犯人は二人(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

犯人は二人(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『犯人は二人(恐喝王ミルヴァートン)』。この物語は、ホームズと恐喝王ミルヴァートンの対決を描いた、『シャーロック・ホームズの帰還』に収録されている短編小説です。

そこでこのページでは、本作品の結末などの解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

登場人物

本作の登場人物は以下です。

登場人物名 説明
シャーロック・ホームズ 私立探偵
ジョン・H・ワトスン 医師
チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン 恐喝王
エヴァ・ブラックウェル 社交界の花形
アガサ ミルヴァートンのメイド
レストレード スコットランドヤードの警部

あらすじ

ホームズとワトスンが夕方の散歩から帰ってくると、テーブルの上に恐喝王・ミルヴァートンの名刺が置いてあった。エヴァ・ブラックウェルから相談を受けたホームズが、交渉をするために呼び出していたのである。

アパートに来たミルヴァートンは、ホームズにどんな揺さぶりをかけられても動じず交渉は決裂。手も足も出ず悔しさをにじませたホームズは、反撃のために思いもよらない奇襲に打って出る。

解説と考察

それでは本物語の解説と考察に移ります。

対決の結末

ミルヴァートンとの交渉が決裂した後、ホームズは妙案も思いつかず強硬手段を取ります。それが、「ミルヴァートン宅に侵入し、ゆすりのもとになっている手紙を盗み出す作戦」です。侵入するために利用されたのがミルヴァートン宅でメイドをしているアガサで、なんとホームズは婚約までしちゃいました。

アガサに聞いて邸宅の状況を把握していたホームズは、ワトスンを伴い深夜に侵入。金庫をこじ開けたそのとき、物音がしたため二人はカーテンの陰に隠れます。やってきたのは寝ていたはずのミルヴァートンで、さらに30分後、破滅に追い込まれた一人の女性が登場。ミルヴァートンは女性に撃たれ、思わぬ形で最後を迎えます。

隠れていたホームズはすかさず手紙を暖炉に放り込み、ワトスンとともに逃走。なんとか逃げおおせますが、途中でワトスンが追手に足を掴まれてしまいます。翌朝、レストレードがミルヴァートンの命を奪ったのが二人組だという情報を持ってホームズを訪問。つまりタイトルの『犯人は二人』は、ホームズとワトスンを意味します。

女性の正体

最後にホームズがワトスンを連れて貴婦人の写真を見に来ました。鷲鼻、眉、唇など顔の特徴が一致しているので、ミルヴァートンを撃った女性とみて間違いないでしょう。では、この女性は誰だったのでしょうか。

まず、ミルヴァートンがベイカー街のアパートを訪れたとき例として出したマイルズ嬢。ドーキング大佐との結婚は、式の二日前に突然破談となっていました。つまりまだ結婚はしていなかった状態。したがって女性に大貴族にして偉大なる政治家の夫がいたことから、マイルズ嬢ではないと判断できます(ドーキング大佐が貴族でないことからも判断できます)。

女性がミルヴァートンと対峙したときの話によると、彼女の夫は自ら命を絶っているようです。この情報から思い出されるのが、ホームズが冒頭でミルヴァートンのことを説明するときに話した破滅に追い込まれた高貴な一族。女性はこの一族の妻だったのではないかと思います。ただし本物の貴族やその妻だった人物を悲劇的な形で物語に登場させるわけはないので、彼らはホームズ作品のオリジナルキャラでしょう。

ドラマについて

ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1992年に本物語を放送しました。以下は原作との違いの中で比較的大きな点です。

原作との相違点
  • ドーキング大佐がホームズに手紙を残していた
  • ヴァイクという執事がミルヴァートンの下にいる
  • 途中でハドスン夫人やレストレードが出てくる
  • ホームズとワトスンがミルヴァートンの屋敷に下見に行く
  • ワトスンが絵画の前でミルヴァートンと対面する
  • エヴァとシャーロットが知り合い
  • 舞踏会中にホームズとワトスンがミルヴァートンの屋敷に忍び込む
  • 最後にホームズとワトスンが警察に疑われない

ストーリーは原作に則ってはいますが、一つ一つの場面を大きく膨らませて二時間に仕立てています。序盤のダイアナ(原作では名前は出てこない)の一件は最後の伏線になっていますし、シャーロットとドーキングの婚約破棄も詳細な経緯を追加。そして12年前にクロフト弟に撃たれた従僕が、ミルヴァートンの執事に収まっています。

情報集めのためとはいえ、珍しくホームズのロマンスがあるのも特徴。衝撃のキスシーンは、イギリスの新聞で見出しになるほどだったそうです。ドラマの後半、ホームズが屋敷を訪れた際に見せた相手の女性・アガサの表情は、声を聞いて正体に気付いたからでしょう。

タイトルの回収は暗黙の了解にしています。原作のレストレードがベーカー街のアパートに来て、絶命したミルヴァートンの調査をホームズに依頼。手を下したのが二人と聞いたホームズが冗談めかして依頼を拒否する、という場面はなくなっています。

感想

ミルヴァートンが構成したビジネスモデルは極悪ながら非の打ち所がないと思いました。いちばん搾り取れそうなタイミングでゆすり、応じなかったとしたら普通に実行に移す。結果、それが間接的に別のターゲットの恐怖につながり、その後の交渉をやりやすくする。情報は高値で買い取るため、お金目当てに持ち込む人間はいくらでもいる…。

止める方法として考えられるのは、元手となっている資金を絶つか偽の情報をつかませることでしょうか。しかし冷静で頭も良いミルヴァートン。情報は慎重に精査するでしょうし、いずれの手段にしても潜入捜査のような危険が伴います。

また、「暗がりでも物が見える超人的な視覚」や「小さな物音も逃さない鋭い聴覚」という、ホームズの特殊能力が面白かったです。緻密な訓練で身につけたとワトスンは語っていますが、いったいどんなものなのか…。そして極めつけに面白かったのがワトスンの次の思考。

恐怖心はすでに薄れ、湧き上がる快感でぞくぞくした。法を破っているにもかかわらず、法を守る立場だったときよりも強い興奮を味わっていた。気高い使命感、騎士道にかなった無仏の精神、極悪非道の敵に立ち向かう闘志、これらすべてが冒険心をますます刺激していたのだ。いまの私に罪悪感はみじんもなく、自分が立たされている危険に喜びと誇らしさを感じていた。

出典元:角川文庫『シャーロック・ホームズの帰還(恐喝王ミルヴァートン)』コナン・ドイル/駒月雅子訳

理性が崩壊して相当危ない感じになっちゃってます。それにしてもホームズは法の及ばないところに行っちゃったとはいえ、こんな自白本を書いてワトスンは大丈夫だったのでしょうか。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。