プリマス行き急行列車(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アガサ・クリスティーのポアロシリーズ『プリマス行き急行列車』。この物語は、プリマス行きの急行列車の中から資産家の娘の遺体が発見される、『教会で死んだ男』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、真相など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『プリマス行き急行列車』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
エルキュール・ポアロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポアロの友人 |
エビニーザ・ハリデイ | アメリカの鉄鋼王 |
フロッシー・キャリントン | エビニーザの娘 |
ルーパート・キャリントン | フロッシーの夫 |
ジェーン・メイソン | フロッシーのメイド |
アルマン・ド・ラ・ロシュフール | フロッシーの元恋人、伯爵 |
レッド・ナーキー | 宝石泥棒 |
アレック・シンプソン | イギリスの海軍大尉 |
ジェームス・ジャップ | スコットランドヤードの主任警部 |
あらすじ
プリマス行き急行列車の一等客室の座席の下から、派手な格好をしたフロッシー・キャリントンの遺体が発見される。フロッシーはアメリカの鉄鋼王エビニーザ・ハリデイの令嬢で、お金にだらしないルーパート・キャリントンとは離婚寸前だった。
付き添ったメイドのジェーン・メイソンによると、フロッシーは予期せぬ男性に出会ったことで急遽予定を変更。ブリストルでは降りず、ジェーンには手荷物を駅に預けて待っているよう指示したという。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
黒幕とトリック
フロッシーを亡き者にし宝石等を奪ったのは、メイドのジェーンと協力者のレッド・ナーキーでした。ジェーンの正体はグレーシー・キッドという札付きの悪。警察でも名の知られた、人の命を何とも思わない有名な宝石泥棒でした。
次の図は「証言や証拠から想定された行動」と「実際に起こっていたこと」を比較した図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。
フロッシーの命が実際に奪われたのは、パディントンとブリストルの間です。その事実を隠すため、ジェーンは派手な服に着替えフロッシーになりすましました。ブリストルで降りて手荷物を預けるのは、ナーキーにやらせておきます。
フロッシーが生きているとより印象付けるため、ジェーンはウエストンで雑誌を購入。新聞売り子と服の話をし、チップをはずんで目立つ行動をとりました。極めつけに凶器を投げ捨て、フロッシーの命が奪われたのがウエストンとトーントンの間だと見せかけます。
そして派手な服から着替え、ジェーンはトーントンで下車。急いでブリストルまで戻り、ナーキーと入れ替わって上りの電車がなくなるまで待機します。あとは電車の中に男がいたと証言すれば、ブリストルで降りた自分には疑いがかからないと踏んだわけです。
フライング・ダッチマン
本作ではプリマスをはじめ、イギリスにある実際の駅名(地名)が登場します。では急行列車も本当にあったのでしょうか。調べてみると、「フライング・ダッチマン」という愛称が付けられた列車がはじまりのようです。
フライング・ダッチマンは、19世紀半ばに活躍した競走馬から取られたもの。ほぼ無敵の戦績を誇ったスピードから愛称を付けたのでしょう。ただし列車のフライング・ダッチマンは1892年に最後の運転を迎えているので、ポアロがロンドンにいた時代はその後輩ということになります。
ちなみにイギリスには、フライング・ダッチマンという幽霊船の伝承もあります。映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』に出てくる同名の船のモデルにもなっているので、聞いたことがある方も多いかもしれません。
ドラマについて
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1991年に本物語を放送しました。以下は原作との主な相違点です。
- ハリデイがオーストラリア人
- ハリデイがポアロの事務所を訪問しロシュフールの排除を依頼
- ポアロとヘイスティングスが実際に列車に乗って捜査する
- 新聞売り子に話していたのが「遅版が欲しい」という内容
- ロシュフールがハリデイの会社の株で儲けて勾留される
- グレース・キッドの相棒がマッケンジー
- マッケンジーがポアロ訪問後に警察によって捕まる
- ルーパートが宝石の受け取りを辞退する
- ヘイスティングスが株の話をしてうるさい
物語は原作におおよそ則っていますが、フロッシーが息絶えるまでの過程が序盤に加わっています。それに伴いハリデイがポアロに相談した内容が、付きまとっていたロシュフールの排除に変更。レストランでポアロとヘイスティングスが二人を監視した翌日、フロッシーが遺体で発見され原作の内容につながっていきます。
また、原作ではジャップら警察が捜査した新聞の売り子への聞き込みが、ポアロとヘイスティングスの行動に変更。さらにグレース・キッドの相棒の名前がマッケンジーになり、ポアロが青いドレスを見つけたことで逮捕に至ります。
ロシュフールはハリデイのイエロークリーク鉱山会社の株で儲けてしっかり悪人でした。しかしルーパートの方は最後、宝石の受け取りを辞退。妻が亡くなったことで得られる利益などいらないと、少しだけ情のある部分を見せます。
感想
アリバイトリックは人間が抱く印象を利用していて巧みだなと思いました。ただポアロに服のことを話したり、新聞の売り子にチップをはずんだのはやり過ぎ。目撃情報が出なかったら計画が崩れる不安はあったと思いますが、駅員の前をぶらぶらするくらいのさりげない行動でも良かった気がします。
また、動機という心理面も面白いものでした。ロシュフールに関してはいわば金づるがいなくなるのだからあり得ない、ルーパートだったら足がつきやすい宝石をなぜ盗むのか。これにより二人以外が黒幕ということになりますが、ヘイスティングスの「物盗りにみせかけるため」論も一応は否定できません。
本作唯一の謎は、アリバイ作りに利用したのが新聞の売り子だとポアロが特定したこと。さすがに乗客やプラットフォームの人は警察が探しにくくなるため可能性は低いでしょう。しかし駅員や車掌など、いくらでも選択肢はあったはず。「もろもろの可能性を検討」とポアロは濁していますが、一体どういう推理で新聞の売り子に行きついたのか気になるところではあります。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
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