海軍条約事件(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『海軍条約事件(海軍条約文書事件)』。この物語は、外務省の事務室にあった機密文書が少し目を離した隙に盗まれてしまった、『シャーロック・ホームズの思い出』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、真相など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
本作品の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
シャーロック・ホームズ | 私立探偵 |
ジョン・H・ワトスン | 医師 |
ハドスン夫人 | ベーカー街221Bの女主人 |
パーシー・フェルプス | 外務省職員、ワトスンの学友 |
ホールドハースト卿 | 外務大臣、パーシー・フェルプスの伯父 |
ジョゼフ・ハリスン | アニー・ハリスンの兄 |
アニー・ハリスン | パーシー・フェルプスの婚約者 |
チャールズ・ゴロー | パーシー・フェルプスの同僚 |
タンギー | 外務省の管理人 |
フェリア | 医師 |
フォーブズ | スコットランド・ヤードの刑事 |
あらすじ
結婚して間もなくの7月、ワトスンは「おたまじゃくし」というあだ名で学友のパーシー・フェルプスから手紙を受け取る。責任と名誉ある地位をおびやかす恐ろしい不運に見舞われたので、ホームズと一緒に来てほしいというのだ。
不運とは秘密条約の写しを作成している最中、目を離した少しの間に原本を盗まれてしまったこと。外務省の管理人やその妻、直前まで残っていた同僚に疑いがかかるが、原本が見つからないまま9週間が経過していた。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
真相
すべての黒幕はジョゼフ・ハリスンでした。動機はお金。ジョゼフは株で大損しており、妹のアニーやパーシーの名誉がどうなっても構わないと考えるような性格の持ち主だったのです。
機密文書が盗まれた夜の出来事を図にすると次のようになります。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。
まんまと逃げおおせたジョゼフは自室の床下に文書を隠しました。そして翌日以降に高値で買い取ってくれそうなところに売りつけるつもりでしたが、予想外の事態に発展してしまいます。パーシーが病気になり、部屋を病室として使うことになってしまったのです。
文書を取り出したくてもできない状況のまま9週間が経過しました。ようやく訪れたチャンスも、パーシーが起きていたため失敗。翌晩に再チャレンジするも、張り込んでいたホームズにより捕まってしまいます。
多すぎた証拠
ホームズが最後に述べていますが、あまりにも多い証拠が真相解明から遠のいてしまった原因です。第一にタンギー夫人。夫を思いやっての行動でしたが、慌てて帰宅したことで疑いが向いてしまいました。年金で借金を返済したことも、偶然が重なった不運の一つでしょう。
次いでチャールズ・ゴローは残業とフランス系の家系で疑われますが見当違い。あらゆる可能性を考えてホームズはホールドハースト卿にも話を聞きますがシロ。これら些細な証拠によりことが難解となり、次の重大な事実が隠れてしまいました。
- パーシーはジョゼフと一緒の汽車に乗るつもりだった
- パーシーの家族やハリスン兄妹は役所の内部を知っていた
- 呼び鈴が鳴らされた
- 隠れる場所がないため外部からの侵入者が盗んだ
この四つが指し示すのは明らかにジョゼフです。そして文書が盗まれたにもかかわらず9週間も音沙汰がなかったこと。これは取り出せない状況に陥ったことを指し示し、そんな状況に陥ったのはパーシーに部屋を使われてしまったジョゼフだけということになるわけです。
ドラマについて
ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1984年に本物語を放送しました。以下は原作との主な相違点です。
- パーシーがゴローにホールドハースト卿に呼ばれた理由を説明する
- ホームズがパーシーから事情を聞いていた休憩中にジョゼフと話す
- 辻馬車の捜索を御者に頼む
- ホームズとワトスンが外務省の現場を調べる
- ホームズがハドスン夫人にサプライズを手伝ってくれたお礼を渡す
- ホームズがベイカー街のアパートにアニーを呼んでいる
ちょっとした違いはあるものの、ストーリーはかなり原作に忠実です。序盤の違いで重要な点は、パーシーが説明中に発作を起こすこと。その治療中にホームズがジョゼフと話し、株をしていることや列車のことなどを聞き出しています。
原作ではホームズとワトスンはロンドンに帰ってすぐスコットランド・ヤードへ行きますが、ドラマでは外務省を訪問。ゴローに会ったり、現場を調べることに加え、フォーブズ刑事ともこの場所で会う変更が施されています。
ホームズとジョゼフの格闘がシルエットで表現されているのもドラマならではの要素。そしてホームズは用意周到にアニーをベイカー街のアパートに呼んでおき、兄の悪事を話すようパーシーを促します。
感想
時間的なタイミングが悪く不運ではありますが、それよりも不用心だと思いました。通用口は鍵がかかっておらず誰でも入ることができ、パーシーも少しの間とはいえ文書から目を離したからです。仮にも役所で重要な任務を受けたのだから、もっと警戒する必要があったはず。ただ好運だったジョゼフも、パーシーに部屋を取られ不運返しをされるのが面白いところです。
ホームズがバラについて次のように語りました。
よけいなものを与えてくれるのが神の恵みです。だからこそ、われわれは花からたくさんの希望を得られるのでしょう
出典元:角川文庫『シャーロック・ホームズの回想(海軍条約文書)』コナン・ドイル/駒月雅子訳
おそらくこれは自分をバラにたとえて、パーシーとアニーに希望を持たせようとしたのでしょう。もしくはホームズの人生を飾る謎(今回の相談)をバラという神の恵みにたとえたとも解釈できます。パーシーやアニー同様、最初は何を急にロマンチックなことを言いだしたのかと思いましたけどね。
そしてあまりにも早く結論に達したがゆえに出た「僕自身を疑う」発言。カッコよくも微笑ましくもありますが、パーシーの立場からすれば「早くしてくれ」という思いでしょう。それにスコットランド・ヤードは本当に9週間も何をしていたんだということになります。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のホームズ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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