ソア橋のなぞ(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『ソア橋』。この物語は、金鉱王の夫人がソア橋で撃たれた謎を追う、『シャーロック・ホームズの事件簿』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、本作品の結末やトリックなどの解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『ソア橋』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
シャーロック・ホームズ | 私立探偵 |
ジョン・H・ワトスン | 医師 |
ニール・ギブスン | 金鉱王 |
グレイス・ダンバー | 家庭教師 |
マリア | ニール・ギブスンの妻 |
マーロウ・ベーツ | ニール・ギブスンの屋敷の管理人 |
ファーガソン | ニール・ギブスンの秘書 |
ジョイス・カミングズ | 弁護士 |
カヴェントリ | 巡査部長 |
あらすじ
一か月も平凡と沈滞に苦しめられていたホームズのもとに、金鉱王として有名なニール・ギブスンからの依頼が舞い込む。ギブスンの妻・マリアの命を奪った疑いをかけられているグレイス・ダンバー嬢の、潔白を証明してほしいというのだ。
証拠品やアリバイから、嫉妬を買ったダンバー嬢がマリアともみ合っているうちの悲劇とも考えられたが、本人はそれを否認。ギブスンが潔白を主張する理由は、好意を示した際に慈善に動くよう諭されたダンバー嬢の人柄だという。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
真相
マリアは亡き者にされたのではなく、自ら命を絶っていたというのが真実でした。命を絶つ決心をした理由は、夫・ニールからの愛情が冷め切っていたから。しかしマリアはただじゃ済まさず、ニールの愛を受けていたダンバー嬢が命を奪ったと疑われるよう偽装することにします。
マリアの計画は次の順序で遂行されました。
- ダンバー嬢に手紙を送り返事を書かせる
- ペアの銃の一つを一発撃ってからダンバー嬢の衣裳棚に隠す
- ソア橋でダンバー嬢を散々罵る
- ダンバー嬢からの手紙を握ったまま命を絶つ
- 用意していたトリックで凶器は池の中に消える
呼び出された手紙と衣裳棚の凶器が見つかり、ダンバー嬢黒幕説の完成です。
トリックについての考察
マリアが用いた凶器消失のトリックは、銃と大きな石を紐で結び付けた単純なもの。自分を撃った瞬間に手を離れた銃が、石の重みで池に沈んでいくという仕掛けでした。
気になったのはソア橋にできた傷跡。マリアが撃ったときにできたのはいいとして、ホームズの実験で形も大きさも寸分違わぬ傷跡ができたのは偶然だと思います。なぜならば銃は実際のとは違う形状。そして欄干に当たった銃の箇所によって、できる傷は変わるはずだからです。
次に、マリアのこめかみのすぐ後ろにできた銃創。おそらく自分を撃つ際、マリアは銃を皮膚に接したと思うので火傷の跡が残るはず。ダンバー嬢ともみ合った際の悲劇であれば、そのような跡は残りません。警察がそのことに目を向けなかったのは、当時法医学がそこまで発展していなかったからでしょう。
凶器を消失させ誰かに命を奪われたよう見せかけるトリックにはモデルがあります。それは実際にドイツで起こった事件。自ら命を絶ったのでは家族に保険金が支払われないため、誰かに撃たれたよう偽装した悲劇が元になっているそうです。
ドラマについて
ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1991年に『ソア橋の謎』というタイトルで本物語を放送しました。以下は原作との相違点です。
- ギブソンがベーカー街のアパートに戻ってこない
- ホームズとワトスンがダンバーと最初に面会したときにギブソンがやって来る
- ホームズがファーガソンを博物館に呼び出す
- ギブソンがホームズに経緯を話すのが自身の屋敷
- 手を下したのがギブソンだとワトスンが疑う
ストーリーはおおよそ原作通りですが、ギブソンがベーカー街のアパートに戻って事情を話さないことが大きな違い。予想が外れたホームズはひどく落ち込んでしまいます。ギブソンがホームズに事情を話すのは自身の屋敷でされ、なぜかアーチェリーをしながらでした。
ソアパレス(ギブソンの屋敷)とソア橋に使用されたロケ地は、「ケープスソーン・ホール & ソア・ブリッジ(Capesthorne Hall & Thor Bridge)」というカントリーハウス(Googleマップ)。レンガ造りが印象的で、緑のキレイな場所でした。
感想
マリアが命を絶ちダンバー嬢を苦しめようとしたのは、行き過ぎた愛情が原因です。だからこそニールが離れていったのだと思いますが、ただ寂しかっただけとも取れます。自分の欲しい気持ちが違う人に向けられる寂しさ。しかもそれはもともと自分が持っていたものなので執着してしまったのでしょう。
しかしやっぱり一歩引いた目線も必要だったと思います。ニールが本当にそこまで執着する相手なのかどうか。そういうときに頼りになるのが第三者の存在。マリアは屋敷にこもり切りな生活だったようなので、周りに相談できる人がいれば少しは違う道が開けていたかもしれません。
ソア橋での実験中、ワトスンの銃は池の中に沈んでしまいました。それでも何一つ文句を言わないワトスン。本当に寛大です。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のホームズ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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これは言わば時代劇ですからね。マリアの手の炎症反応や、銃の線条痕を今なら必ず確認しますね。
六さん、
ですよね。
本当に今の鑑定方法は、この当時に比べ発展したのだなと思います。
小3の時ポプラ社20巻を読破しました。最近、テレビでやってますと懐かしくて見ますが、終わってみると理解できていないことが多いです。確認に貴殿のページがありがたいです。
六さん、
お役に立ったようで良かったです。
ドラマだけだと細かい描写や背景などがわからなかったりしますよね。