

そこでこのページでは、結末など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

登場人物

『ヴェールをかけた女』の登場人物は以下です。

登場人物名 説明
エルキュール・ポアロ 私立探偵
アーサー・ヘイスティングス ポアロの友人
レディ・ミリセント・キャッスル・ヴォーン アイルランドの貴族の五女
ジェームス・ジャップ スコットランドヤードの主任警部

あらすじ

ポアロが暇すぎて「チャー」などと叫んでいたので、ヘイスティングスは先日起きた白昼の宝石強盗の話をしてみた。宝石強盗を取り押さえた人の中に協力者がいて、模造品とすり替え本物を持ち去るという大胆な手口だったのである。

ポアロはまったく興味を示さないどころか文句さえ言う始末だったが、そのとき深々とベールをかけた美女が訪問。彼女は最近婚約を発表したレディ・ミリセントで、過去に書いた軽率な手紙をもとにゆすられているという。

解説と考察

それでは本物語の解説と考察に移ります。

結末

ポアロを訪ねてきたレディ・ミリセントは本物ではなく、ガーティという悪党でした。目的はラヴィントンが隠した宝石を手に入れること。ポアロのもとに現れたラヴィントンもガーティがこしらえた偽物で、本物はオランダで命を奪われていました。

ラヴィントンが宝石の入った箱を隠していたのは自宅の薪の中。積まれたいちばん下にあったうえに夏場に薪は使われないため、一時的な隠し場所としてうってつけでした。しかしポアロが家の鍵に細工をしてヘイスティングスとともに侵入し、長時間の捜索でなんとか発見に至ります。

レディ・ミリセントはガーティの偽物でしたが、箱に入っていた手紙は本物だったのでしょう。そうでないと中を見られたときに疑われてしまいますし、ポアロがギャング仲間に知られていたと話していることからも推察できます。したがってガーティは本物の手紙と自身の容姿を利用したうまい手を思い付いたと言えますが、ポアロに相談したことは大失敗でした。

謎解きのヒント

ポアロは最後、偽物だとわかった理由を次のように話しています。

本物のレディは、靴にはいつも気を遣うものさ。安物の服を着ていても、靴だけはいいものを履くんだよ。

出典元:ハヤカワ文庫『ポアロ登場(ヴェールをかけた女)』アガサ・クリスティー/真崎義博訳

しかし服装についての記述は、ヘイスティングスが感じた「シンプルだが高価な服」という部分だけ。靴のことを書いてないこと、つまりシンプルであることがヒントなのかもと思いましたが、高価ともあるためどっちとも取れてしまいます。

やはりタイトルにもなっているヴェールが最大のヒントでしょう。嫌でも目立ってしまうヴェールをかけてまで正体を隠そうとする理由は何なのか。恥ずかしいからではなく、パッと見で正体を見破られないようにする道具だと考えられれば勝ちです。

あとは読者の特権で書いてあることすべてに意味があると勘ぐれば、ヘイスティングスが最初に紹介した新聞記事とつなげられるのではと思います。

ドラマについて

デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1990年に『ベールをかけた女』というタイトルで本物語を放送しました。以下は原作との相違点です。

原作との相違点

  • 宝石が盗まれた話をジャップがする
  • ポアロとヘイスティングスがミリセントとホテルで会う
  • ヘイスティングスが無駄にラビントンを追いかける
  • ラビントン宅に侵入したポアロが捕まりヘイスティングスが窓を突き破って逃げる
  • 手紙の受け渡し場所が鳥獣博物館で逃走劇がある

内容は原作におおよそ則っていますが、最後にミリセント(ガーティ)とラビントン(ウェザリー)の逃走劇があります。警備員が間違えてジャップを確保。さらにジャップがはがすカバーから出てくる獣がいちいち笑ってしまいます。おそらくこれをやりたかったので、最後が博物館だったのでしょう。

また、ラビントン宅侵入時にポアロが逮捕されてしまいます。一方のヘイスティングスはポアロを裏切りあっさり逃走。窓を破る様はとてつもなく豪快でした。釈放後、ポアロはヘイスティングスを問い詰め、博物館でもちょっとした嫌味を言います。

感想

ヴェールという一つのものに、正体を隠したいという意図は同じでもその裏に真逆とも言える真実があって面白かったです。ただポアロは靴に気づいていたので、ヴェールの女性が窓の下を歩いていたときから怪しいと踏んでいたのでしょう。それをわかったうえで「面白い話かもしれない」と発言しているのだから、いやらしいというか何ともポアロらしかったです。

短い物語ながら、笑ってしまった要素が二つありました。一つはポアロとヘイスティングスがラヴィントン宅に侵入していた時間。見つからないからと言って4時間以上(0時から4時半くらい)も探していたなんて、いくらなんでもリスクが高すぎです。

もう一つはポアロが住居侵入を思い立ったときにヘイスティングスの頭の回転が急に速くなったこと。ヘイスティングスも悪事となると急に鋭くなるのかもしれません。ただ何より凄いと思ったのは、ヘイスティングスが冒頭で話した新聞記事の内容がすべて関連してきたこと。本人に自覚はなくとも、ある意味とんでもない能力と言えるのではないでしょうか。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。

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