最後の事件(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『最後の事件』。この物語は、ワトスンがホームズとモリアーティの間にあったことの顛末を綴る、『シャーロック・ホームズの思い出』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、本作品の結末などの解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『最後の事件』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
シャーロック・ホームズ | 私立探偵 |
ジョン・H・ワトスン | 医師 |
マイクロフト・ホームズ | シャーロック・ホームズの兄 |
ペーター・シュタイラー | イギリス旅館の主人 |
ジェームズ・モリアーティ | 元数学教授 |
あらすじ
ジェームズ・モリアーティ大佐が、亡くなった兄弟を擁護するような書面を世間に発表する。内容は事実をことごとく捻じ曲げたデタラメで、ホームズを誹謗し陥れるものでしかなかった。
唯一真相を知るワトスンは、ホームズの名誉を守るためにペンを執る。ロンドンにおける悪事の半数以上を仕組んでいたモリアーティと、人生を懸けて組織を壊滅させたホームズとの顛末を。
※詳しい攻防の内容は後述いたします。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
ホームズとモリアーティの攻防
ホームズがモリアーティと繰り広げた攻防は、自身が「燦然と輝く名勝負」と評するほど。次の表は、その名勝負を時系列に並べたものです(すべて1891年)。
日付 | 内容 |
---|---|
1月4日 | ホームズがモリアーティの行く手をさえぎる |
1月23日 | ホームズがモリアーティの足を引っ張る |
~2月半ば | ホームズがモリアーティを悩ませ通し |
3月末 | ホームズがモリアーティの計画をめちゃくちゃにする |
4月23日深夜 | ホームズとモリアーティが対峙 |
4月24日昼 | ホームズが荷馬車に襲われる |
4月24日昼 | ホームズの目の前にレンガが落下 |
4月24日夜 | ホームズが棍棒を持った男に襲われる |
4月24日夜 | ベーカー街のアパートが燃やされる |
4月25日朝 | ホームズがモリアーティを出し抜いて国外へ |
4月27日 | モリアーティが警察の手を逃れる |
5月1日くらい(※) | ホームズが落石で襲われる |
5月4日 | ホームズとモリアーティが最期を迎える |
(※)具体的な日付は書かれていませんが、ダウベン湖はスイスにあり、ストラスブールからは約280キロ、イギリス旅館のあるマイリンゲンからは80キロほどの場所。したがって移動のペースを考えると、5月1日を基準にして前後1日の間に落石で襲われたと考えられます。
ライヘンバッハの滝で罠の手紙であることを知りながらもワトスンを見送り、一人になったホームズはふたたびモリアーティと対峙。もみ合った末に二人は断崖絶壁から転落したと、ワトスンも警察も断定しました。最高の友人である、ワトスンに手紙を残して。
モリアーティという人物
ここでモリアーティという人物について考えてみたいと思います。まずは容姿と経歴です。
【容姿】
- 長身瘦躯
- 白い額が半球形に張り出している
- 目は深く落ちくぼんでいる
- ひげは生やしていない
- 青ざめた顔
- 禁欲主義者を思わせる厳粛な面持ち
- 丸まった背中
- 突き出した首
- 爬虫類のように顔を左右に動かしている
【経歴】
- 良家の生まれ
- 立派な教育を受ける
- 21歳で書き上げた二項定理の論文でヨーロッパ中を風靡
- 大学で数学教授を務める
- 陸軍お抱えの個人教師に就く
モリアーティは組織を形成し、自身の才を生かしてあらゆる悪事の計画を企てます。いかにも不気味な印象の容姿は、おそらくそれまで数多の悪事に手を染めてきたがゆえに表れたものでしょう。
ではモリアーティという人物を作り上げた原因は何なのか。人間の性格は「遺伝」と「育った環境(人間関係や経験)」で決まると言われています。あまりの豊かな知性で傲慢になってしまった可能性もありますが、幼少・少年期に性格を歪ませるような何かがあったのではないでしょうか。描かれていないモリアーティの育った環境がどのようなものだったのか、そんな側面にも考えを巡らせると面白いのではないかと思います。
ドラマについて
ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1985年に本物語を放送しました。以下は原作との相違点です。
- ワトスンが短い旅行から帰って来たときの出来事になっている
- ホームズがフランスから依頼された案件がモナリザの盗難になっている
- モリアーティが赤髪連盟の黒幕になっている
- ホームズとワトスンが逃走中に銃で撃たれる
原作ではワトスンは結婚して別の家で暮らしていましたが、ドラマでは短い旅行からベーカー街のアパートに帰って来たことになっています。その変更に伴いハドスン夫人も登場。疑わしい気持ちを持ちながら、モリアーティをアパートに入れています。
また、ホームズがフランスから依頼されたモナリザの盗難にモリアーティが関与。つまりモリアーティの手が、ロンドンに留まらずフランスにまで伸びていたことになっています。この盗難の真相をホームズが解決したことが決め手となり、モリアーティがホームズと対峙。最後の攻防に発展していきます。
最後のシーンで使われたのは、スイスにある実際のライヘンバッハの滝(Googleマップ)。ホームズとモリアーティの転落は、二人に扮したスタントマンが行ったそうです。
感想
かつて依頼人に対しての感情を持たないため機械人形と言われたホームズでしたが、やはりワトスンは特別だったのでしょう。自分には出来ない人間らしい行動を素直にできるワトスンは、羨ましくもあり心温まる存在だった。ひょんなことから出会った二人でしたが、やはり運命だったのだと思います。
そして最後、ワトスンがホームズに倣って推理するのも感動的です。それまでもしてきたことはありましたが、まったくの的外れでホームズからは何度もツッコミを入れられていました。最後の最後でそれが警察の見解と一致する推理だったというのは、皮肉ながらもワトスンが本気でホームズを尊敬していたからこそできたことだと思います。結局その後、間違っていたことになっちゃうんですけどね。
命を落とすという結末にしたのは、作者のコナン・ドイルがシャーロック・ホームズシリーズを終わらせたかったから。ところが実時間で約10年を経て、ホームズは復活することになります。遺体が上がらなかったことはカッコよさと謎を残しておきたかったからでしょう。ただもし発見されていたら、少し状況は変わっていたかもしれません。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のホームズ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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